「岸田棒読み内閣」に物申す
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・岸田内閣は首相はじめ閣僚たちが公開の場で話すとき、メモを棒読みする人たちばかり。
・参議院予算委員会でも林芳正外相、野田聖子内閣府特命担当相らは軒並み片手につかんだ答案用紙をただ読みあげるだけだった。
・もう少し人間らしい話し方、政治指導者らしい答弁ぶりをみせてほしい。
岸田内閣は岸田文雄首相はじめ閣僚たちが公開の場で話すときに、事前に準備したメモを棒読みにする人たちばかりである。自分の頭脳で考え、自分の発声で表現するという政治指導者の基本能力がないのだろうか。
自分の言葉で話すという実例は、いま全世界で悪評を浴びるロシアのプーチン大統領が最たる代表だろう。アメリカのトランプ前大統領も事前に草稿を読み上げることは少なかった。日本でも小池百合子東京都知事は人前で単に草稿を読むという感じは少ない。
岸田内閣は昨年10月に誕生して、すでに5カ月である。もうそろそろ行政に慣れたという感じが出てきてよいだろう。ましていまの日本はコロナウイルスの大感染がなお続き、国家的な危機にある。国際的にも中国や北朝鮮の脅威に加えて、ロシアの大侵略が衝撃波を広げる。
日本政府の幹部たちにはしっかりリーダーシップや判断力、認識を示してもらいたいという国民の期待は高いのだ。だが大臣たちがだれが書いたのかもわからない原稿をただ読みあげるだけでは人間としての指導性などまったく伝わってこない。
岸田首相は外務大臣を4年半も務め、首相就任の当初は外交通という評判だった。だが外交も内政も重要案件は自分の頭に入っているという印象がまったく希薄である。自分自身の言葉で話しているという感じがしないからだ。記者会見でも他の質疑応答でも、とにかく誰かが準備した原稿を読みあげることが多いのだ。
人間同士のコミュニケーションでは一方が自分の頭に浮かんだ意見や感想をそのまま自然に口から発するという場合と、すでに紙に書かれた字句をただ読み上げる場合とでは、疎通の度合いがまるで異なる。ごく当たり前のことである。
だが人間だれでも、自分の頭に理解がないこと、考えつかないことは、自然と口に発することはできない。だから事前に準備したスクリプト(台本)が必要になる。だが単に読み上げるというメッセージでは聴く側の人間の心や頭にビーンと響かないのも当然だろう。
だから岸田内閣の大臣たちが首相はじめとして、国会でも、テレビでも種々な発言をしても、そこにはよくも悪くも人間性を感じさせる要素が少なくなる。
総理大臣が所信表明のような重要政策演説をする場合は別だとはいえよう。きわめて広大な領域についての複雑で高度の政策を長時間、詳しく語るというのであれば、草稿を準備することも不可欠となってくる。だが日ごろの記者会見は別である。国会での自由であるはずの質疑応答もそうだろう。自分自身の言葉があってしかるべきだ。
ところがつい3月1日の参議院予算委員会での質疑応答を視聴して、岸田内閣の閣僚たちの草稿棒読みぶりには唖然とした。野党の代表たちの質問に対して林芳正外相、野田聖子内閣府特命担当相らは軒並みに片手につかんだ答案用紙をただ読みあげるだけなのだ。
林外相にしても野党側が単にロシアのウクライナ侵攻への日本政府の対応を問うだけの質問に対して、証人席に立ち、うつむいて草稿を読むだけ、顔をあげて質問の相手や議場を一顧だにすることがなかった。まったく機械的なのである。しかもその答弁の内容は「国際規則を破り、国際秩序を力で変えることは断固として許せない」という程度の、すでに日本政府がさんざん表明した公式声明の繰り返しなのだ。
▲写真 日米豪印戦略対話(Quad)外相会議に臨む林芳正外相とブリンケン米国務長官(左)2022年2月11日、オーストラリア・メルボルン 出典:Photo by Sandra Sanders – Pool/Getty Images
野田大臣も短い質問への短い答えなのに、ただ紙を読むだけ、これまた顔をあげることがなかった。同様に後藤茂之厚生労働大臣、鈴木俊一財務大臣、松野博一官房長官と、みな同様だった。草稿の棒読みの答弁で、うつむいたままだった。
岸田内閣といえば、岸田首相をはさんで両脇に林芳正、野田聖子という閣僚が並ぶのだが、その林、野田のご両人が棒読み発言なのだから、全体の水準は推して知るべし、である。
もう少し人間らしい話し方、政治指導者らしい答弁ぶりをみせてほしいところである。
トップ写真:記者会見に臨む岸田首相(2021年12月21日) 出典:Photo by Yoshikazu Tsuno – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。