印、中国製通信機器の排除へ
20220314 中村悦ニ(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・華為技術やZTEなどの事務所に立ち入り検査を行う印国税庁。
・その背景には、中国の「一帯一路」戦略や国境を巡る軍事衝突による懸念がある。
・印政府は、中国企業への規制強化やクワッド会合を通して、安全保障の向上を図っている。
インド政府が中国製通信機器・ソフトの排除に動いている。インド国税庁は先月、脱税などで中国の通信機器メーカーのファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)のインド3か所の事務所に立ち入り検査を行い、聞き取り調査も実施した。同じく中国企業のZTE(中興通迅)のインド事務所にも同様な検査を行っている。背景には、国境紛争に絡む対中感情の悪化、安全保障面からの中国製通信機器・アプリ使用への懸念がある。
インドは現在、13都市で5G(第5世代移動体通信)の検証実験をしている。商用化については、シータラーマン財務相が2月1日の来年度予算演説の中で「2022年に周波数割り当ての入札を行い、2022-2023年内に始める」ことを明らかにしている。
ファーウェイとZTEはすでに5Gの検証実験から排除されており、携帯電話会社間では、独自の5G機器開発や基地局などの欧米メーカーからの調達、4G向けでもファーウェイ製からノキアやエリクソン製への代替の動きが急だ。
ファーウェイは1999年、インドのシリコンバレーとして知られ、米国の動向を素早く知ることができると同時に優秀なソフト技術者が集まるバンガロール(現ベンガルール)にファーウェイ・インディア・リサーチ・アンド・ディベロップメント(R&D)を設立。
2015年2月には20エーカー(約8万940平方メートル)の地にR&D施設を新設し、技術者規模を2700人から5000人とするとした。インドを市場としてだけでなく、技術開発の拠点、顧客サポートなどで活用してきている。
インド国税庁の調査は2月15日にファーウェイの3事務所(デリー、グルグラム、ベンガルール)でなされた。容疑は脱税、支払い偽装などとされる(タイムズ・オブ・インディア紙2022年2月16日付電子版)。親会社へのロイヤリティー支払い額を巡っても問題視されているともいわれる。日本企業が海外事業展開で苦労した移転価格税制への対応を迫られているのかも知れない。
インドは、カシミール地方の帰属をめぐりパキスタンと反目しており、中国のパキスタン支援、ミャンマーやスリランカなどでの中国の「一帯一路」戦略による港湾「確保」に心中おだやかでないと見られていた。そんな折、2020年6月にラダック地方で国境を巡り軍事衝突が起こり、インド兵20人が戦死した。これを機にインド国内で対中感情が急激に悪化した。
インド政府は、中国企業によるインフラ投資案件の停止、広範な中国製品に対する関税引き上げ、「TikTok」「WeChat」といった200近くの中国製アプリの使用禁止など対中規制を強化した。
インド国税庁のファーウェイへの立ち入り検査の前にも、セキュリティー上の懸念を理由に54の中国製アプリ使用を禁じたり、インドで人気の高い携帯電話のシャオミのインド法人に対し、その輸入税65億3000万ルピーが不払いとして、支払いを命じたりしている(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙2022年2月17日付電子版)。
インド国税庁の税務調査は昨秋ごろから始まっていたようで、在印の中国商工会議所、印中携帯電話企業協会は昨年末声明を発表し、その中で「インド進出の中国製造企業は200社以上で貿易企業は500社を超える。その投資総額は30億ドル超で50万人強の雇用創出に貢献している」などとしながら「インド進出中国企業は前例のない苦難に直面している。外国人投資家を公平に扱い、中国企業に対し公正な事業環境創出」を訴えたと人民日報傘下の環球時報の英語版(Global Times)が報じている。
写真)日米豪印「クアッド」外相会談での4カ国外相による会見 2022年2月11日 オーストラリア・メルボルン
出典)Photo by Darrian Traynor/Getty Images
日米豪印の4か国外相は先月中旬、豪メルボルンでのクワッド(日米豪印戦略対話)会合で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携強化で一致している。
インドの安全保障面からの中国企業規制がどのような展開を見せていくか。ネットのセキュリティー面での対中懸念共有の観点からも注目される。
トップ写真)COP21で演説を行うナレンドラ・モディ印首相 2021年11月2日 スコットランド・グラスゴウ
出典)Photo by Ian Forsyth/Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)