インド北部ヒマラヤ山脈の山岳スキー大会、雪不足で延期
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・インド・ヒマラヤのスキー大会は雪不足で再延期され、3年連続の延期となった。
・国内選手権の開催地オーリでは、地盤沈下や雪不足が問題視されている。
・国際総合山岳開発センター(ICIMOD)はヒマラヤの雪氷圏変化が20億人に影響を与えると警告し、気候変動の深刻さを指摘している。
インドのヒマラヤ山脈にあるスキーリゾートが今冬、雪不足に見舞われている。1月末から2月初旬に計画されていたスキーとスノーボードの国内選手権は3月16日~19日に延期されたが、融雪などで雪不足は解消されず、また延期になった。タイムズ・オブ・インディア紙によると、選手権の延期は3年続きで、関係者はヒマラヤの天候異変の推移を心配している。
選手権開催地はウッタラカンド州のスキーリゾート
スキーとスノーボードの選手権開催が予定されていたのは、インド北部のウッタラカンド州のスキーリゾート・保養地であるAuli(オーリ)。オーリは海抜2,800㍍の高さで、ガーワリ語でAuli Bugyal(オーリ・ブギャル)とも呼ばれ、牧草地を意味しているという。
同州のウィンター・ゲームズ連盟のアジャイ・バット幹事は、スキーとスノーボードの選手権開催の代わりに雪山登山を企画しているという。
Jyotirmath(ジョティルマート)から12キロメートル上に位置するオーリは、冬季の国内選手権開催地になることに、これまでに4回失敗している。同紙によると、その原因は、地盤沈下、雪不足などとしている。
ヒマラヤ山脈とヒンドゥークシ山脈は、アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ミャンマー、ネパール、パキスタンの国々にまたがっている。この8カ国がつくる政府間機関である国際総合山岳開発センター(ICIMOD、本部=ネパールのカトマンズ)は地域の氷河や雪、生態系の変化を監視し、急激に変わる環境への適応策を研究・提言している。
ICIMODは1983年に、ネパールと国連教育科学文化機関(UNESCO)の提唱で設立された組織で、ICIMODはこの山岳地域を「地球のパルス(脈拍)」と呼ぶ。脈拍は、健康状態の指標。世界で最も高い位置にあり、水循環など地球のメカニズムの調整役である北極、南極と並ぶ、「第3の極=ヒマラヤ山脈」の健康状態は地球全体に影響する、というのだ。
ICIMODは「水と氷、人間社会と生態系」と題した報告書を2023年6月に発表。ヒマラヤ地域の雪氷圏の変化が「20億人の生活と自然に壊滅的な影響を与える可能性がある」と警告して注目された。
ヒマラヤの変化は、これまで大きくは注目されなかったが、世界気象機関(WMO)は「アジアの山岳氷河の融解は2022年に最高水準に達した」と警告していた。
オーリでの継続開催を危ぶむ声も
オーリが近年、冬季の国内選手権の当初予定の開催に、これまでに4回も失敗していることに対し、選手間では「オーリの気候変動の影響を考えると、もはや、オーリの降雪は期待できないのではないか」との声も聞かれるようになったと同紙は伝えている。
地球の温暖化の影響は、日本の気象状況にも影響しているとの指摘はよく耳にする。
ヒマラヤの異変は決して他人ごとではない。
写真)オーリのヒマラヤ山脈
出典)Amrendra Anupam/ Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)

