世界競争力ランキング、シンガポールがトップ保持を継続できるか
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・シンガポールは2024年のIMD競争力ランキングで1位。 2025年も維持できるか注目。
・人材育成や生産能力の強化が競争力の要因。 製薬分野が成長し、大手企業が進出。
・政府の支援が強く、日本企業との協力も進む。 EDBや研究庁が企業を支援。
スイスのビジネススクールである国際経営開発研究所(IMD)が昨夏発表した2024年の世界競争力ランキングでは、シンガポールが4年ぶりに1位に返り咲いたが、2025年の同ランキングでその座を保持できるかどうかが注目されている。
また、日本は昨年のランキングで38位にまで落ち込み、香港や台湾、米国、豪州、中国などに後れを取った。シンガポール、スイス、デンマーク、アイルランドなどどちらかというと小国は良い評価が出がちであるが、それにしても38位というのはいただけない。(図1・図表2参照)
▲図表1 IMD「世界競争力年鑑」2024年 総合順位 出典:IMD「世界競争力年鑑2024」を基に作成の三菱総合研究所資料
▲図表2 日本の総合う順位の推移 出典:IMD「世界競争力年鑑」各年版を基に作成の身う微視総合研究所資料
シンガポールの優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステム
シンガポールがトップに躍り出たのは、優れた人材を育成・誘致し、生産能力増や研究開発のエコシステムづくりを振興した結果だ。
例えば、製薬部門を強化し、バイオ医薬品分野で雇用された人数は、2000年代に比べ2倍以上の9,000人を超えている。
収益で世界トップ5の製薬企業の内、ファイザー、ノバルティス、サノフィ、アムジェンがシンガポールに製造拠点を構えている。
その背景には、地の利はもとより、シンガポールには多様性に富んだ優秀な人材が集り、新製品開発などでの切磋琢磨が激しいことが上げられるという。
政府の後押しも強力
シンガポールでは、競争力アップに向けた政府のバックアップも強力だ。
シンガポール経済開発庁(EDB)は企業に対する支援を行っており、シンガポール科学技術研究庁は、製薬工場の競争力強化などに向けてはEDBとタッグを組み、世界クラスの科学研究体制整備と人材育成に励んでいる。シンガポール科学技術研究庁は、日本で言えば科学技術振興機構(JST)に相当する官庁で、起業支援も行っており、新たに起業を行う人への資金・設備の提供を行い、投資家にはネットワーク面などでの支援を行っている。
日本企業との協力も推進
EDBやシンガポール科学技術研究庁などと日本企業との協力も進みつつある。
武田薬品は、シンガポールの製薬業界において初となる炭素排出量ネットゼロのゼロ・カーボン・エミッション・ビルを2023年3月に開所した。同ビルは消費するエネルギーの115%以上を敷地内の再生可能エネルギー設備で生産している。このため、シンガポール建築建設庁からグリーンマーク制度の「Platinum Positive Energy」の認定を受けた。同社は2035年までに自社の事業活動における温室効果ガス排出量をゼロにすることを目標にしている。
竹中工務店は、オープンイノベーションプラットフォーム「CO-creation Takenaka Laboratory(COT-Lab)」のシンガポール拠点であるCOT-Labシンガポールを通じて昨秋、「持続可能な建築環境のためのサーキュラーデザインビルド(Circular Design-Build)」と題したパネルディスカッションイベントを開いている。
トップ写真:マリーナベイ金融地区の航空写真(2023年11月6日)出典:John Seaton Callahan