上海「ゼロコロナ政策」に学生反発
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・上海で「ゼロコロナ政策」に反対する学生と警察が衝突。「天安門事件」以来最大の学生運動。
・“科学的防疫”を主張する医師の声、様々な市民の『4月の声』は次々とネットから削除。
・共産党が「経済に関する問答」を掲載。ロシア・ウクライナ戦争による農産物価格、エネルギー価格上昇を説明。
目下、中国では31省市中30省市が一部または大部分でロックダウンを実施中である。そこで、中国最大の都市、上海市の動向が注目されている。
第1に、最近、同市の名門、復旦大学で、「ゼロコロナ政策」に反対する学生と警察の間で衝突が起きた(a)。1989年の「天安門事件」以来、最大の学生運動だという。
第2に、今年4月19日、上海財経大学公共経済経営大学院長の劉小兵が微博(中国版ツイッター)で、“科学的防疫”を勧告(b)した。
劉院長は、(1)コロナの統制期間を短縮せよ、(2)1人が陽性確定診断を受ける、または陽性の疑いがあると、その人の住む建物全体を封鎖するが、それをやめよと訴えた。しかし、その文章は半日でブロックされている。
第3に、今年4月、上海のロックダウンに関する様々な市民の声が寄せられ、それが『4月の声』という形でネット上に公開(c)された。けれども、中国当局は、早速、それを削除している。
第4に、同月、普通の上海市民と称する“摩耶夫人”の「上海人の忍耐はすでに極限に達している」という文章(d)が登場した。長文なので、最初のくだりだけを抄訳してみよう。
まず、地元の上海住民は、5歳児の父親で、治療を受けている癌患者だが、4月3日、突然、気分が悪くなり病院を訪れた。
前日、彼は町内でPCR検査を受けていたが、病院のPCR検査も受けなければ治療が受けられない。結局、彼は待っている間に死亡した。死の直前、彼は最後に「お母さん、医者に聞いて欲しい。僕のPCR検査結果は出たのか?」と言った。彼の死亡から2時間後、同検査は陰性と報告された。
次に、ある地区衛生健康委員会の幹部は、医大を卒業し、聡明なプロフェッショナルとして働いていた。だが、巨大な圧力の中、事務室で縊死したとネットで伝わっている。
そして、生まれて14日目の新生児が、両親と分離・隔離されて病室へ送られた。・・・母親は赤ん坊と一緒に隔離してもらい、子供に母乳を飲ませるよう病院に求めた。「陽性の保護者は子供と一緒に隔離できる」というブリーフィング後のことだった。
更に、多くの住宅地区の小中学校は、突然、四角い船室(病室)になった。そのため、住民は抗議している。先生の本は学校の中にあり、学生は私物を保管していた。一部の寄宿舎には、まだ学生が住んでいる。
果たして、今学期、始業できるのか。・・・卒業間近のクラスの前途はどうなるのか。今日、上海の大風と暴雨で、急いで完成した四角い船室はすべて屋根から水が漏れている。陽性患者がいる場所では、相次いで布団ベッドと人々がびしょぬれになった。
写真)野菜などが買い占められ棚から消えたマーケット(2022年4月25日 中国・北京市)
出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images
さて、中国共産党は『新華網』に「現在の中国経済に関する10の質問」という注目すべき問答を掲載(e)した。
各項目、それぞれ興味深い。だが、紙幅の関係で、ここでは、特に重要だと思われる第10項目(「いろいろな課題がある中で、どのように食糧とエネルギーを供給し、価格を安定化するか」)の一部を紹介しよう。
近頃、農産物価格は上昇している。というのは、4月第2週、尿素、リン酸二アンモニウム、塩化カリウムの卸売り価格が1トン当たり35.5%、17.9%、82.4%も上昇したからである。中国のカリウム肥料消費量の3割近くはロシアとベラルーシから輸入している。だが、ロシア・ウクライナ戦争で両国からの輸出は滞っている。
昨年、中国が輸入した大麦とトウモロコシは、約30%がウクライナ産だった。また、今年第1四半期の中国の大豆輸入量は2,028万トンで、数量では前年同期比4.2%減、金額では20.9%増となった。輸入大豆の価格が上昇している。
他方、ロシア・ウクライナ戦争等の影響で国際エネルギー価格が高騰し、海外からの石油・ガス購入のリスクが高まった。中国の天然ガス輸入量は前年同期比68.7%増となった。
ところで、劉鶴副首相は民衆の抵抗と経済の下押し圧力の中、「ゼロコロナ派」(「習派」)と国務院「実利派」(「反習派」)間の“膠着状態”を何とか打開した。それは両者の“小さな妥協”があった(f)からではないだろうか。
(注)
(a)『時刻新聞』「上海復旦大学騒動の暴露 中南海、6・4後、最大の大学生運動と認定」(2022年4月22日付)
(https://www.timednews.com/article/2022/04/22/17783.html)。
(b)『rfi』「『ゼロコロナ政策』批判への消音:ウイルス専門家の鐘南山が全人代兼上海財経大学公共経済経営大学院長の劉小兵の文章を封殺」(2022年4月20日付)
(https://amp.rfi.fr/cn/中国/20220420-批-清零-消音-专家钟南山-人大学者刘小兵文章被屏蔽)。
(c)『DW』「4月の声:封鎖が厳しければ厳しいほど、反発は激しくなる」(2022年4月23日付)
(https://www.dw.com/zh/四月之声封得越凶-转得越猛/a-61568042)。
(https://www.rfi.fr/cn/专栏检索/微言微语/20220417-上海人的忍耐已经到了极限)。
(e)新華網(2022年4月18日付)当前中国经济十问-新华网
(http://www.xinhuanet.com/money/20220419/f16917e7072d4384a933f64cb3823196/c.html)。
(f)『VOA』「皆で時事問題を話そう:上海の貨物流通停止はどこに問題があるのか?国務院の劉鶴は打開できるのか?」(2022年4月22日付)
写真)ロックダウンの上海で食糧供給の登録をする市民(2022年4月22日 上海市)
出典)Photo by Getty Images/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。