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.国際  投稿日:2022/7/19

中国上半期の注目すべき経済指標


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

 

【まとめ】

・今年第2四半期(4-6月)の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比の0.4%の伸びに留まった。

・主要都市の第2四半期のGDPは経済発展の中核地域である上海市の第2四半期は-13.7%、成長のエンジンである広東省は、+0.7%に留まる。

・今や不動産問題は中国で最も恐ろしい問題。6月の16〜24歳の都市調査失業率は19.3%と、2018年のデータ発表以来、最も高い数値。

 

今年(2022年)5月、WHOのテドロス事務局長は、中国の「ゼロ・コロナ戦略」はもはや持続不可能だと語っている(a)。ところが、習近平政権は、「ゼロ・コロナ政策」に変更はないと反駁した。

そして、7月14日、『人民日報』は「我々の防疫措置は最も経済的で効果的である(人民の観点から)―揺るぎなき『動態的ゼロ・コロナ政策』の総方針を堅持する①」という論評(b)を掲げている。

だが、翌15日、中国国家統計局は、注目すべき経済指標を発表した。今年第1四半期(1-3月) の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比の4.8%(c)だったが、第2四半期(4-6月)は前年同期比の0.4%の伸び(d)に留まったのである〔図表1〕(なお、上半期の GDPは前年同期比2.5%増加)。

〔図表1〕(出所)国家統計局HP

『ラジオ・フリー・アジア (FRA)』「中国の第2四半期のGDPは0.4%まで衰退 ロックダウンで上海のGDPは-13.7%と厳しい状況」(2022年7月15日付)という記事(e)が興味深いので、その内容を紹介しよう。

今年前半、習政権は「ゼロ・コロナ政策」を堅持し、ロックダウンを含む厳格な統制手段を取った結果、既述の通り、第2四半期のGDPは0.4%に留まった。

統計局は第2四半期成長率がほぼゼロ水準に急落したことについて次のように説明している。

世界経済のスタグフレーションのリスクが高まり、主要経済圏の政策が緊縮し、外部の不安要因が目立って増えた。また、国内のコロナの影響はまだ完全に払拭されていない。そのため、「需要の収縮」と「供給の衝撃」で、経済回復の基礎が堅固ではない、と。

けれども、台湾国立雲林科技大学の鄭政秉教授は、中国の第2四半期のデータを別の角度から解釈する。

各主要都市の第2四半期のGDPを見ると、経済発展の中核地域である上海市の第2四半期は-13.7%、北京市は-2.9%、江蘇省は-1.1%、吉林省は-4.5%、海南省-2.5%と落ち込んでいる。

成長のエンジンである広東省は、+0.7%に留まった〔図表2〕。GDP3%増以上は経済的に2次的省市の山西省や広西チワン族自治区などである。

〔図表2〕(出所)国家統計局HP

金融ジャーナリストである王剣は、『FRA』のインタビューの中で、例えば、中国で最も経済が発展している広東省では、現在、学生労働者の時給は5、6元(約100〜120円)で、出稼ぎ労働者の時給は雑用で9元(約180円)しかないと喝破した。そして、広東省は20年前の水準に戻ったと評している。

写真)中国・上海の駅出口で待機する防護服を着た職員たち(2022年6月12日 中国・上海)

出典)Photo by Hugo Hu/Getty Images

王剣は、「賃金は経済状況を反映するものであり、広東省の景気は良くないし、長江デルタ(上海市と江蘇省南部・浙江省北部を含む、長江河口の三角洲を中心とした地域)の景気も良くない。民間航空や高速鉄道は赤字、旅行会社や教育機関は閉鎖、優良ネット企業も人員整理中である」と述べた(上半期に最も数字が良かったのは輸出で、13.2%増であった)。

中国の不動産開発投資は、1月から6月まで前年同期比5.4%減〔図表3〕、うち住宅投資は同4.5%減と、厳しい数字となった。王剣は、中国の不動産の経済への貢献度は32%と広く知られているが、ほぼすべての数値が急激に低下し、不動産が経済を圧迫していると述べた。

〔図表3〕(出所)国家統計局HP

一方、鄭教授は中国の不動産危機は、単に各種数値の悪化だけではないと考えている。

河南省郷鎮銀行の預金不払い、あるいは、中小零細地方銀行の資金難は数百億元にも及ぶ。「未完成建物事件」などと相まって、今や不動産問題は中国で最も恐ろしい問題だと指摘した。

また、鄭は、次のように説明する。中国は1980年代以降40数年間、不動産が大変な役割を果たし、中国経済の急成長の主要動力だった。人々は不動産に多額の投資をしているので、現在、構造的リスクがますます高まっている。

他方、6月の16~24歳の都市調査失業率は19.3%と、5月(18.4%)よりも1ポイント近く高く、2018年のデータ発表以来、最も高い数値を記録した。

『中国経済観察報』が発行した2022年2四半期の経済学者アンケート調査によると、安定成長に最も注目すべき問題は何かという問いに対し、61%が「雇用が最も重要だ」と答えた。

更に、鄭教授は、昨年、習政権が「左翼化」(=日本語では「右翼化」)を始め、ゲームやインターネット等の革新的産業を抑圧したので、若者が新しい産業に参入する際、多くの問題に遭遇していると指摘した。

その結果、大学卒業者はコンピュータや通信、AIロボット、インターネットなどの先端分野から公務員試験志向に移行している。若者が将来に対して悲観的であることを示していると、鄭は付け加えた。

中国政府は、3月、今年のGDP成長率を5.5%に設定した。だが、中国の経済学者17人は年間GDP成長率を平均4.33%と展望している。

(注)

(a)『ヘルス・ポリシー・ウォッチ』「中国は『ゼロ・コロナ』戦略を擁護、テドロスの発言は『無責任』と非難」(2022年5月11日付)

(https://healthpolicy-watch.news/china-defends-no-covid-strategy-tedros-who/ )。

(b)『人民日報』(2022年7月14日付第5面)

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-07/14/nw.D110000renmrb_20220714_1-05.htm)。

(c)『国家統計局』HP(2022年4月19日付)

(http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202204/t20220419_1829775.html)。

(d)『国家統計局』HP(2022年7月15日付)

(http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/202207/t20220715_1886514.html)。

(e)『ラジオ・フリー・アジア (FRA)』(2022年7月15日付)(https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/hcm-07152022011538.html)。

トップ写真:建設現場での作業終了後、現場を離れる労働者。屋台で足を止める労働者も。(2022年7月15日 北京)

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




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