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.国際  投稿日:2022/4/19

中国李首相、ゼロコロナ政策と対立


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国の李克強首相は来年3月に辞任する意向を表明した。

・首相は習近平主席が主導するゼロコロナ政策に対立する経済優先政策をとっている。

・習政権は20日から開催されるボアオ・アジア・フォーラムで各国からの投資を期待している。

 

周知の如く、習近平主席は、今年(2022年)秋の第20回党大会で、第3期目を目指している。習主席は、鄧小平の「改革・開放」路線を捨て、社会主義路線(「国進民退」=国有セクターが伸張し、民間セクターが縮小)へ回帰した。そのため、中国経済は低迷している

他方、今春、李克強首相は来年3月に総理を辞任すると発表(a)した。今年4月に入ると、李首相は、俄然、旗幟鮮明にしている。

李首相としては、今のままでは中国経済が破綻すると考えたのかもしれない。おそらく、「反習近平派」(曽慶紅元副主席、王岐山現国家副主席、朱鎔基元首相ら)が李首相を後方から支えているのだろう

さて、4月8日と11日、李克強首相は2度、重要会議を開催した。特に、首相は江西省での全日程を「ノーマスク」を貫いた。これは明らかに、習近平政権の「ゼロコロナ政策」に異を唱える行動(b)だろう。

更に、同月13日、李首相は、国務院常務会議を開催した。そこでも、首相は前2会議と似た指示を出した(c)。

(1)経済のファンダメンタルズを安定させ、人々の生活を守り向上させるため、消費促進の政策的取り組みを行う。(2)輸出還付金など対外貿易の安定的発展のため、支援をさらに強化する。(3)市場関係者の資金調達コストを削減するため、実体経済への金融支援強化策を打ち出す。

これらの“経済優先政策”は習政権の掲げる「ゼロコロナ政策」と真っ向対立する。ただし、党メディアは、相変わらず「ゼロコロナ政策」を強調(d)している。

▲写真 ロックダウン下の上海で薬局からの薬デリバリーを受けとる中国人 (2022年4月16日) 出典:Photo by Getty Images News / gettyimages

しかし、少なくとも、上海の惨状を見る限り、北京政府の掲げる「ゼロコロナ政策」は事実上、失敗(e)したと言っても過言ではない。上海の状況からわかるように、今年、中国のGDPはコロナが蔓延した2020年同様、落ち込む公算が大きい。

年初、中国共産党の公式統計によると、2021年上海のGDPは初めて4兆3200億元(約86兆4000億円)を超え、ニューヨーク、東京、ロサンゼルス、ロンドンなどいくつかの都市と肩を並べた(f)という。上海のある専門家は「2022年の中国の経済成長率を5.5%と計算すれば、上海のGDPは5兆元(約100兆円)を突破する」と豪語していた。

ところが、海外の別の経済専門家によれば、上海市のロックダウン措置で経済的損失は1日100億元(約2000億円)に達する(g)という。1ヶ月で3000億元(約6兆円)にのぼる。

また、中国の100大都市のうち4分の3近くが防疫関連の規制措置を取っている。これらの都市全体で中国GDP(国内総生産)の半分を超える(h)という。

4月12日、世界銀行は、今年、中国の経済成長率の見通しを5.4%から5%に下方修正した。また、世銀は、コロナの影響が予想以上に大きい場合、4%にまで落ち込む(g)と示唆している。

一方、習近平主席は、4月10日から13日まで、海南省を訪問(i)した。側近の丁薛祥(中央弁公庁主任)、劉鶴(副首相)、陳希(中央組織部長)、何立峰(国家発展改革委員会主任)らが主席に帯同した。

同省はコロナ対策が上手く行っている数少ない地方(j)である。実は、4月20日から22日にかけて、ボアオ・アジア・フォーラムが開催(k)される。習政権としては、各国から中国への投資を期待している。だが、果たして、思惑通りになるだろうか。

 

<注>

(a)『ボイス・オブ・アメリカ』「李克強、来年3月に国務院総理を退任することを表明」(2022年3月11日付)

https://www.voachinese.com/amp/chinese-premier-li-confirms-he-will-step-down-next-march-20220311/6480434.html

(b)『アポロ新聞網』「李克強の意図的なシグナル…中国共産党の権力闘争を公開?」(2022年4月15日付)

https://www.aboluowang.com/amp/2022/0415/1735415.html

(c)『新疆政府網』(李克強は国務院常務会議を主宰し、経済ファンダメンタルズの安定と国民生活の改善を保障するなど、各部門が消費促進政策措置を実施し、助力するとした)(2022年4月14日付)

https://news.sina.cn/gn/2022-04-14/detail-imcwiwst1820068.d.html?from=wap

(d)『人民日報』「正確な科学で『動態的ゼロコロナ政策』を堅持する」

(2022年4月16日)

http://opinion.people.com.cn/n1/2022/0416/c1003-32400527.html

(e)『BBC News中文』「上海のコロナ流行で中国の防疫政策が右往左往している」

(2022年4月11日付)

https://www.bbc.com/zhongwen/simp/chinese-news-61065997

(f)『中国瞭望』「中国でGDP1位の上海が、大飢饉に見舞われている」

2022年4月14日付

https://news.creaders.net/china/2022/04/14/2472962.html

(g) 『自由時報』「上海都市封鎖の損失1日450億台湾元、専門家、中国経済は空前の挫折の恐れ」(2022年4月8日付)

https://ec.ltn.com.tw/amp/article/breakingnews/3886134

(h)『自由時報』

「経済は悪化するだけ! 中国の第1四半期のGDPを分析するための5つのポイント」(2022年4月17日付)

https://ec.ltn.com.tw/article/breakingnews/3896380

(i)『中華人民共和国中央人民政府』「習近平の海南訪問:アイデアとイノベーション、団結で奮闘し、困難を克服して、中国の特色ある世界で影響力を持つ自由貿易港の建設を加速させる」(2022年4月13日付)

http://www.gov.cn/xinwen/2022-04/13/content_5685109.htm

(j)『海南網』「【エピデミック・ニュース】海南省は側面からボアオ・アジア・フォーラム年次総会期間中の防疫を徹底」(2022年4月15日付)

http://www.hkwb.net/content/2022-04/15/content_4072954.html

(k)『海南日報』「ボアオ・アジア・フォーラム2022年年次総会が開催」(2022年4月17日付)

http://hq.news.cn/news/2022-04/17/c_1128567296.htm

トップ写真:重慶市人民大礼堂で執り行われた北京オリンピック・パラリンピックで活躍した選手の功績をたたえる式典に参加する習近平主席と李克強首相 (2022年4月8日) 出典:Photo by Kevin Frayer / gettyimages




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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