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.社会  投稿日:2022/10/8

“コロナ留年”の議論から逃げないことの重要性


金田侑大(北海道大学医学部医学科4年)

 

【まとめ】

・東京大学“コロナ留年問題”はもはや、東京大学だけの問題ではなくなってきた。

・日本の医療系の国家試験では、コロナ感染者に対する追試験等は実施されていないのが現状。

・真にアカデミックフリーな環境は、学生と大学が、共同してつくるもの。

 

東京大学で発生した“コロナ留年問題”に関してですが、これはもはや、東京大学だけの問題ではなくなってきました。

日本の多くの医学部では4年生時にCBT・OSCEという試験があります。これは医師免許の仮免試験のようなもので、すべての医学生が臨床実習を開始する前に受験し、合格することが必須となっています。試験範囲が、4年間の学習内容すべてになるため、勉強量は膨大で、多くの医学生が得意とする一夜漬け勉強は、残念ながらここではあまり通用しない試験です。合格すると、病院である程度の手技ができること、および、病院で実習ができるだけの知識がある程度はあるという技能・知識が保障され、“Student Doctor”として認定され、病院で実習を行うことになります。

そのため短い人なら1か月、長い人は1年ほどかけて準備をすることになるのですが、私が学ばせていただいている北海道大学では、コロナの感染とその後遺症により、これらの試験を受験することができなかった学生がいます。彼を留年させるのか、はたまた、進級のための措置を実施して下さるのか、北大の進級発表は10月上旬にありますが、非常に気になるところです。

CBT・OSCEは「公益社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構」という独自組織が実施しており、来年度より公的試験として扱われます。そのため、上述した北大生の進級のための措置を行うかどうかは、北大の判断というよりはむしろ、こちらの機構の意向が重視されるものと思います。しかし、悲しい事実として、医療系の国家資格である医師、看護師、介護福祉士等の国家試験において、本試験と同等の質や量を担保する試験問題を短期間で作成するのは困難だとして、コロナ感染者に対する追試験等は実施されていないというのが現状です。国はコロナ対策として強制隔離や入院措置、水際対策などを、感染症法に基づいて講じるにもかかわらず、それによって脅かされる学生の機会が保障されないことは、とても大きな問題であると感じます。

そもそも論としてですが、教育の主役は学生です。私は昨年9月から今年の7月まで、英エディンバラ大学で学ばせていただきましたが、このことを強く感じました。コロナ禍という変則的な状況での留学でしたが、試験のオンライン化や感染時の金銭的支援など、学生が主体の教育を継続するためのサポートが大変充実しておりました。

欧米では国からのお金は基本的に、学生に対して奨学金という形で向かいます。そのため、学生はその奨学金を元手に、自分が何を学びたいか、そのためにはどこの大学が最適かを評価・判断し、結果として、学習環境のサポート体制等が充実している大学に、優秀な学生が集まるという仕組みができています。そのため大学側も、国を見るのではなく学生からの視線を重視し、彼らの声を拾い上げ、教育環境の充実に力を入れます。組織全体として優秀な教員、研究者の確保に必死であり、出入りも激しいですが、結果として学生からの評価に最も力点が置かれる組織づくりが実現されています。

一方で日本では、国からのお金は私たち学生にではなく、大学に向かいます。そのため大学も、私たち学生ではなく、基本的には文科省や厚労省など、政府の意向を非常に重視します。政府や大学の方針に対して意見する研究者や学者は、“異端”として干されてしまうため、基本的に大学教員が国の問題や方針に対して声を上げることは多くはありません。そして、その傾向は学生にも見受けられます。“東大コロナ留年問題”は、東大生全員が授業をボイコットして、学部の対応の是正を求めてもよいぐらいの事象であると、私は感じます。かつて1960年代に、医学部の処分問題や大学運営の民主化などの課題のために立ち上がった彼らですが、今回の件では、誰も立ち上がろうとはしません。

それも仕方のないことだと思います。大学の成績はブラックボックスです。“東大コロナ留年問題“で声を上げた杉浦蒼大さんは、異議申し立てを行った後で減点されたことの理由に関して、未だ、東大側から直接の説明は受けておりません。(東大はメディアに対して、減点の理由が成績の入力ミスによるものであったと述べています。) その上、東大側は単位が認定された学生に訂正の機会が与えられない現行の制度を見直す余地はなく、また、成績評価に誤りはないことが前提となっていると、日本の政府にありがちな、伝統的な無謬性の原則を示しています。

声を上げることで自分に不利益が生じてしまうかもしれない状況で、立ち上がることは大変勇気のいることです。一体これまでに何人の学生が、光の当たらないところで不当な成績評価を受けてきてしまったのでしょうか。他人事として目を背ければうまくいく。そのような”ことなかれ主義“が蔓延してしまっているのが、今の日本の大学です。東大が世界で高い評価を受ける大学であり続けるためにも、杉浦さんが今回勇気を出して立ち上がったことを、内部で揉み消し、なかったことにしてしまうようなことは、決してあってはならないと思います。

日本国憲法において、学問の自由が規定され、その権利が保障されています。日本が立憲国家である以上、東大と学生との間で交わされる種々の契約においても尊重されるべきです。そして、学問の自由と不可分の概念として、大学の自治があります。すなわち、大学内の種々の事象について、外部から干渉を受けずに、大学構成員により意思決定を行い、管理、運営する体制が大学に求められています。政府の意向を伺いながら、大学の動向を伺いながら行う学問は、決して学問ではありません。真にアカデミックフリーな環境は、学生と大学が、共同してつくるものです。

それを実現するためにも、コロナ留年問題に関して、現在署名活動を発起させていただいております。以下がそのURLになります。

https://bit.ly/3SYyou0  

10月中に文部科学省に提出に伺いたいと思っております。署名は1分で完了し、それが公に公開されることはございません。何卒お力添えのほど、よろしくお願いいたします。

トップ写真:東京大学教養学部

出典:ⒸAkira O. (東京発フリー写真素材集)

 




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