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.国際  投稿日:2022/11/9

マレーシア総選挙 マハティール氏も立候補


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・マレーシアでは1119日に行われる総選挙の立候補者が決まり、選挙戦が展開されている

・総選挙予想では「国は悪い方向に向かっている」と考える人が多く、与党連合の承認度合いも低下傾向である

・選挙後の政党の離合集散は必至だ。

 

マレーシアで、11月5日に総選挙の告示がなされ、立候補者が決 まった。その2週間後の19日の投票に向け選挙戦が展開されている。

選挙委員会によると、イスマイル・サブリ首相が属する統一マレー人国民組織(UMNO)を中心とした与党連合の国民戦線(BN)、アンワル・イブラヒム元副首相が率いる野党連合の希望連盟(PH)、ムヒディン・ヤシン前首相が先導する国民連盟(PN)、それにマハティール・モハンマド元首相が設立した連合政党である祖国運動党(GTA)や独自立候補者を含めると、立候補者総数は下院議員の定数222に対し、4倍以上の945人に上る。ペラ、パハン、ペルリスの3州議会の議員選挙も同時に行われる。

マレーシアの下院、州議会の選挙区はすべて小選挙区。このため、マラヤ華人協会(MCA)、マラヤ・インド人会議(MIC)などから成るBNの主力のUMNOは死票を避けるために、選挙区と各党立候補者の割振り・選定に関与する。今回、UMNOのザヒド・ハミディ総裁が下院178人、州議会議員117人の立候補者・立候補地選定の差配を行った。

UMNOでは、ナンバー3のイスマイル・サブリ首相の側近4閣僚が立候補者から外されてしまった。同閣僚はザヒド総裁に批判的だったとされる。

UMNOのザヒド総裁、アーマド・マスラン書記長は「候補者に次期首相をザヒド氏にすることの確約書を要求」との噂を記者会見などの場で否定している。

UMNOが率いるBNは昨年11月のマラッカ州議会選挙、今年3月のジョホール州議会選挙でPNに勝利。それをきっかけに、ザヒド氏らは早期の解散総選挙に向け、イスマイル・サブリ首相に圧力をかけたとされる。

特に、ナジブ・ラザク元首相がワン・マレーシア開発公社(1MDB)の巨額資金流用で有罪が確定し収監された8月以降、解散総選挙の早期実施の声が高まり、新聞紙上でのその動向報道は盛んとなった。閣内のPN所属閣僚が国王に議会解散に同意しないよう書簡で要請するという造反もあり、イスマイル・サブリ首相は10月10日に議会を解散した。

UMNOのラザク総裁などは、同国気象庁が、洪水や大潮をもたらす半島の北東モンスーン到来は昨年の場合11月21日以降からだった、としていたことも頭にあったようだ。11月15日が事前投票日になっている。

イスマイル・サブリ首相の場合は、この洪水・大潮到来への危惧は頭から離れないようだった。事実、マレーシア気象庁は11月7日、“クランタン州、トレンガヌ州、パハン州、ジョホール州で同8-11日に洪水の危険”と警告した。洪水・高潮をもたらすモンスーン期の到来宣言といえる。

PHは11月2日に総選挙向けのマニフェスト(公約)を発表。この中でまず、生活費高騰への助成を打ち出した。また、政権奪取の暁には副首相を二人とし、そのうち一人をボルネオのサバ州ないしサラワク州の下院議員当選者から独立後初めて選ぶと表明し、マレー半島最重視を改める姿勢を示した。中国語教育中心の中学校の地位向上を認める“多文化主義”も強調した。

さらに、今回の総選挙が、本来の任期満了を経て来年9月に実施されるはずであったことを踏まえ、下院の任期固定に関する立法を公約したほか、マレーシア反汚職委員会委員長任命の透明性にも言及している。

PHを率いるアンワル元副首相は下院議員立候補者206人を指名。

UMNOのラザク総裁は7日夜、フェイスブックで「未来への道筋」と題したBNのマニフェストを発表。この中に、低所得者向けの2%の所得税減税、病院・医療従事者の充実、第5世代インターネット網の全土カバー、母親向け裁量労働制導入企業に対する減税、移民政策の緩和、一層の外資誘致と政府系企業による一定分野への投資規制など沢山の政策を盛り込んでいる。

さて、総選挙の予想だが、独立系の世論調査機関であるムルデカ・センターが10月19日-28日に今回の選挙で選挙権を有する18歳以上の1,209人を対象に行った調査によると、国として悪い方向に向かっているとの答えが72を占め、良い方向に向かっているとしたのは20%に過ぎなかった。

悪い方向とした理由としては、32%が経済的な懸念、27%が政治的な不安定、12%が不十分で乏しい行政能力、8%が質の悪い指導性/幸福感無し、3%が人種問題を挙げた。

BN主導政府の承認度合いは9月調査の38%から31%に低下する一方、不承認度合いは51%から60%に上がった。承認度合い31%は、UMNOが敗れた2018年5月の総選挙時の39%(調査は4月)に比べても低い。非マレー人とマレー人のBNに対する不承認度合いはそれぞれ、83%、48%だった。

支持連合別では、PHが26%(9月調査では27%、以下同)、BNが24%(27%)、PNが13%(9%)、GTAその他が2%(5%)、支持連合無しが31%(31%)、回答拒否が4%(2%)となっている。

独立後15回目を迎える今回の総選挙での約2,117万人の選挙民のうち、初めて有権者となる18歳以上の若者は780万を数える。若者の間では清潔度が大きな判断基準のようだが、どのくらいが投票に行くのかの予測が難しいといった声が報道されている。

今回も立候補した97歳のマハティール氏は、“BNPHが連携するなどと早くも観測気球を上げている。UMNO陣営などは“同氏の常套手段”などと不快感を漂わせている。いずれにしても、選挙委員会は過半数を占める連合が出るまで待つ構え。選挙後の政党の離合集散は必至だ。

また、被害が甚大になりがちな洪水の行方も気になるところだ。

トップ写真:メディアに語るマハティール・モハンマド元首相(2022年11月5日) 出典:Photo by Annice Lyn/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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