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.国際  投稿日:2024/3/31

タタ・サンズ、インド準備銀行の“上場企業化命令”への対応に苦慮


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

インド大手財閥タタ・グループの持株会社タタ・サンズは、“上場企業化命令”への対応に苦慮。

・子会社タタ・コンサルタンシー・サービセズ(TCS)の持株の売却を余儀なくされる。

タタ・サンズとしては、私企業のままの方が都合が良い。

 

インドの大手財閥であるタタ・グループの持株会社タタ・サンズは、インド準備銀行による2015年9月までの“上場企業化命令”への対応に苦慮している。命令を回避するには、子会社タタ・コンサルタンシー・サービセズ(TCS)の持株の売却を余儀なくされる模様だ。

タタ財閥は、ササン朝ペルシャをイスラム勢力の台頭で追われ、インドの藩王の許可を得てインド西海岸に布教活動をしないことを条件に住むことを許されたパールシー(ゾロアスター教徒=拝火教徒)の末裔であるジャムシェドジー・タタが1868年にボンベイ(現ムンバイ)に設立した綿貿易会社に端を発する。

タタ財閥は、ビルラ、リライアンスと並ぶインド3大財閥の一つだが、インドの財閥にあっては異色の存在。本社はマハラシュトラ州のムンバイで、証券取引所近くのホミ・モディ通りに面するところにある。

ムンバイにある歴史と伝統ある総合博物館、チャトラパティ・シヴァージー・マハーラージ・ヴァツ・サングラハラヤ (旧プリンス・オブ・ウエールズ博物館)には、タタ財閥が寄贈した展示品のコーナーもある。1980年代に同博物館を訪れた際、展示品の中にジャムシェドジー・タタが訪日した際に手に入れた日本の陶器などもあった記憶している。

タタ財閥傘下には上場企業が29社あり、子会社を含めると傘下企業は100社を超える。タタ・サンズの2023年度(2022年4月‐2023年3月)の収入は12兆ルピー(1,500億ドル、1ルピー=1.81円で約21兆7千億円=2024年3月28日段階)。従業員数は70万人超。100か国を超える地域で事業展開しているとされる。

主要企業におけるタタ・サンズの持ち株比率は表1の通りだ。

▲表1 タタグループの保有株比率

タタ・サンズの持ち株比率が一番高いのはTata Investment Corporationで73.00%。次が、業績が良いTata Consultancy Services(TCS)で、71.90%。TCSの2023年度の連結収益は279億ドル。ボンベイ証券取引所だけでなくニューヨーク証券取引所にも株式を上場している。TCSはいわばタタ・サンズの「虎の子」的存在で、タタ・サンズ会長のN・チャンドラセカランが、2017年1月からTCS会長も務めている。

戦前からタタ・サンズの会長を務め、タタ・サンズをインドの代表的な企業に育成してきたJ・R・D・タタが1932年に設立し、二次大戦後に政府の没収されたエアー・インディアについては、2022年1月末、タタ・グループが買収を完了し、タタ財閥の企業として復活した。

タタ・サンズの傘下企業における持ち株比率は、遡ると低く、Tata Steel, Indian Hotelsなどの特定の経営者や株主の発言力が高いケースもまま見られた。そもそも、1995年当時、タタの持ち株比率は3%程度と低く、当時会長だったラタン・N・タタ(現タタ・サンズ名誉会長)がその是正に乗り出したのはそのころのこと。当時のタタ・サンズの主力企業における持ち株比率は、タタ製鉄で2.35%、タタ自動車で1.78%、タタ電力で5.63%、タタ化学で7.91%、タタ・ティーで7.56%、インディアン・ホテルズで13.34%といった状況だった。

タタ・サンズは増資を行い、タタ・サンズの最大の株主であるタタ一族の社会貢献基金がグループ企業の株式取得を行った。表1の数字は、そうした努力の結果だ。現在、タタ・サンズの株式の66%はタタの社会貢献基金が保有している。

タイムズ・オブ・インディア紙2024年3月19日付けによると、タタ・サンズはTCS株売却で約936億ルピー相当を調達し、債務削減を図る計画という。インド準備銀行のルールでは、中核投資企業(CIC)が10億ルピー以上の資産がなく、公的資金を調達しない場合、ノンバンク金融会社(NBFC)の「上位」に位置するとされ、2015年9月までの持株会社の上場化要請はなされない、と見られるという。

タタ・サンズが保有するTCS、タタ自動車、タタ製鉄の株式は10億ルピー程度とされている。タタ・サンズとしては、私企業のままの方が、都合が良いのだろう。タタ・サンズの財務内容の改善が、TCS株の売却などで2025年9月までに図られるかどうか。注目されるところだ。(敬称略)

トップ写真:タタ・グループの会長ラタン・タタ(2010年9月23日)出典:Photo by Ramin Talaie/Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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