印で反プーチンの富豪、急死
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#51」
2022年12月26-31日
【まとめ】
・プーチン大統領に批判的なロシア富豪の地方議員らインドで急死。
・情報分析や未来予測を行う際の公開情報の重要さを改めて指摘したい。
・古今東西、未来予測は希望的観測となることが多々ある。
いよいよ本年最後の原稿となった。今週も、月曜日の出遅れが響いたせいか、仕事納めの日になってしまった。今年一年のご愛読に対し衷心より御礼申し上げる。来年は遂に齢70の節目の年だ。その後何をするかはまだ決めていないが、体の続く限り、この外交安保カレンダーだけは書き続けていたいものだと思う。
今週最も興味を引いたニュースはプーチン大統領に批判的なロシアの富豪がインドで急死したという話だ。AFP=時事など外電を総合すると、プーチンのウクライナ侵攻に批判的だったとされる富豪のロシア地方議員とその友人が旅行先のインドの高級ホテルで相次いで急死し、同国の警察が捜査しているそうだ。
同議員は他のロシア人3人と共に滞在中だったインドのオディシャ(Odisha)州ラヤガダ(Rayagada)のホテルの外で24日、血を流して死亡しているのが発見されたという。だが、同ホテルではその2日前にも、同議員と共に滞在していた人物が意識不明の状態で発見され、その後死亡が確認されていたらしい。これって偶然なのか。
そんなはずはない、と言うだけの根拠は勿論筆者にない。しかも、相手がロシアだけに、勝手な推測コメントは慎みたい。でもねぇ!インドのオディシャ州って一体どこなんだろうか。調べてみると、インド東部に位置し、州東部に海岸線が広がりベンガル湾へと通じている、どちらかというと貧しい州のようだ。昔はオリッサ(Orissa)州と呼ばれていたところ。
報道ではこの州の「ラヤガダの高級ホテル」とあるので、早速Googooってみたが、Googleマップで調べる限り、この町に高級ホテルは一つもない。このロシア地方議員はインドのこんなところで一体何をしていたのか。気になるところだが、同州は近年鉄鉱石を初めクロムや石炭などの鉱物資源が豊富に存在することが判明したらしく、もしかしたらビジネスチャンスがあるのかもしれない。それにしても、この二人に限らず、プーチン政権に批判的な人物が「消された」例は枚挙にいとまがないので、もう少し調べてみよう・・・・。
長々となぜこんな話を書くのか。それは情報分析や未来予測を行う際の公開情報の重要さを改めて指摘したいからだ。実は新年早々、有難いことに、新年早々発表される「2023年世界の10大リスク」について特集するのでコメントせよという話が某局から舞い込んできた。「おお、あの誰もが考え付く当たり前の予測と、どうにでも解釈できる予想しかしないけど、毎年なぜか注目される、あれね」と思わず打ち合わせでコメントした。だってそうでしょ、今年の10大リスクの中に「ウクライナ」を入れなかったんだから、その時点で彼らの予測能力は劣化したと言わざるを得ないのだから。
最近、国際情勢をどう分析するか、そのための情報をどこから、どのように入手しているのか、よく聞かれるのだが、これに対するベストの答えは東大の鈴木一人教授が来年公開される我らが外交安保TVでじっくり語っている。これはお見逃しなく。それまでは、皆様の年末年始が静かで健やかで実り多いことをお祈り申し上げる。
〇アジア
中国のゼロコロナ政策の転換が裏目に出ているというが、本当か。今年も中国内政は大騒ぎだったが、終わってみれば、今年も習近平体制は安泰だったということかもしれない。希望的観測でオオカミ少年をやりたい人は少なくないが、恐らく習体制の本当の危機があるとすれば、それは我々の見えないところで進行しているのだろう。
〇欧州・ロシア
ゼレンスキーの訪米は「対米情報戦」のお手本のような成功だったと思う。先週のJapanTimesに、ゼレンスキーの訪米は台湾にとって学ぶところが大であるというコラムを書いたので、興味のある向きはご一読願いたい。台湾総統が台湾の徴兵期間を半年から再び一年に戻すと言ったらしいが、それは正しい判断である。
〇中東
イタリア首相がイラク訪問中に、「強いイラクなしに中東の安定はあり得ない」「イラクは安全保障と政治的安定の面で新たな一歩を踏み出した国であり、我々はイラクの再建について楽観的な見方をしている」と述べたそうだが、この人、本当にイラクを理解しているのだろうか。相変わらずイタリアはイラクを正確に見ていないようだ。
○南北アメリカ
メドベージェフ前ロシア大統領は、来年には米国では内戦が勃発し、いずれ実業家イーロン・マスクが大統領に就任する、ドイツ・フランス間で戦争が起こる、英国はEUに再加盟するが、その後のEUは崩壊するなどと予測したそうだ。やはり、古今東西、未来予測は希望的観測となることが多々あるようだ。皆さん、この種の予測は眉唾で読んでくださいね。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:独立国家共同体サミットに出席するプーチン大統領(2022年12月26日)
出典:Photo by Contributor/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。