露朝首脳会談「戦略的・戦術的な連帯の強化で一致」
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#38
2023年9月18-24日
【まとめ】
・金正恩総書記がロシアを訪れ、ボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談。
・金総書記「プーチン大統領と深く議論し、戦略的・戦術的な連帯の強化で一致した」。
・更に金総書記は「ロシア軍が正義の戦いで必ず偉大な勝利を勝ち取ると確信している」と述べた。
今週は、先週行われた露朝首脳会談を取り上げるが、その前に大事なことを。去る11日、筆者が所属するキヤノングローバル戦略研究所が主催してきた「政策シミュレーション」の常連だった藤田正美氏が逝去された。藤田さんは東洋経済新報社で記者・編集者として活躍した後、長くニューズウィーク日本版の編集長を務めた先輩だ。
筆者の尊敬するジャーナリストであると同時に、とても後輩思いの、優しい「昭和のオヤジ」だった。シミュレーションに参加する若手研究者・官僚の育成にもご尽力頂いた。藤田さんは最後のメールで「このシミュレーションは私の人生の中でも最も多くの示唆を与えてくれた」と言ってくれた。これには関係者一同心底涙した。合掌。
さて、続いてはいつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。
9月19日火曜日 国連総会での首脳外交始まる(28日まで)
【毎年恒例の「季節もの」だが、今年も一連の外交活動が活発に展開される。】
バイデン大統領、中央アジア五か国の首脳とC5+1会合
【日本ではゼレンスキーのワシントン訪問などにばかり注目が集まるが、今回バイデンが中央アジアのKazakhstan, Kyrgyzstan, Tajikistan, Turkmenistan, and Uzbekistanという5つのスタン国家の首脳と会うのは画期的である。中央アジアは対中抑止の重要なウイングであり、この会合で中国が如何に語られるかは重要だ。】
在独米空軍基地でNATO国防大臣がウクライナ戦争について会合
【相変わらずウクライナに提供する武器弾薬の話が中心だろう。こういうやり方を「戦力の逐次投入」という。勿論、悪い意味でだが。】
9月20日水曜日 ニューヨークでBRICS外相会合
【先日のBRICS首脳会議のフォローアップだろうが、フォローするものがあるのかね?】
国連安保理でロシアのウクライナ戦争につき審議
【これも相変わらずの堂々巡りだろう。】
9月21日木曜日 トルコ、インドネシア、南アフリカの中央銀行が金利につき発表
9月22日金曜日 日銀が金利につき発表
【各国中央銀行の動きに注目が集まるが、ついに日銀にも注目が集まるようになったのか。】
ローマ法王、フランス訪問(23日まで)
9月25日月曜日 香港で「蘋果日報」社主の国家安全法違反容疑裁判始まる
【今の香港に公正な裁判は期待できないだろう。】
インド高裁でモディ首相のグジャラート暴動対策を報じたBBCの名誉棄損容疑審議
【本年1月、BBCがモディ首相について批判的なドキュメンタリーをイギリスで放送したが、モディ政権は同番組内容を批判し、国内上映禁止などの措置を取っただけでなく、インドの税務当局がBBCの事務所を家宅捜索するなどの騒ぎに発展した。ここは、BBCを甘く見ると大怪我をするぞ、とだけ言っておこう。】
さて話をに戻そう。先週、金正恩総書記が極東ロシアを訪れ、ボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。プーチンが金正恩の車列を出迎える映像にはさすがに驚いた。勿論、やりとりの詳細は不明だが、露朝首脳の公式発言の一部は既に報じられている。具体的には次の通りだ。
●金正恩「お忙しい中、我々を招待し温かく迎えてくれたことに感謝する」
●プーチン「今回は約束通りの宇宙基地ですね」
●金「宇宙強国の現在地と未来につきより深く理解する機会を頂き光栄に思う」
●金「プーチン大統領と深く議論し、戦略的・戦術的な連帯の強化で一致した」
●金「我々は終始一貫、ロシア大統領が講じるあらゆる措置に全面的かつ無条件の支持を表明してきた」
●プーチン「ロシアは制限を順守しているので、ある種の制限はあるが、協議可能な内容もあり、展望はある」
●金「ロシア軍と人民が正義の戦いで必ず偉大な勝利を勝ち取ると確信している」
これらの発言の裏にある両首脳の本音は一体どこにあるのだろう。この点を今週の産経新聞WorldWatchに簡単に書いてみた。ご関心があればご一読願いたい。
〇アジア
WSJが、7月に更迭された中国の前外相が駐米大使時代に不倫関係にあったと報じたそうだ。中国上層部が内部調査で知ったのだというが、ちょっと信じがたい話だろう。米国で愛人に子供を産ませるなんて、共産党幹部であれば恐らく星の数ほど前例があるだろう。更迭の本当の理由はあるのか、ないのか。あるなら真相は何か。
〇欧州・ロシア
ゼレンスキー大統領が国連総会出席のためニューヨークに到着し、19日に一般討論演説を行う。昨年2月以来同大統領が国連総会に対面出席するのは初めて、と日本では報じられたが、冒頭ご紹介した欧米専門家の関心対象には含まれていない。単なる偶然か、もうゼレンスキーの国連での動きは大ニュースではなくなったのか。
〇中東
イランで長年収監されていたアメリカ人5人がようやく帰国した。カタールの仲介を受け、韓国で保管されていたイランの資産60億ドル(約8860億円)の凍結解除と「交換」なのだという。これが正しいやり方かどうかは米国内でも議論があるだろうが、この金はイランが喉から手が出るほど切望していたはず。まあ、仕方がないか?
〇南北アメリカ
カナダの首相が、6月にカナダ国内で起きたシーク教徒指導者殺害事件にインド政府工作員が関与した可能性がある、と述べた。国内のインド人情報機関高官も国外追放されたという。これには驚いた。カナダはインドにここまで喧嘩を売るのか、いや、トルドー首相にはインド系カナダ人の票が必要なのかもしれない。要注目だ。
〇インド亜大陸
上記以外に特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:プーチン大統領との会談のためにロシアを訪れた北朝鮮の金正恩総書記(2023年9月13日ロシア・ツィオルコフスキー)出典:Photo by Contributor/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。