ハコモノは「時限爆弾」、その意味 秦野市① 「高岡発ニッポン再興」その42
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・人口減少に合わせた公共施設の建設の恐ろしさを私に教えてくれた志村高史さん。
・市内にある老朽化した公共施設は「時限爆弾」。
・高度経済成長期やバブル期に整備されたハコモノは今後、老朽化に伴い、建て替えなどの更新時期が迫っている。
人口減少に合わせた公共施設の建設の恐ろしさを私に教えてくれた人がいます。
神奈川県秦野市のカリスマ公務員、志村高史さんです。
「借金して、公共施設を建てると、将来の世代に負担を押し付ける。人口が減少している時代に、それは無責任ではないか」。
志村さんはそんな当たり前のことを繰り返し、主張しました。
写真)志村高史氏
筆者提供)
秦野市は高岡市とほぼ同じ人口17万人都市。
志村さんは当時、政策部公共施設マネジメント課長でした。そこで抵抗勢力と戦いながら、ハコモノの削減に着手。その手腕が評判となり、全国から講演の依頼が殺到しました。公共施設のあり方をめぐる国の方針にも大きな影響を与えました。
しかし、市長選で、現職の市長が敗北。新たな市長となり、公共施設マネジメント課は2019年3月末に解体されました。
その志村さんは上下水道局参事(兼)経営総務課長になりました。どんな毎日を送っているのだろうか。そう思って、先日お話しすると、いたって元気。今も、ハコモノ削減に関する講演で、全国を飛び回っています。
また、「根拠が示せる! 上司も納得! 公務員のかんたんデータ活用術」(学陽書房)と「 自治体の公共施設マネジメント担当になったら読む本 」(同)の2冊の本を出版。
さらに、国交省のPPP/PFIサポーター、総務省の経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー、内閣府のPPP/PFI行政実務専門家にも任命されています(※1)。志村さんはタフな男ですね。
私が志村さんと初めて会ったのは、2017年です。その時、志村さんの口から飛び出したのは、「時限爆弾」という言葉でした。それは市内にある老朽化した公共施設、つまり、学校、庁舎、公民館、図書館、文化会館、体育館、高齢者施設などを指します。
志村さんによれば、学校など住民生活に不可欠のモノもあるが、「福祉は大切」「生涯学習は大切」などの謳い文句で、次々に造られてきたハコモノも少なくないのです。
高度経済成長期やバブル期に整備されたハコモノは今後、一挙に老朽化してきます。建て替えなどの更新時期が迫っています。
道路や上下水道なども、高度成長期に造られており、それも、ある時期になると爆発する「時限爆弾」です。それでは、「時限爆弾」をどう処理するのか。簡単ではありません。いざ公共施設の削減となると、住民や議会から反発が飛び出します。
志村さんがこの問題に着手したきっかけは、2008年4月の人事異動でした。企画総務部の中に専任の組織ができて、志村さんはそこに配属されました。
なぜそんな組織ができたのでしょうか。当時の企画総務部長の問題意識が火をつけたのです。人口減少社会が到来しようとする中、公共施設が今のまま維持できるのかという素朴な疑問点です。
当時の課長と志村さんに出された指示は、「公共施設のあり方を抜本的に見直してくれ」。
志村さんは述懐しました。
「何をやればいいかさっぱりわからなかった。公共施設の全容を把握することから始めました。公共施設というのはそれぞれの所管の省庁が決まっていて、補助金で造られている。どこにどれだけあるのか、いくらかかっているのか、どれだけの人が利用しているのか。自分たちが管理する施設についてはわかっていても、それを網羅的に捉えたものがなかった」。
この暗中模索の状態から、秦野市は一歩踏み出しました。
(②につづく)
※1 PPPとはPublic Private Partnershipの略で、公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもので、PFIとはPrivate Finance Initiativeの略で、PFI法に基づき、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法を指す。(国土交通省)
トップ写真:秦野市福祉センター
出典:PhotoAC