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.国際  投稿日:2023/2/10

中国の脅威への対処法 その4 経済至上主義を捨てよ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

・中国にとって対日経済関係はいつでも日本を屈服させようとする武器となる。

・経済面で中国との絆を減らしていくことは十分に可能。

・経済は決して至上ではないという世界の現実を日本も直視すべき。

 

中国の脅威の増大に日本はどう備えるべきか。

日本が経済面で中国への依存を高めると、中国はいざというときに、その「依存」を人質にとってくる事例を紹介してきた。中国にとっては対日経済関係はいつでも日本を屈服させようとする非経済問題での武器となるのだ。

だから日本側としても中国との貿易や投資によって経済的な実利を得ることに利点はあっても、その利点がいつでも弱点に変わりうることを知っておかねばならない。

とくにこの現実を日本側の財界人と呼ばれる人たちに示したい。

財界人を自称する人たちは、実際には自分の会社の目前の利益が最大唯一の関心事という場合が多い。だがいかにもそうではないような言動をとる。いかにも日本の国家全体、あるいは経済全体、産業界全体の利害を考えているようなふりをすることが多いのだ。

なにしろ中国は特殊の国なのである。国際的な規範や常識を平然と破り、通常の経済関係をも政治や安全保障面での自国側の武器にしてしまう異形の大国なのである。

日本にとって中国への経済的依存の度合いを減らすことは、それほど難しいことではない。そもそも日本経済は黄金時代とも呼べる1980年代、中国との取引への依存はきわめて少なかった。当時の日本はまずアメリカへの最大の輸出の膨張で国全体が浮上していったといえる。中国への依存なしでも日本経済は立派に繁栄を保てるのである。

確かに日本にとっての中国との貿易は大規模である。日本の貿易全体のなかで20%以上、一国では最大を占める。とはいえ、中国との貿易が微少でも日本の経済全体がうまく機能していた時代も長かったのだ。

しかもサプライチェーンとつながる日本の対中投資はアメリカなどへの投資よりずっと少ない。日本の全世界への直接投資のわずか4%という比率である。ちなみに日本のアメリカへの投資は日本全体の対外投資のなかでは25%をも占めている。

要するに日本はいまでも経済面で中国の虜になっているわけではない。経済面での外国とのつながり全体のなかで中国との絆を減らしいくことは十分に可能なのである。インドとかベトナムなどこれからその絆を増していくべき相手国は多数、存在するのだ。

こうした中国依存減らしには日本政府がその奨励のための措置をとることが効果を発揮する。数年前にも日本政府は日本企業に対して中国での活動を止めて、他の国に移動する際には特別の補助金を出すという措置をとったことがある。この措置はワシントンでも好評だった。「対中切り離し」のためのささやかな手段だったのだ。

一方、中国にすでに進出した日本企業のなかには利益があがらないとか、公正な経済活動ができないという理由で撤退を求めているところも多数ある。ところが日本企業がいざ撤退となると、中国当局がさまざまな形で妨害する事例が多いのだ。

私はこのあたりの実態について中国からの経済撤退の方法を専門に助言するコンサルタント会社を経営する知人から話を聞いたことがある。この会社はとても繁盛しているようだった。それだけ中国離脱を望む日本企業が実際には多いということなのだ。

日本側ではよく『中国との経済取引がなければ、日本は生きていけない』というような言葉を述べる人たちが大手を振っている。実際には情緒的な、現実をみない言葉だとみなさざるをえない。

世界情勢をみても一国が特定の他の一国と経済関係が緊密であればその絆はもう絶対である、と断じるのは非現実的である。これまでの戦争の実例をみても、経済の取引が大だった国同士が戦いを始めたというケースは珍しくない。

最近のロシアのウクライナ侵略でロシアとアメリカとの関係が一気に悪化した。そのアメリカとロシアとの間には緊密とさえいえる経済の絆が存在した。その象徴的な例としてロシア国内にはアメリカのマクドナルドのハンバーガー店が合計850軒もあった。

ところがロシアがウクライナに攻めこみ、アメリカがそのロシアの動きを激しく糾弾し、ロシア・アメリカ関係が一気に険悪化した。その結果、数日後にはこの850ものハンバーガー店がみな消えてしまったというのである。企業レベルでの全面撤退が決められたからだろう。

そもそも貿易を大に密にすれば中国は国際社会のよき一員になるというアメリカ側のかつての見解がいかに誤っていたか、を想起すべきである。

日本には外国との関係は経済の絆さえ堅固に築いておけば心配する必要がない、とする考え方がある。いわゆる財界人と呼ばれる人たちの思考だといえる。一般にもその思考の広がりはあった。経済至上主義とも呼ぶべき、戦後の日本の基本思潮だといえる。

だが経済関係がうまくいっている相手国でも、敵対の状態は生まれうるのだ。経済面での損失を考えれば、そんな侵略行動はとれるはずがない、と思える状況でも、経済ではない要因を優先させる国は多数、存在するのである。経済は決してその国には至上ではないのだ。日本もこの世界の現実を直視すべきなのである。

(つづく。その1その2その3

トップ写真:世界最大の港、中国上海の陽山港 出典:Photo by honglouwawa Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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