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.国際  投稿日:2023/1/31

中国の脅威への対処法 その1 敵艦に届かないミサイルをなくせ


 

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

 

【まとめ】

・中国のいまの脅威は日本にとって目前に迫った国難である。

・日本は、日本独自の防衛力・日米同盟の強化を図るべき。

・当面は防衛費をGDPの2%以上にすることや、ミサイル等の兵器に反撃能力を持たせることだ。

日本にとっての中国の脅威は国難とさえ呼べる。中国は日本固有の領土の尖閣諸島を武力を使ってでも奪取しようとする。日本が国家安全保障の基礎とする日米同盟に反対し、その骨抜き戦略を進める。さらには日本が戦後の長い年月、享受してきたアメリカ主導の国際秩序をも破壊しようとする。中国共産党政権は国内では「反日」をうたい、独裁支配の論拠とする。

 中国は究極には日本をアメリカから引き離し、自国の勢力圏に組み込もうとしていることは明白である。そんな中国の脅威に日本はどう対処すべきか。

 私は1998年から産経新聞中国総局長として北京に駐在して以来、東京、ワシントンからの視点を含めて、この中国の対日戦略を追ってきた。以来20数年、日本にとっての中国の脅威は増大する一方である。では日本はどう対応すべきなのか。総合的な政策提言をここで試みたい。

日本国への提言などというとおこがましいが、中国のいまの脅威は日本にとって目前に迫った国難だと断じざるを得ない。とにかくこれまでとは異なる強固な対策をとらない限り、日本の存立が危うくなるだろう。日本にとってのいまの国難になんとか耐え、跳ね返すための新政策をいくつか提起してみよう。日本がまず目前に切迫した危機への対処として緊急に推進すべき課題をあげることとする。

第1には、日本の防衛を画期的に強化することである。

この日本の防衛強化には大きく分けて、2つの柱がある。1つは日本独自の防衛力の強化、2つ目はアメリカと連帯しての日米同盟の強化である。

日本独自の防衛強化としては尖閣諸島のような局地での中国軍の軍事攻撃に対して抵抗し、撃退できる能力の取得がまず不可欠だといえる。中国と日本との軍事能力の全体の比較となると、もうこれは問題にならない。まず中国は核戦力を保有している。日本全土を照準内におさめた各種のミサイルを核弾頭搭載可能分も含めて1000基以上も配備している。 

だから全体の国同士の軍事衝突となると、いまの日本は中国の敵ではない。しかし中国が日本に対して実際の軍事力の威嚇や行使に出てくる場合、まず尖閣諸島とか南西諸島という局地での攻勢となるだろう。いまの自衛隊の能力ではこの種の局地戦でも中国軍を撃退できる能力には疑問がある。

1つにはこの種の局地戦で最も起きやすいのは尖閣などの海域での海上戦闘である。しかしその海上戦闘では中国人民解放軍の海軍艦艇は日本の海上自衛隊とくらべてその搭載ミサイルの射程が圧倒的に優れている。日本の自衛隊艦艇のミサイルはあまり遠くには届かない。中国海軍の艦艇は自分が攻撃を受ける心配のない海域から日本艦艇にしっかりとミサイルを撃ちこめるのだ。だからその結果、日本の自衛艦は全滅という惨劇も起こることとなる。

日本側はあえてミサイルが遠くには届かないようにしているのだ。その原因は『専守防衛』策である。日本の防衛は日本の領土と領海を守ることを目的として、その外部から攻撃をかけてくる相手には防衛のための事前の阻止の攻撃も、被害を受けてからの反撃もできないようになっているのだ。この愚かな『専守防衛』の原則は1950年代に形成された。その根拠は憲法9条だった。

こうした日本の防衛の根幹の矛盾を正すことが不可欠だが、当面はとにかく防衛費をGDPの2%以上にすることや、ミサイルその他の兵器に反撃能力を持たせることなど、目前の具体的な目標の達成を目指すべきである。局地戦で中国軍に負けない防衛態勢を築くことが出発点なのだ。

この点で岸田政権がこのほど打ち出した、新たな国家安全保障戦略など安保3文書での反撃能力の保持その他は遅きに失したとはいえ、欠かせない対中防衛措置の基本だといえよう。ただし岸田首相が「専守防衛」という旧時代の化石のような錯誤を捨てきれないことは、危険である。

(つづく)

写真:台湾陸軍が実施した「春節前戦闘準備強化」訓練。「敵軍部隊」にヘリで強襲され、基地を制圧された想定で行われた。 2023年1月12日 台湾・高雄の軍事基地

出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images





この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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