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.国際  投稿日:2023/2/8

中国の脅威への対処法 その3 経済面での依存を減らせ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

・中国の脅威への対策の3つ目は、中国への経済面での依存を減らすこと。

・中国は日本の経済面での依存を非経済の摩擦で人質にとる、『経済恫喝外交』を行う。

・中国との貿易や投資を高い水準に保つことは中国への利益や武器となる。

 

中国の脅威に適切に対処して、日本の国益、日本国民の安全や独立を保つためにはなにをすべきか。さらに考察を進めよう。

これまでは安全保障、とくに日本の防衛についての対策を提起してきた。さらにその対策を経済面へと移そう。

さて経済に関しての結論をまず述べれば、日本の中国への経済面での依存を減らすべきである。中国への経済面での依存があれば、中国は非経済の分野での日本への圧力の手段として、その依存部分を弱点として利用し、日本への武器として使うからだ。その実例はすでにいやというほど、存在する。

しかし日本にとっては経済面での中国の『切り離し』decouplingはアメリカにとってよりもずっと難しいだろう。これまでの経済面での相互交流の度合いがきわめて高いからだ。

それ以上に日本側には自分たちの会社の利益さえ大きければ、日本全体の安全保障や領土問題、さらには人権問題など、実のところどうでもよい、と考える財界人が多いことも指摘される。この種の財界人はいかにも日本全体の福祉を考えるようなふりをしながら、実際には自社の損益しか考えていない、という狭量の人物たちなのである。

しかしそんな日本でも国家全体として選別的、段階的に経済面での中国への依存を減らしていくことはできる。そしてそれこそが賢い国策となるだろう。

日本が経済面での中国依存を高めたままでいる場合、危険は多々ある。まず中国側がその日本側の経済面での依存を非経済の摩擦での人質にとる可能性である。中国の『経済恫喝外交』はすでに広く知られている。経済とは関係のない安全保障、領土、政治などの対立案件で相手国に圧力をかけるのに経済を利用するという手法である。

2012年の日本政府による尖閣諸島の国有化という措置への中国側の反応を再現してみよう。日本側が固有の領土の尖閣諸島を武力を使っても奪取しようとする中国に対してその領土の所有権を日本側の民間から国家へと移すという措置がごく当然だった。だが中国はその合法的な措置に対して無法な措置で反撃した。

中国側ではその時期、漁船が日本側の阻止の行動を無視して、尖閣諸島周辺の日本領海に不法に侵入し、日本の海上保安庁の船舶に故意に衝突した。日本側はその中国船を抑えて、船長を領海侵犯や暴力行為の嫌疑で逮捕した。

こうした動きに対して中国側は自国内の多数の地域で大規模な「反日暴動」を展開した。ほとんどが中国内部の日本の商業、経済施設を破壊する行動だった。さらに中国当局は中国に駐在する日本企業の代表を逮捕した。それまで日本に輸出していたレアメダルを禁輸した。中国政府の独裁態勢をフルに利用しての公的な命令による反日抗議だった。いずれも本来、経済とはなんの関係もない案件で経済を脅しの手段に使ったのである。

中国側は日本政府への強い不満や要求がある際には日本側の中国への投資や貿易という領域でもっと過激な手段をとることも見通しは現実的である。企業の閉鎖とか広範な禁輸とか、である。現実に中国政府はフィリピンやオーストラリアに対して、領土紛争やコロナ対策という案件での不満をぶつけるために経済面での禁輸措置を平然ととってのけたのだ。

日本側が中国との貿易や投資をこれまでのように高い水準で保っていくことは中国への利益となる。武器となる。中国はそもそも基本的に日本に対しては敵対的な政策を保っているのである。敵を強くする経済関与は自分の首を絞めるような構図なのである。

(つづく。その1その2) 

トップ写真:2020年、中国陽山港 出典:Photo by TPG/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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