アメリカ新政権の中国政策はどうなるか その4(最終回)中国が嫌がるのはトランプ政権
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ次期政権の外交政策は中国共産党政権と対決し、台湾を強固に支援する。
・ハリス政権は国際協力を重視し、中国との競合に備えた支援を求める姿勢が続く。
・中国はハリス陣営の柔軟さを好むが、国際連帯とトランプ氏の強硬姿勢に懸念を抱いている。
古森:
「トランプ次期政権の外交政策についてはトランプ陣営のシンクタンクともいえる『アメリカ第一政策研究所』(AFPI)が詳細な報告書を発表しています。この研究所は幹部がみなトランプ前政権で実際に勤務した人たちで、現在もトランプ氏自身と連絡を保持して、その発表文書類はすべてトランプ氏自身の了解を得ています。
トランプ氏の次期政権での政策についてはワシントンの他の有力研究機関の『ヘリテージ財団』が『プロジェックト2025』という報告書を発表しました。かなり過激な内容でした。民主党側は待ってました、とばかりにその内容を取り上げ、『トランプ次期政権はこんな極端な政策をとる』と非難しました。ところがトランプ氏自身はそんな報告書はみたことはなく、自分には無関係だと断言しました。ハリス、トランプ両候補の討論会でもハリス氏が二回も持ち出した『報告書』です。
しかしAFPIの報告書はトランプ氏のお墨つきなのです。そしてその内容は中国に関して中国共産党政権とは徹底して対決し、戦争こそ求めないが、この政権の崩壊を望む、というところまで敵対性をむきだしにしています。力で中国の膨張や侵略を抑えるという基本も明記しています。そのうえで台湾への強固な支援も誓っていました。このような要素が次期トランプ政権の中国政策の核心とみてよいでしょう」
サタ―:
「確かにトランプ陣営の対中姿勢は言葉も行動も強硬ではありますね。この点、ハリス陣営と異なることはまちがいありません」
古森:
「トランプ氏はなにしろ口にする言葉が多い。政治集会の演説でも草稿をみないで一時間半、一気にしゃべる、というのが普通です。本来は慎重な言辞が欠かせない外交問題でも、駆け引きのために、実際の政策とは異なる過激な条件や要求を口にするという事例がよくあります。
今回の台湾や習近平主席についての言葉も公式に近い文書に記載されていることが本当の政策だと考えるのが妥当ではないでしょうか」
サタ―:
「そうですね。台湾に関しても、中国の習近平主席に対しても、いまのアメリカ議会、とくにトランプ氏を支えてきた共和党側の保守層の考え方は岩盤のように結束しています。台湾は中国との全面戦争を覚悟してでも守る。台湾の自衛のための兵器類は十二分に提供する。習近平主席とは民主主義、アメリカの敵として厳しく対峙する。こんな基本線は揺るがないでしょう。トランプ氏が新政権になって、この基本線からまったく離れる路線をとることはできないでしょう」
古森:
「こうみてくると、やはりハリス政権とトランプ政権では中国に対する政策はかなりの相違があるということになりますね。ただどちらも日本のような同盟国への期待は大きくなると思えます。
ハリス陣営はバイデン政権の政策の延長として中国との競合では国際協力、つまり同盟国や同志国の共同貢献が必要だという政策をとるでしょう。トランプ陣営もこれまでまだ日本に対して具体的な要求を突きつけてきたことこそなくても、次期政権で中国との激突に備えるようになれば、日本からの支援増大への期待は当然、強くなるでしょう。この点は両陣営の共通点だともいえます。
ところで当の中国にとってはハリス、トランプ両氏のどちらがより苦手だとみているでしょうか」
サタ―:
「どちらも好ましくないと思っているのではないでしょうか。ハリス陣営の方がいくらかソフト、柔軟で、中国としても御しやすい面があるという推測もできます。しかしバイデン政権がうまく進めたアメリカ側につく多くの諸国の国際連帯は中国にとって脅威だと思います。
この国際連帯といえば、そのためにいまの中国当局は台湾への武力侵攻というオプションを後方へ引っ込めているという感じがあります。ウクライナを侵略したロシアに対して抗議する多数の諸国がアメリカ主導でロシアへの厳しい経済制裁をとった実例をみて、台湾を攻撃する中国にも少なくともそれ以上の国際的な経済制裁が課されるという展望は中国首脳部の戦略思考にかなりの影響を与えたと思います。
中国はトランプ政権の再登場にも深刻な懸念を抱いていると思います。
トランプ氏はなにしろ強硬です。力による平和という原則を明らかに信じている。しかも大統領としてアメリカの歴史を変えるような新たな対中抑止政策を打ち出した実績がある。そのうえにトランプ氏の言動には予測が難しいという要素があります。中国共産党政権が忌避しても当然、という面があるわけです」
(終わり。その1,その2,その3)
*この記事は月刊誌HANADA2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真)北京での中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)のレセプションに出席する習近平国家主席と夫人の彭麗媛:中国、北京 – 2024年9月4日
出典)Photo by Andres Martinez Casares – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。