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.国際  投稿日:2023/8/15

「世界から白内障による失明を無くす」アショカフェロー デビッド・グリーン氏


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・世界最大の「ソーシャルアントレプレナー」ネットワーク、「アショカ」。

・「アショカフェロー」のデビット・グリーン氏は、多くの国で眼科病院設立や眼科医療プログラムやトレーニングセンターの開発を行っている。

・日本の産業界を巻き込み、角膜疾患への世界的な取り組みへの支援を呼びかけたい。

 

アショカ(Ashoka)」という非営利組織をご存じだろうか。

1980年に発足したこの組織は、「誰もがチェンジメーカーである世界」を目指して、1980年に設立された世界最大の「ソーシャルアントレプレナー」のネットワーク。米ワシントンに本部を置き、38カ国に拠点、95か国にネットワークを築いている。

「ソーシャルアントレプレナー」とは、文字通り「社会的課題に取り組む起業家」。すなわち社会起業家のことだ。アショカは「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」を、「社会に深く根を張る課題を生んでいる現存の社会構造に代わる新たな社会構造を創り広げる人」と定義する人を言う。

私がその言葉を知ったのは、2008年か2009年ごろ。当時テレビ局に勤めていた筆者の同僚が勧めてくれた本で知った。それが「チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える」。現アショカジャパン(2011年設立)の創設者・代表であり、写真家の渡邊奈々氏が著したものだ。その時担当していたBSフジの「プライムニュース」で、社会起業家をテーマとして取り上げたのを覚えている。

その本、「チェンジメーカー」の中で「貧者を救う格安医療事業プランナー」として紹介されているのが、2001年に「アショカフェロー」に認定されたデビット・グリーン氏だ。今回訪日した機会に話を聞いた。

グリーン氏は、先進国レベルの医療技術やヘルスケアサービスを世界の最貧困層に届けるシステムを構築した社会起業家だ。 白内障由来の失明をなくすために、眼内レンズを安価に製造・供給するAurolab社(インド)を1992年に設立。同社は、眼内レンズの世界市場シェア10%を占める。

写真)1992年にオーロラボを立ち上げたオリジナルチームと、それから何年も経ったデビッド。右端が前マネージングディレクターのバラ・クリシュナン博士、左から4番目が現マネージングディレクターのスリラム・ラヴィラ氏。

David with the original team that started Aurolab in 1992, many years later, including former Managing Director, Dr. Bala Krishnan, far right and Mr. Sriram Ravilla, present managing director, fourth from left.

グリーン氏の活動は世界中に広がっている。中国、インド、ネパール、エジプト、タンザニア、ナイジェリア、マラウイ、ケニア、バングラデシュ、ベトナム、メキシコ、グアテマラで、眼科病院設立のほか、眼科医療プログラムやトレーニングセンターの開発を行っている。

無料が最低価格となる3段階的価格設定を手術費用に適用することにより、病院には35〜40%の利益をもたらす財政的な独立経営を可能にした。これまでに4000万人がAurolab社のレンズを埋め込む無料価格手術で視力を回復している。

グリーン氏は、アショカ、ドイツ銀行、国際失明予防協会の共同で、1,500万ドルの社会投資ファンド「アイ・ファンド」を設立。また、2004年から2015年の11年に渡り、医療普及の仕事と並行してアショカのグローバルのリーダーの一人を務めた。

今回Japan In-depthは、日本に仕事で立ち寄ったグリーン氏にインタビューを行った。

写真)デビッド・グリーン氏 2023年7月18日 東京・中央区

ⓒJapan In-depth編集部

安倍:あなたがソーシャルアントレプレナーとして活動する動機はどういうものですか?

グリーン氏:私は、いろんな国をたくさん旅してきました。そして、人々がどれだけ貧しいかを見てきました。貧富の差も大きく、富の格差があります。私はさまざまなグループと仕事をしてきましたが、低所得者や貧困層の声を私が代弁していることを常に心に留めています。それは単なる思いやりや利他主義ではなく、私の方法なのです。それは、富がごく少数の人々の手に集中するという、世界の力に対抗する方法なのです。

私の「方法」とは、所得格差の是正に直接介入するのではなく、これまで金持ち国の人々にしか手に入らなかった医療製品やサービスを貧困層に届けるという具体的な「方法」です。どうすれば、先進国レベルの価格を大幅に下げることができるかを考え、その具体的な解決方法を一つずつ実行して行ったら、その結果、競合他社を超えたのです。ある意味、利他主義と絶対に負けたくないという持ち前の競争心の組み合わせなのです。

安倍:その競争心の原動力はいつ培われたのですか?

グリーン氏:私の原動力のルーツはレスリングをしていたころにあると思います。私は中学生のときレスリングをしていて、それはとても競争の激しいスポーツでした。私の競争心はレスリングで培われたと思います。私も67歳になり、昔のレスリングのコーチに連絡を取りました。戻ったら会いに行くつもりです。

その競争心が原動力となり、大企業と同じ品質の製品を作り、付加価値以外のマージンを取り除き、低所得者にも手が届くようにしたのです。

安倍:具体的にはどのようにしてそれを実現したのですか?

グリーン氏:私は、自分なりの法医学的な原価計算や、その製品の作り方を知っている人や知識を持っている人を見つけ、専門知識と資金を集めてチームを作り、製品を開発してきました。また、サプライ・チェーンを解体して、全体の本当のコストとマージンを理解し、何かを作るのに本当は何が必要なのかを調べたのです。そして、そこから技術、製造、規制当局の承認、サプライチェーン全体を一から見直し、新しいサプライチェーンを構築し、付加価値以外のマージンを取り除くことで、手頃な価格にしました。

つまり、その多くは「見る」ことなのです。あらゆるものを研究し、コストを大幅に削減できることを理解することで、モノを作るのに本当はそれほどコストがかからないという現実を知るのです。というのも、私が作るものはほとんどすべて、同業他社とほぼ同じコスト構造になっているからです。それは、マージンを取り除くことに関係していると思います。

安倍:白内障の治療をより低価格で多くの人が受けられるようにするビジネスモデルはどのようにして出来たのですか?

グリーン氏:私が学んだことはすべて、ある種偶然に学んだことであり、振り返って次にやるときには修正してもっとうまくやろうと思ってきました。

私はアラビンド眼科病院で何年も働きました。ほとんどの白内障手術は、水晶体全体を取り除き、患者に白内障用の眼鏡をかけるという古い方法で行われていました。

80年代に入ると、日本やアメリカなどで眼内レンズが大量に使用されるようになり、アメリカの白内障の手術件数は、10年間で10万件から300万件にまで増加しました。そこで私は、眼内レンズやすべての器具、その他の備品を寄付してもらい、それらをインドとネパールのプログラムに送り、眼科医を募り、レンズを埋め込む最新の手術の研修を受けさせました。その結果、人々は手術費用が払えないという理由で失明するということがなくなりました。これらのプログラムは自己資金で運営されるようになったのです。

その後、寄付が途絶えたとき、私は眼内レンズを自ら作ることに目を向けました。私はビジネスやエンジニアリングのバックグラウンドはありませんが、公衆衛生のバックグラウンドは持っています。

そこで私は、レンズを寄贈してくれたすべての企業に出向き、5つほどの工場を見て、技術や設備を理解するための背景を学びました。そうしてすべての製造過程の現場を見ることで、一緒に働く人を選ぶことができた。結局、一緒に資金を調達し、インドで初めて手頃な価格で眼内レンズを製造する工場を作りました。

その後、私は多くの技術移転を行いましたが、その多くはゼロからの技術開発でした。技術開発を助けてくれる本当に優秀な人たちと仕事をすることで、企業よりも個人と仕事をする方が簡単だということを学びました。企業は通常、知的財産を保護し、製造方法を共有したがらないからです。だから私は、単に技術を解明するだけでなく、本当に自分のやっていることを理解し、私と一緒に仕事をしてくれる適切な専門家を見つける宝探しのようなプロセスを学んだのです。

安倍:ゼロから工場を作るのはものすごく大変なことだと思いますが、重要なのは同じ目標を持つ協力者を得ることなのですね。

グリーン氏:私が働いていたインドのセヴァ財団というところがあるんですが、有名なロックグループのグレイトフル・デッドがセヴァ財団のためにたくさんの慈善コンサートを行ってくれました。で、グレイトフル・デッドのファンのひとりが手紙をくれたんです。返事を書いたら、その人の会社は縫合糸、つまり眼を含むあらゆる手術に使う針と糸を作っていることがわかりました。

その後、彼の父親と叔父が、アメリカの大手縫合糸会社であるUSサービスに会社を売却することになりました。そして彼はヨーロッパで外科手術用製品の製造と研究開発を担当していてちょうど退職したところだったので、「ぜひ一緒に働こう」と誘ったんです。それで彼は来てくれました。そして私たちは、最先端技術を駆使して縫合糸工場全体を非常に安く作り上げたのです。彼は、特許や知的財産を回避する方法を知っていました。そして今も、知的財産を侵害することなく、斬新な知的財産を創造し、秘密保持契約を侵害することなく、モノを作る方法を探し続けています。

写真)Aurolab 縫合糸製造。 縫合糸の製造は1998年に始まった。アウロラボは縫合糸のコストを12本入り1箱240ドルから24ドルに引き下げた。

Aurolab suture production.  Suture manufacturing began in 1998. Aurolab reduced the cost of sutures from $240 for a box of 12 to $24.

安倍:どのようにして企業の特許を侵害しないようにしたのですか?

グリーン氏:私は知的財産権法について多くのことを学びました。すでに保護されているものと同じものを作るのではなく、特許を侵害しないようなものを作る方法を考えなければならないのです。そして、秘密保持契約に違反しないように、人々と協力する方法を考え出す必要があります。そして、人々の役に立ち、法律に違反しないものを作るにはどうすればいいかを考える必要があるのです。それが私が学んだことです。

そして、それは大企業がやっていることと変わりません。大企業は常にお互いをスパイして、何が秘密なのかを学び、知的財産権を侵害したり、企業秘密法に違反したりしない方法を学んでいます。誰もがやっていることだから私もそうした。私は消費者マーケットから外された貧しい人たちのために、大企業と同じことをしているのに過ぎません。

安倍:1992年に設立したAurolab社の実績について教えてください。

グリーン氏:Aurolab社は、今では眼内レンズの世界市場シェアの10%以上を占めています。レンズ、縫合糸、医薬品を製造する1200人ほどの従業員がいて、92年には価格を下げることができました。300ドルから現在の最安値の1ドルまで引き下げることができました。

Aurolab社は、インドが80万件の白内障手術を旧来の方法で行っていたときに、眼内レンズの製造も始めました。そして、私たちがやっていることを見た他の企業が、低価格市場もあると判断したのです。それで、彼らも低価格レンズ製造に参入し、私たちは競争相手となり、互いに価格を下げていったのです。しかし、私たちは、ヨーロッパ市場向けのCEマーク認証のような規制を満たすという品質の維持には徹底的にこだわりました。それでも、白内障手術に使われる消耗品のコストを劇的に下げることができたのです。

写真)アラビンドの白内障患者 オーロラボは、白内障手術用の眼内レンズの価格を250ドルから最も安価なレンズで1ドルに引き下げ、最新の白内障手術を誰にでも手の届くものにした。

Cataract patient at Aravind. Aurolab lowered the price of intraocular lenses for cataract surgery from $250 to $1 for their least expensive lens, making modern  cataract surgery affordable to everyone.

安倍:それでインドでは白内障手術が増えたのですね。

グリーン氏:インドでは、1992年には年間80万件の白内障手術が行われていました。それが2000年には500万、600万件になり、今では1,300万件に近づいています。それはすべて、価格競争力のある業界によって可能になったのです。今、アメリカや日本市場を見ると、価格競争はなく、価格は固定されています。誰も、自分たちの収益モデルをひっくり返したくないがために、たとえ値下げが可能であっても、価格を劇的に下げようとはしない。そうやって現状が維持されているのです。

アメリカでは医療製品の85%は、病院の大規模なネットワークを代表するグループ購買団体によって購入されています。かつては、病院が顧客となり、購買団体に多額の値引き交渉料を支払っていました。しかし、1992年に法律が改正され、購入価格の何%であれ、病院が儲かるようになりました。そのため、病院はより多くの手数料を得るために、より多くの金額を支払うようになったのです。そして、顧客である病院にリベートを支払うことが許されました。

つまり、この法律では、リベートとして病院に隠匿されることになるお金を稼ぐために、できるだけ多くの料金を請求し、できるだけ多くの支払いをするよう、すべての人にインセンティブを与えることになったのです。

だから、私がやっている仕事のもう一つの側面は、お金の流れやお金を儲けるために存在するあらゆる利害関係を理解することで、お金を儲ける方法に関する人間の作為をすべて取り除けば物事にはそれほど大きなコストがかからないことがわかる、ということです。

安倍:医療業界を保護しているわけですね。

グリーン氏:業界はロビイストにたくさんのお金を支払っています。日本も同じでしょう。

安倍:今回日本に来られた目的はなんですか?

グリーン氏:ロート製薬は、私がベトナムで開発した眼科病院に投資しました。私たちがベトナムの人々のニーズに応えるために立ち上げたベトナムの社会的企業です。

最近では、眼鏡レンズの製造・販売で、フランスのエシロール社に次いで世界第2位のHOYAと仕事をしています。なぜなら、未矯正の屈折異常は視覚障害の主な原因であり、間もなく白内障を抜いて失明の主な原因になるからです。だから、眼鏡をもっと手頃な価格で手に入れられるようにすることは、とても重要なことです。

そこで私たちはさまざまな業者を検討し、レンズを手頃な価格で購入できるようにするための最適なプランを思いついたのです。私は3週間前にインドで東南アジアのHOYAのシニアチームとミーティングをしたばかりです。

また、私は、日本の某大手消費財メーカーと仕事をしていて、彼らの製品を南アジアで販売する市場づくりを手伝っています。そして、彼らが市場開拓と並行してインドで慈善活動を始めることのアドバイスもしています。

私はこれまで白内障について多くのことをしてきました。昨年からは、目の角膜の破損による失明に焦点を当てています。KeraLink Internationalという角膜破損に起因する失明の安価な解決法に特化した非営利組織のCEOという任務が加わりました。KeraLinkは、角膜移植のためのアイバンクを数多く設立したアメリカの非営利団体です。彼らは米国の市場はすでに十分なサービスが提供されていると感じたので、アイバンクのネットワークを売却しました。そして売却で得たお金で、中低所得国の貧しい国々の角膜破損による失明に取り組んでいるのです。私は最初コンサルタントとして彼らと仕事をしました。

そして昨年から、角膜失明症に対処する斬新な方法は何かを検討するグループを運営しています。角膜移植をしなくても済むようにね。角膜失明の主な原因である細菌や真菌の感染をどう防ぐか。そして、角膜の前段階、つまり病気の部分を取り除き、角膜を再生させる材料をつけて、再び健康な角膜にするのです。私が現在取り組んでいるのは、日本のパートナー(主に産業界)を巻き込んで、角膜疾患への世界的な取り組みへの支援を呼びかけたいと考えています。

写真)アラビンド眼科病院での手術 昨年は16の眼科病院で64万件の手術と処置を行い、500万人以上の患者を診察した。

Surgery at Aravind Eye Hospital. Last year they performed 640,000 surgeries and procedures in 16 eye hospitals and saw over 5 million patients.

安倍:緑内障の予防についてはどのような活動をされていますか?

グリーン氏:日本の緑内障は正常眼圧で発症することがあるから、本当に難しい。非常に珍しい緑内障で、発見しにくいのです。しかも、日本人特有のものです。

ジョンホプキンス大学の同僚が、非常に興味深い緑内障ステント(眼内ドレーン)を開発したのですが、それは薬剤溶出性緑内障ステントで、眼圧を減少させます。

緑内障は、治療が最も難しい眼病のひとつだと思います。白内障は他の病気と同じように視力を回復させることができますが、緑内障は進行を止めるだけだからです。緑内障の早期発見のためにできることはたくさんあると思いますし、手術をしなければならなくなる前に、内科的治療を始めることができます。しかし、緑内障の早期発見のための良い手段はあまりありません。それが問題なのです。

安倍:自覚症状がないので発見が遅れることが多いです。

グリーン氏:私が開発に協力したあるニュージーランドの会社は、眼底カメラで網膜を撮影し、眼疾患を検出および測定できるアルゴリズムを開発しています。緑内障や黄斑変性症、糖尿病性網膜症を測定できます。このアルゴリズムがあれば、ドラッグストアに網膜カメラがあれば、血圧計みたいに、写真を撮りさえすれば緑内障かどうかを判定することができます。日本の大手企業が投資しているので、日本にも導入されると思います。彼らはアメリカ市場向けに健康開発を進めています。緑内障の早期発見は重要です。

安倍:日本に期待するところはなんですか?

グリーン: そうですね、私は、日本には非常に大きな可能性があると思います。 日本は世界で最も技術的に独創的で創造的な場所の一つで

す。 日本があらゆる素晴らしいテクノロジーを生み出したことは注目すべきことです。

安倍:金融的な支援という面で日本に何を期待しますか?

グリーン氏:私は多くのファイナンスを手がけていますし、ソーシャル・ファンドの設立も手伝ってきました。

日本の資金調達コストは歴史的に非常に低いと思います。また、資金調達の仕組みを見てみると、ほとんどは大企業が多額の資金を借り入れ、金利を支払うだけです。トヨタのような大企業は、借り入れを100%保証することができるため、20年間で1〜3%という非常に低い金利を得ることができます。

私が開発に導入したいのはそういう資金調達です。なぜなら、医療技術が手頃な価格で提供できるからです。大企業と同じような仕組みにすれば、安く資金調達することができます。ですから、開発のための助成金ではなく、負債による資金調達の方法を考え、政府や財団、あるいは企業が保証に参加すれば、借入のリスクコストを劇的に減らすことができます。そうすれば、大企業が手にするような非常に安いコストで資金を調達できます。では、最も利幅が大きく、最も安価な資金を得られるようにするにはどうすればいいのか?そして、最も利幅の少ない企業に、開発目的のための手頃な資金をどうやって提供するのか?私はまだそれをやっていませんが、それがどのように可能なのか見てみたい。

安倍:具体的にはどのような方法を考えているのですか?

グリーン氏:いくつかの方法があると思います。助成金もあれば、借金もあるし、エクイティもある。エクイティについては、ヘルスケア分野で日本以外の国で興味深い展開がたくさん起こっています。もし日本からの投資がそのような分野に流れ込み、革新的なスタートアップのメンタリティが日本に戻るとしたら、日本企業はとても独創的だと思います。他の国に見られるようなスタートアップのメンタリティは日本にはないですが、日本の投資は日本にイノベーションを呼び込むために利用できると思います。

それから、日本の資金調達のやり方や、日本がいかに低コストで資金を調達しているかも重要だと思います。ヨーロッパやアメリカに行っても、発展途上国での債務融資の手配は取り決めが何であれ、通常、それらの国の商業金利よりも高いのです。日本がその莫大な外貨準備高を使って、為替ヘッジの必要性を回避してお金を貸す方法を見つけるにはどうしたらいいでしょうか?

例えば、日本の銀行はどのようにして円ではなくルピーで融資を行い、借り手が為替変動に苦しまないようにしたのだろうか?ヘッジに高いコストを払わなくて済むようにするために、彼らはどこにいるのだろう?というのも、日本には多くの資金があるからです。

安倍:日本企業からの寄附はどのような状況ですか?

グリーン氏:日本では、他の国と違って、寄付をするという考え方がほとんどありません。では、日本の寄付や助成金を喚起する説得力のある方法とはどのようなものでしょうか?つまり、税制の変更や、助成金や寄付金から控除を受ける方法を変えることは検討すべきことだと思います。

そして、アメリカではどのように税額控除を受けるのでしょうか?さらに、彼らの思いやりや楽観主義に訴えるのですか?どうやって?日本で同じことをするには?人々の「良いことをしたい」という願望をどう利用すれば変革につながるのか?それは大きな挑戦だと思う。しかし、日本にはそのための資金がたくさんあります。それは可能だと思う。寄付や社会的投資の環境はまだ始まったばかりです。それを活用できれば、世界に多くの利益をもたらすことができると思います。

安倍:日本が貢献できることはまだたくさんある、ということですね。問題は日本自身がそれに気付いてないことのような気がします。

グリーン氏:8人の男性が世界の富の50%を持っていて、86%は26人が持っています。このような大きな格差があり、それは悪化の一途をたどっています。だから、私は価格格差に焦点を当て、物事をより手頃な価格にすることにしている。所得格差は、すでにさまざまな経済に組み込まれているので、私にできることはあまりないと思います。しかし、価格格差については、どうすれば手頃な値段で買えるようになるのか、まだわからないと思います。

つまり、金融サービス、次に医療に格差が集中しています。なぜなら、すでに多くのマージンがあるため、そのマージンを減らして手頃な価格にする方法をほとんど常に見つけ出すことができるからです。つまり、私がやっているようなことです。価格設定がすべてです。

オーロ・ラボでは、価格設定によって競争環境全体を変えました。インドでは年間80万件だった白内障手術が700万件以上になりました。私がオーロラボを立ち上げたとき、縫合糸契約で世界最大、あるいは世界第2位のヘルスケア企業である大企業を打ち負かした。彼らは私たちが入札要件を満たしていないとして私たちを訴えた。彼らは敗訴しましたが上訴して(今度は)勝訴しました。その後、私たちはインドの最高裁判所に提訴し、そのレベルで彼らを打ち負かしました。

しかしその間に、彼らは次の契約で私たちを打ち負かすために、1箱240ドルから23ドルへと価格を下げた。

安倍:社会起業家はそのような行動に出る大企業に対抗していかねばならないのですね。

グリーン氏:(わたしたちが)競争において価格を武器にして、消費者に有利なように競争環境を変えるにはどうすればいいかということです。世界のほとんどの人々は貧しいのです。つまり、低所得者に有利になるように競争を利用するにはどうしたらいいのか。でも、みんな競争していません。ほとんどの医療機器では2〜4社が業界全体の80%を独占しています。彼らは自分たちの収益モデルを崩したくないから、暗黙のうちに価格操作をしているんです。どうすればそこに参入して状況を変えることができるかを考えねばなりません。

発展途上国では、ニーズが大きいから多くの人々に高価格で販売することができます。でも、それは市場のごく一部に過ぎない。だから、手ごろな価格の製品を手に入れようという意欲が高まっているのです。ある意味、発展途上国には、手頃な価格の製品を作るためのエコシステムがあるのだと思います。

(インタビューは2023年7月18日東京都内にて行った)

写真)(上段左)ロルフ・スピングラー(中央)のおかげで縫合糸の製造が開始され、その知識を共有して縫合糸製造技術のすべてを開発したオリジナル・チームとデビッド。

(上段右)アラビンド眼科病院を率いるラヴィンドラン医師、ライオンズ・アラビンド地域眼科研究所(LAICO)を運営するトゥラシラジ氏。

(下段左)デビッド・グリーンとロート製薬会長兼CEOの山田氏。アリーナ・ビジョンの活動を通じて、ベトナムの社会的企業眼科病院の開発を支援した。

(下段中央)アラビンド眼科病院のナッチャール医師と。 2人のパートナーシップにより、オーラボが誕生した。ナッチャール医師は白内障外科医として世界最高の成績を収めている。

David with the original team that started suture production, thanks to Rolf Spingler, center, who shared his knowledge and developed all of the suture manufacturing technology

David with Dr. Ravindran, head of Aravind Eye Hospitals; and Mr. Thulasiraj, who runs the Lions Aravind Institute of Community Ophthalmology (LAICO) which has helped thousands of eye care programs improve quality, increase surgical volume and become self-financing.

David Green with Mr. Yamada, Chairman and CEO of Rohto Pharmaceuticals, which supported development of  social enterprise eye hospital in Vietnam, through the work of Alina Vision.

David with Dr. Natchiar of Aravind Eye Hospital.  Through their partnership, Aurolab was born. Dr. Natchiar is the highest performing cataract surgeon in the world.

(了)

トップ写真:先天性白内障は小児失明の主な原因です。アラビンド眼科病院での白内障手術のおかげで、この少女は再び目が見えるようになりました。

Congenital cataract is the leading cause of childhood blindness. This little girl can see again, thanks to cataract surgery at Aravind Eye Hospital.




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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