無料会員募集中
.国際  投稿日:2023/9/22

米議員たちが日本の水産物に舌つづみ


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・連邦議会議事堂で寿司パーティー開催、下院議員40人ほどが福島産含む日本の寿司を食べた。

・処理水の安全性を期せずして証明し、中国の態度の理不尽さへの反対を明示した。

・ギャラガー中国競合特別委員会委員長「中国政府の措置は不当で有害」と述べた。

 

 やはりアメリカは日本の味方ということか。中国の無法な言動の嵐が日本に向かって吹き荒れるなか、アメリカ議会の議事堂内で下院議員40人ほどが福島産を含む日本の魚の寿司をうまそうに食べたのだ。

 議員たちのこの行動は東京電力福島第一原子力発電所から海洋に放水された処理水の安全性を期せずして証明し、中国の態度の理不尽さへの反対を明示したこととなるからだ。

9月18日、ワシントンの連邦議会議事堂の下院側の小会議室で寿司パーティーが開かれた。主催はワシントンの在米日本大使館である。正式には「日本産食品のPRイベント」などと称されていたが、内容としては福島県産の海産品による寿司や酒を立食の形で出すこともうたっており、実際には福島産の魚類などの安全性を誇示する意図が明確にされていた。

写真:寿司パーティーに出品された日本酒など 2023年9月18日 アメリカ・ワシントンD.C.

出典:ⒸShoichiro Iwanaga

開始は下院の本会議や委員会が審議を終えた直後の午後5時半、冒頭から意外なほど多数の議員たちが姿をみせた。しかも共和党、民主党両方の超党派、男女両方の議員たちが入室して、それほど広くない部屋の中央のテーブルに盛られた寿司にすぐに手を伸ばして、食べ始めた。

 

写真:寿司を楽しむ米下院議員達 2023年9月18日 アメリカ・ワシントンDC

出典:ⒸTakeru Terao 中国特別委員会提供

寿司を握るのはワシントンで長年、「鮨小川」というレストランを経営してきた寿司専門シェフの小川稔さんだった。アメリカ側の議員たちがつぎつぎに寿司を平らげるのに対して、新たな寿司をスピード感をもって握っていく。寿司の魚には福島沖で獲れて、空輸されてきたヒラメやスズキもあるという。

議員たちは立食を続けながら、日本側の大使館員やメディアの記者たちとも懇談した。そのうちに下院外交委員長のマイケル・マコール議員(共和党)や、新設の中国競合特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(同)ら下院の有力メンバーも参加した。民主党側ではキャサリーン・クラーク、ジュディ・チュー両議員など女性が目立った。参加した議員は総数約40人にも達した。

議員たちはみな寿司を食べながら懇談した。当然、話題は中国による日本の水産物輸入禁止の措置が主体となった。その過程で中国問題を日ごろ論議している中国競合特別委員会のギャラガー委員長が挨拶した。

写真:中国競合特別委員会ギャラガー委員長 2023年2月28日 アメリカ・ワシントンD.C.

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images

「いま私たちはこうして日本産の魚の寿司を楽しみながら食べています。中国政府はいま日本の水産物が汚染水により、危険だと主張して全面輸入禁止の措置をとりました。しかし日本の処理水は国際原子力機関(IAEA)によって、さらにアメリカの食品医薬品局(FDA)によって安全性が証明されており、その結果、日本の水産物は福島産も含めてまったく安全です。

中国政府が日本の処理水を汚染水と呼ぶのは科学的根拠のない政治プロパガンダであり、日本経済を傷つけようとするウソです。アメリカは日本との同盟を重視し、中国の日本に対するこの経済的威圧を断固として非難します」

まさに日本への全面支援の言葉だった。いまのアメリカ議会では共和党と民主党は多数の案件をめぐり激しく対立しているが、今回の日中対立に対しては共和、民主両党が反応をまったく一致させていた。この寿司パーティーの場でも民主党側でも中国の態度を批判する議員たちの言葉が聞かれた。

なおギャラガー議員が委員長を務める中国競合特別委員会(正式名称は中国共産党との戦略的競合に関する特別委員会)は9月13日に中国政府の日本産水産物輸入禁止の措置に対して「福島の原子力発電所の放出処理水は国際原子力機関やアメリカ政府の食品医薬品局も安全性を証明しており、中国政府の措置は不当で有害だ」とする声明を発表している。共和、民主両党の委員会メンバーが全員一致しての声明だった。

この議会の意思が期せずして、この寿司パーティーの場で実地に表明されたのだといえよう。

トップ写真:寿司を楽しむ米議員ら 2023年9月18日 アメリカ・ワシントンDC

筆者提供)




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."