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.国際  投稿日:2024/2/1

慰安婦は性奴隷ではなかった証拠


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・2007年に米下院、「日本は慰安婦を性的奴隷とした」との決議を採択。

・J・マーク・ラムザイヤ―教授、その16年前に「慰安婦女性たちは商業的な売春婦だった」論文発表。

・日本、早い段階で反論していれば汚辱も避けられた。

 

日本軍のいわゆる従軍慰安婦問題ほど日本を傷つけた虚構は珍しい。その虚構が虚構であることがアメリカの実績のある法律専門家によって、改めて裏づけられた。ハーバード大学ロースクールのJ・マーク・ラムザイヤー教授による新刊書慰安婦性奴隷説を ラムザイヤー教授が完全論破(ハート出版)によってである。ワシントンでの慰安婦問題での不当な日本攻撃を目撃し、反論までしてきた私にとっては深い感慨を覚えさせられる書だともいえる。

▲写真 ハーバード大学ロースクールJ・マーク・ラムザイヤー教授 出典:ハーバード大学ロースクール

慰安婦問題では2007年7月31日は日本の国家や国民への汚辱の日だった。同盟国のアメリカの連邦議会下院が「日本の政府や軍はアジア各地の女性を集団的に強制連行し、20万人を日本軍の性的奴隷とした」という虚構の決議を採択したからだった。しかもこの決議は日本政府に対して、その時点での反省や謝罪、賠償までを求めていた。

だがこの決議は虚構の主張に基づいていた。この年、2007年に民主党が多数を制した同下院で中国や韓国さらにアメリカ学界の左傾反日派と結託したマイク・ホンダ議員が主導した虚偽の主張が通用してしまったのだ。ホンダ議員は日系人とはいえ、カリフォルニア州に拠点をおく中国系の「世界抗日戦争史実維護連合会」に激励され、主導されての日本糾弾の決議案を連邦議会に出したのだった。この「抗日連合会」は中国共産党政権とも確実な絆があった。

▲写真 マイク・ホンダ議員 出典:CONGRESS.COM

しかしこの決議案の主要部分は事実に反していた。だからこそそんな決議のアメリカ議会での採択は二重三重に日本にとっては汚辱だったのである。私はワシントン駐在の産経新聞特派員としてこの決議案の動きを追い、報じた。アメリカ側のテレビの要請に応じて、日本の立場を説明することにも努めた。だがこの虚偽に基づく決議案はアメリカ下院で採択されてしまったのだ。繰り返すが、日本への汚辱だった。

その時点でこの書が紹介するラムザイヤ―教授の研究論文が認知されていれば、そんな汚辱は起きなかっただろう。本書はハーバード大学ロースクールの法学者というだけでなく、日本の法律や経済にも精通したラムザイヤ―氏が慰安婦の真実について明確な証拠をあげた精緻な論文を紹介していた。その要旨は慰安婦とされた女性たちが日本の公娼制度を基礎とした高額な賃金支払いを前提とする民間での任意の期限つき商業契約だったことを立証した複数の論文だった。要するに慰安婦とされた女性たちは商業的な売春婦だったというのである。

ラムザイヤ―教授は日本やアジアでの貧困が不幸な売春を生んだことへの同情をも表明していた。この点、アメリカ人のキリスト教宣教師だった父親の下で少年時代を九州で過ごした同教授には日本や日本人への温かい思いもあることが学術論文のなかでさえ、感じさせられる。同教授は朝鮮半島などアジアの各地で慰安婦という公娼に応募した女性たちの貧困な背景にも人道主義といえる観点からの認識を示していた。

しかし本書でラムザイヤ―論文が最も大きな重点をおいたのは日本の政府や軍が若い女性たちを組織的に連行したり、強制的に売春をさせた事実はなかったという点だった。

だから本書は日本の国家国民へのおぞましい冤罪、そして汚辱を改めて晴らす第一級資料でもあるのだ。

だがさらに衝撃的なのはラムザイヤ―教授自身へのアメリカ学界、とくに日本やアジアの研究分野の人たちからの迫害である。同教授の新論文の米側学術誌への掲載が決まった段階から同教授への脅迫に近い攻撃が始まったことを教授自身が具体的に伝えている。

その種の攻撃をする側は慰安婦に関する虚構を虚構と認めていないのだ。吉田清治という人物によるウソの報告に明らかに依存して、「強制連行、性的奴隷」説を打ち上げてきた事例も明確だった。さらには朝日新聞が後に全面撤回した一連の慰安婦強制連行報道をも根拠にして性的奴隷説を唱えてきた学者、研究者たちも存在したことも明らかだった。虚構の上に立った虚論を正論だと叫んで、正論を攻撃する、という茶番のような展開だったのだ。

さらに注目すべきは本書の報告するラムザイヤー論文の1本がアメリカ下院の日本糾弾決議の16年も前に発表された事実でもある。この論文だけでも日本軍の慰安婦が「性奴隷」でも「強制連行」でもなかったことが証される。日本側がこの種の資料を使い、早い段階で反論していれば、日本全体への汚辱も避けられたかもしれない。本書の示す教訓の一つだろう。

日本側ではアメリカ下院での決議案が審議され、採決にかけられる過程で、すでにその内容には虚構が多いことはかなり広く知られていた。だが日本政府はもとより民間でも、その虚構を虚構だと正面から指摘する動きはなかった。やはりこの種の不当な非難に対しては日本側自体の正面からの早い段階での反論が欠かせないのである。

▲写真 「慰安婦性奴隷説を ラムザイヤー教授が完全論破」マーク・ラムザイヤー著 藤岡信勝、山本優美子編訳/藤木俊一、矢野義昭、茂木弘道訳(ハート出版 1980円)

**この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文に一部、加筆した転載です。

トップ写真:アムネスティ・インターナショナル事務所で面会する元慰安婦李容洙(イヨンス)氏ら(2007年2月16日、ワシントンD.C.) 出典:Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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