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.国際  投稿日:2023/9/28

李在明逮捕令状棄却、来年の韓国総選挙に影響必至


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

ソウル中央地裁、李在明共に民主党」代表逮捕を不許可とする決定。検察は遺憾を表明。

次期大統領の最有力候補李在明氏の収監回避は、尹錫悦政権に打撃。

・来春の総選挙に向けた政局に影響を与える。

 

9月21日に李在明「共に民主党」代表の逮捕同意案が韓国国会で可決されたことにより、26日の裁判所判断が注目されていたが、ソウル中央地裁は、27日未明、逮捕を不許可とする決定を下した。 

李在明氏は、大庄洞(テジャンドン)ニュータウン開発不正をはじめとする数々の不正容疑で検察の捜査と裁判を受けている「疑惑のデパート」と言われる人物だ。今回検察が求める逮捕状には、これらの容疑のうち、柏峴(ペクヒョン)洞ニュータウン開発不正、北朝鮮への不正送金、証拠隠滅教唆などの容疑が記されていた。

この決定を担当したソウル中央地裁の劉昌勲(ユ・チャンフン)令状専門部長判事は、27日午前2時23分、広報官を通じて793字に達する長文の棄却理由を入れたメッセージを記者団に伝えた。

■裁判所の「逮捕不許可決定」で検察は遺憾を表明

劉部長判事は「(検事詐称関連公職選挙法違反裁判の)偽証教唆容疑は疎明されたとみられる」としながらも、「柏峴洞(ペクヒョンドン)開発事業の場合、公社の事業参加排除の部分は、被疑者の地位、関連決裁文書、関連者の陳述などを総合すると関与があったとみられる相当な疑いがあるが、一方でこれに関する直接証拠そのものが不足する現時点では、事実関係と法理的側面で反論している被疑者の防衛権が、排斥されなければならないと断定するのは難しい」と明らかにした。

続けて「北朝鮮への送金の場合、核心関連者である李華永(イ・ファヨン)元京畿道(キョンギド)副知事の陳述をはじめとする現在までの関連資料によると、被疑者の認識や共謀の有無、関与のレベルなどに関して争いの余地があるとみられる」と付け加えた。

劉部長判事はまた偽証教唆と柏峴洞開発事業の場合現在まで確保された人的、物的資料に照らして証拠隠滅の懸念があるとみるのは難しい」とした。また「北朝鮮への送金の場合、李華永の陳述と関連して、被疑者の周辺人物による不適切な介入に疑いの余地はあるが、被疑者が直接的に介入したと断定する資料が不足している。(陳述を5回も変えた)李華永のこれまでの捜査機関への陳述に任意性がないとみるには難しい(検察の強制はない)が、しかし陳述の変化は、結局陳述の信憑性の判断領域(裁判で明確にする問題)である(争いの余地がある)点、別件裁判に出席している被疑者の状況と被疑者が政党の現職代表として公的監視と批判の対象である点などを考慮すると、証拠隠滅の懸念があると断定するのは難しい」と説明した。

この裁判所の判断に対して、検察も異例の長文の立場表明を行い遺憾の表明を行った

令状棄却から1時間ほど過ぎた3時57分、ソウル中央地検名義のメッセージを通じ「偽証教唆容疑が疎明されたと認め、柏峴洞開発不正に被疑者の関与があったとみるほどの相当な疑いがあるとしながらも、北朝鮮への送金と関連し被疑者の介入を認めた李華永(イ・フアヨン)の陳述を根拠に争いの余地があるといった判断に対しては納得しがたく非常に残念」とし、続けて「偽証教唆容疑が疎明されたというのは証拠隠滅を現実的に行ったということなのに、証拠隠滅の懸念はないと判断し、また周辺人物による不適切な介入を疑うほどの状況を認めながらも証拠隠滅の懸念はないというのは矛盾」と指摘し「納得しがたく、非常に遺憾」との立場を明らかにした。

検察は、拘束令状再請求はしない方針だ。検察関係者は「令状再請求をすれば国会逮捕同意案裁決をまた経なければならないなど1~2カ月程度さらに時間が必要となる。令状再請求せずに起訴する予定」と話した。李代表を起訴するならば秋夕(チュソク、中秋)連休後が有力だ。

■逮捕をまぬかれようとハンストまで行った李代表

様々な疑惑に対する証拠隠滅による逮捕危機に瀕していた李在明氏は、8月31日に突然、「福島原発汚染水放流阻止」「尹錫悦政権暴政糾弾」との理由を掲げてハンガーストライキに突入した。しかし、目標が曖昧な李在明のハンストは、国民の支持を受けられず、むしろ検察による逮捕を避けるための手段だという非難が殺到した。

しかもハンストの内容も中途半端なものだった。午前10時から午後10時まで国会前庭のテント内でハンストをし、それ以外の時間は党代表事務室に入って休息を取るスタイルだったために「シンデレラ断食」と揶揄された。

そして9月18日、検察が逮捕状を請求する数時間前、李在明は救急車で病院に運ばれた。病院に搬送される直前には「呼吸困難からせん妄症状まで見られる」状況だったと伝えられたが、国会近くの大学病院の救急室から3時間後に出てくると、そこから30キロも離れた「緑色病院」という比較的小さな病院に移送されていった。

李在明氏に対する逮捕同意案の国会表決が21日に行われることが確定すると、民主党は「否決」を主張する親李在明派と「可決」を主張する非李在明派に分裂した。民主党は親李在明系が主流だが、すでに国民の力と正義党が可決を党の方針と決定していたので、民主党から30票余りの離脱票があれば可決できる状況だった。

すると20日の夕方、入院中の李代表は、それまで2回に渡って不逮捕特権を放棄するとしていたにもかかわらず、自身のフェイスブックで「否決」を訴えた。

3カ月前に約束した「不逮捕特権の放棄」をあっさりと覆した李在明の決死の訴えは、むしろ逆効果を招いた。民主党に好意的な『京郷新聞』や『ハンギョレ』などの革新系のメディアまでも李氏を批判し、民主党内でも李在明逮捕の可能性が高まることを予想する意見が増えた。

21日、国会で表決が行われる直前、李在明氏は病院を訪れた非明系のパク・グァンオン院内代表に会って「党を統合的に運営する」と約束した。要するに「総選挙で公平な公認をする」という懐柔策だった。しかし約束を何度となく違えてきた李在明の言うことなど信頼できないと判断した議員から29票の反乱票が出て、李在明に対する逮捕同意案は国会で可決された。

■李代表の逮捕不許可は来年の総選挙に大きな影響

逮捕同意案の可決後、李在明氏の第一声は「検事独裁政権の暴走を防ぎ、民主主義を守りぬきます。国民だけを信じて行きます」というもので、支持者に結束を訴えた。23日には、入院先の病院の医師の勧告により、断食も中止したという。目の前に迫った26日の裁判所での逮捕状審査に出席するためとみられる。令状審査に当事者が出席しないと不利になるからだ。

しかし今回の裁判所の逮捕不許可決定で、崖っぷちに追い込まれていた李在明代表は、最大の危機を回避することに成功した。民主党内では、親李在明系議員とその支持者たちによって、可決に票を投じた李在非明系議員を炙り出す「裏切り者狩り」が、さらに勢いを増している。

今回の裁判所判断について、令状審査経験がある部長判事出身の弁護士は「証拠隠滅の懸念よりは野党代表という存在にウエイトを置いた判断。被疑者自ら誠実に裁判を受けるという野党代表をあえて拘束する必要があるかという考えが作用したもの」と解釈した(中央日報2023・9・27)が、一部では劉部長判事の思想的背景が作用したとの指摘もある。

李在明代表の拘束が不発に終わり、今後、各事件起訴に根拠を提供した関係者が法廷で一貫した陳述を続けるのかどうかなどが変数として浮上することになった。

水原地検などが継続中の李在明関連の残る疑惑捜査の動力も失われかねない危機に置かれた。▽サンバンウルグループの李代表に対する後援金疑惑▽証拠隠滅など司法妨害疑惑▽大庄洞疑惑のうち天火同人1号428億ウォン約定疑惑▽亭子洞(チョンジャドン)ホテル特恵疑惑などに対する捜査が現在進行形だ。

検察関係者は「すでにふくらんだ疑惑に対する捜査をしないわけにはいかない。李在明代表が拘束されず証人が心理的に萎縮するなど捜査に困難が生じる恐れがある」と話した(中央日報2023・9・27)

次期大統領の最有力候補にも挙げられる李在明氏が収監を回避したことで、野党との対立が深刻化する尹錫悦ユンソンニョル)政権にも打撃となり、来春の総選挙に向けた政局に大きな影響を与えるとの見方が広がっている。

トップ写真:2022年3月9日の大統領選挙に向けたテレビ討論会を前に見守る与党民主党の大統領候補李在明(2022年3月2日 韓国・ソウル)出典:Photo by Jung Yeon-Je – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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