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.国際  投稿日:2024/8/21

暴かれた福島原発処理水に対するデマ


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・福島第一処理水海洋放出で韓国では、従北朝鮮左派や野党らによりデマが流布された。

・1年にわたる韓国内の科学的調査で全くのデマであったことが証明された。

・尹錫悦大統領は、北朝鮮は暴力と世論撹乱、宣伝、扇動で混乱を拡大させ国論分裂を図ると強調。

 

昨年8月に福島第一原子力発電所に貯留されている処理水の海洋放出が始まったが、放出前後に韓国の従北朝鮮左派をはじめ野党「共に民主党」などによってさまざまな「怪談(デマ)」が流布され、反日を煽り、韓国国家に対してだけでなく水産業者をはじめとした各界に多大な損害を及ぼした。これらの「怪談」が、その後1年にわたる科学的調査で全くのデマであったことが証明された。

■ 韓日関係改善反対のために広められた「汚染水怪談(デマ)」

日本政府が、IAEAの承認のもとで、福島原発内の処理水125万トンを約30年にわたって海洋に放出すると発表したのは2021年4月だった。

その後、東京電力は、多核種除去設備(ALPS =advanced liquid processing system)を通じて汚染水の中の核種を除去し、除去できないトリチウムは濃度を汚染水1リットル当たり14万-17万ベクレル(放射能の単位)から1500ベクレル以下まで希釈して処理水として海に放出した。

これは世界保健機関(WHO)が定める飲料水のトリチウム濃度基準(1リットル当たり1万ベクレル)よりも厳格な値だ。1リットル当たり1万ベクレルという基準は、毎日2リットルずつ1年間飲んだ場合に、被ばく量が胸部レントゲン1回撮影したのと同じレベルものだ。

KAIST(韓国科学技術院)原子力・量子工学科のチェ・ソンミン教授は「福島原発付近から数キロ離れただけで、トリチウムの濃度は韓国の漢江(ハンガン)や蟾津江(ソムジンガン)と同じレベルまで低下する」として「この濃度が危険だと言うのなら、韓国の川も汚染されていると言うようなものだ」と指摘した。

ところが韓国では、昨年3月の日韓首脳会談以降、「汚染水怪談」が広まった。そのキッカケは、2023年3月、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領訪日(韓日首脳会談)時、「尹韓日議員連盟との面会で、日本産ホヤの輸入再開を要請された」と、尹政権が福島県産水産物の輸入再開に応じるかの如き歪曲報道を日本の一部メディアが行ったことからだった。

韓国野党「共に民主党」議員は、「IAEA報告書」説明のために韓国に訪れた(2023年7月)IAEA事務局長のグロッシ氏に「最初から中立性や客観性を失い、日本側に偏って検証を行った」と激しく非難した。国会の外では処理水放出やIAEAの報告書に反対するデモが行われた。

徐ソウル大名誉教授の徐鈞烈(ソ・ギュンリョル)など一部のエセ学者が、科学的根拠もなしに「日本産のヒラメが海を渡って韓国にやってくる」「放出された汚染水が年末には済州島に流入する」などとでたらめな主張を行いデマ拡散を勢いづけた。野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は「汚染処理水を『核廃水』と呼ぶ」と発言するなど「デマ」反日に利用し、韓日関係改善に努力する尹錫悦政権打倒を叫んだ。

日本の社会民主党・大椿裕子副党首は、2023年7月に1泊2日の日程で韓国を訪れ、韓国国会本館前で「汚染水放流反対」を叫んで断食を行っている韓国の国会議員らと面会し(7月6日)「福島汚染水放流反対」を共に叫んだ。

■ 4万回検査して基準値超過ゼロ件、対策費用は1.5兆ウォン

この1年間で、韓国政府は韓国と日本の水産物、天日塩、海水を対象に放射能検査を合計4万4000回実施したが、放射能の基準値に迫るような検査結果は1件もないことが分かった。実際には、検査結果は「基準値以下」と言うだけでは説明が足りないほどだ。

(韓日の水産物に対して)計3万7781回の検査を実施したが、そのうち99.8%(3万7703回)は放射能濃度があまりにも低く、検出装置で測定すらできない「不検出」レベルだった。機械で放射能が検出されたのはわずか78回(0.2%)で、それもほとんどが基準値の50分の1にも満たなかった。さまざまな「怪談(デマ)」が全て捏造されたものだったことが明らかになったのだ。

慶熙大学原子核工学科の鄭ボム津(チョン・ボムジン)教授は「福島の海洋放出による放射能の危険は事実上『皆無』だったことが科学的に立証されたようなものだ」と述べた。

韓国政府は、この「怪談」流布を阻止し、国民の不安を払拭するために、各種の検査と水産物の消費促進イベントに莫大な予算を投入せざるを得なかった。

韓国海洋水産部は、2021年、日本が処理水の海洋放出計画を発表すると、22年に2997億ウォン(執行額基準)、昨年は5240億ウォンの「対応予算」を投入した。今年の編成額(7319億ウォン)まで合わせると、3年間でその費用は1兆5556億ウォンに達する。安全性検査の費用を除いた90%以上は水産物の消費促進と漁業関係者の経営安定資金として使われたが、これはデマが出回らなければ必要のなかった資金だ。

■ 冷静さを保たせた尹政権の対応

専門家らは、狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)騒動(2008年)の時とは異なり今回は韓国社会がデマにうまく対処したと評価する。狂牛病騒動の時は「米国産の牛肉を食べると『脳がスカスカになる』」といったデマが広がり、米国産牛肉の輸入が禁止されるなど3兆7000億ウォン(韓国経済研究院推定)の被害が出た。

しかし今回、科学界は福島の海洋放出について「安全上の問題はない」という意見で一致した。国際原子力機関(IAEA)が放出1カ月前の昨年7月、「日本の海洋放出計画は国際的な安全基準を順守している」という結論を出し、韓国の原子力学界の専門家たちもさまざまなデマに対して積極的に反論した。韓国政府も連日のように関連ブリーフィングを行うなど、迅速な対応によってデマの拡散を阻止した。

尹錫悦大統領は8月19日、「2024年度乙支及び第36回国務会議」を主催した席で、「(北朝鮮が戦争を仕掛ける場合)北朝鮮は、開戦初期から反国家勢力を動員して暴力と世論撹乱、宣伝、扇動で国民的混乱を拡大させ、国論分裂を図る」と強調した。そして「こうした混乱と分裂を遮断し、全国民の抗戦意志を高める方案を積極的に講じなければならない」と釘を刺した。

尹大統領は「ウクライナ戦争と中東地域紛争で見られるように、戦争はいつでも起こりうる」とし「戦争形態も過去とは変わった」と分析し、「正規戦、非正規戦、サイバー戦はもちろん、偽ニュースを活用した世論戦と心理戦が組み合わされたハイブリッド形態で戦争が行われている」と語った。

トップ写真:福島第一原子力発電所 出典:EyeEm Mobile GmbH/GettyImages




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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