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.国際  投稿日:2022/6/8

韓国地方選で与党圧勝、李在明、文在寅の運命は?


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・地方選で与党「国民の力」が大勝。尹大統領は国会での「与小野大」を克服する足掛かりを得て政権基盤は確かなものに。

・敗れた野党「共に民主党」の李在明氏は捜査に対する特権を持つ国会議員に当選したが、韓国警察は数々の不正疑惑への捜査を再開した。

・検察から捜査権を剝奪した文在寅前大統領も抗議デモと海洋水産部の捜査に直面することに。李氏、文氏が逮捕なら「共に民主党」は空中分解へ。

 

6月1日に韓国で実施された第8回地方選挙で、与党「国民の力」が大勝を収めた。「国民の力」は3月の大統領選に続き、今回の選挙でも4年前に「共に民主党」に奪われた地方権力まで奪還し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)新政権の基盤を確かなものにした。

尹政権の政策遂行に弾み

与党「国民の力」は17の広域団体長選挙の内、ソウルを始めとした12カ所で勝利した。2018年の選挙で、「共に民主党」が14対2の大差で自由韓国党(現・国民の力)を破った時とは正反対の様相だ。特に忠清道の知事・市長4席すべてを奪還したのが大きかった。また7カ所の国会議員補欠選挙でも、国民の力は5カ所を制した。

基礎団体長(市長・郡守・区長)選挙では、226カ所中145カ所で与党「国民の力」が勝利し(共に民主党63、無所属18)、4年前とは真逆の結果となった。4年前には「共に民主党」が151カ所、「自由韓国党」が53カ所だった。

首都ソウル市では区庁長25カ所中17カ所を、首都圏の市長では66カ所中46カ所を「国民の力」が占めた。

尹錫悦政権発足から22日後の全国単位選挙で与党「国民の力」が大勝したことで、尹政権は国会での「与小野大」を克服する確固たる足掛かりを築いたと言える。

反面「共に民主党」は、大統領選挙時に「国民の力」より得票率が高かった京畿・仁川・世宗の選挙区でも大敗したことで、指導部への責任追及が強まり、すでに内紛から分裂へと進む状況となっている。

今回の「6・1統一地方選挙」で与党が圧勝したことで注目されるのは、大統領選で破れ、今回の国会議員補欠選挙で当選した「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)議員と文在寅前大統領への捜査の行方だ。

▲写真 大統領選での敗戦の弁を述べる李在明氏。6月の地方選での国会議員補選で当選した。(2022年5月10日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

本格化する李在明への捜査

国会議員特権(捜査から逃れる防弾チョッキ)を手に入れるために補欠選挙に立候補した李在明氏は、党の選挙対策責任者としての責務も放り出し、なりふりかまわぬ選挙を行って当選した。しかしすでに文在寅政権時代の検察首脳や警察首脳は全員交代との方針が確定している。権力の防護壁はなくなっているのだ。

選挙が終わるや韓国警察は、文前政権が捜査を中断させていた李在明議員がからむ「大庄洞(テジャンドン)開発疑惑」を始めとする数々の不正疑惑への捜査を再開した。その突破口が、李在明議員の配偶者、金ヘギョン氏の京畿道公務用クレジットカードの私的流用疑惑捜査の本格化だ。

京畿南部警察庁は先月中旬、カードの使用先と推定される京畿道城南市や水原市などにあるぺクス(水炊き)専門店、中華料理店、寿司店、サルグッス(米麺料理)店など129カ所を家宅捜索し、公務用クレジットカードの利用明細など各種の資料を確保したという。

文在寅へ連日の抗議デモ、捜査も着々進む

一方、蔚山市長選挙不正疑惑、月城原発1号機経済性捏造疑惑、金正恩との秘密取引疑惑などへの捜査を阻止しようとして検察から捜査権を剝奪する検察庁法と刑事訴訟法(防弾チョッキ法と言われている)の改正を公布した前大統領の文在寅氏もデモ隊の抗議と海洋水産部の捜査に直面している。

▲写真 文在寅前大統領(2022年5月1日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Jeon Heon-Kyun – Pool/Getty Images

文在寅氏は蔚山市に隣接する梁山(ヤンサン)市下北面芝山里(ハブクミョン・チサンリ)に居を移して(農地法を違反して手にしたと言われている)足を伸ばそうとしたが、右派市民はそれを許さなかった。私邸前にデモ隊が押しかけ、拡声器で「(北の)スパイ野郎」「このゴミ野郎」「ひざまずいて謝罪しろ」などと連日罵声を浴びせている。デモ隊は拡声器の音量を法に触れない範囲にしていたが、警察は近隣住民への保護のために夜間の活動などに一定の制限を加えた。

騒音が問題となるや、デモ隊は、「文在寅逮捕」との張り紙を張り出したり、黒い風船や100個を超える手錠をフエンスにかけるなどの示威行動に出た。これに対しては警察は取り締まる根拠がないとしている。

これに対して文在寅氏はデモ隊リーダー4人を告訴した。「共に民主党」も法律まで作ってこれを阻止しようとしている。しかし文前大統領や「共に民主党」は、李明博元大統領邸に対する民主労総のやりたい放題のデモは放置していた。今回の措置も文氏得意のネロナムブル(自分がやればロマンス、他人がやれば不倫)といえる。

だが、文在寅氏にとって深刻なのはデモ隊だけではない。海洋水産庁が動き出したのだ。巡視船で勤務中行方不明となり2020年9月24日に西海(黄海)漂流中、北朝鮮軍に射殺焼却された韓国海洋水産部職員の名誉を回復するだけでなく、事件を放置し国民保護の義務を放棄した文在寅氏を捜査しようとしているのだ。もちろんこの捜査は他の重大疑惑捜査への突破口だとされている。(参考記事:文政権、自国公務員を見殺し?

こうした捜査によって李在明、文在寅の「犯罪」があきらかにされ、彼らが塀の中の人となれば、「共に民主党」は空中分解することは間違いない。その中核の5・8・6世代と言われる従北朝鮮勢力は政治舞台から消えることになるだろう。今後の成り行きが注目される。

トップ写真:地方選勝利で政権基盤を固めた尹錫悦大統領(2022年6月6日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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