韓国野党民主党と李在明代表に迫る危機
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・韓国検察は9月8日、「共に民主党」李在明代表を大統領選期間に虚偽事実を流布したとして公選法違反の疑いで起訴。
・李在明代表には公職選挙法違反以外にも10以上の疑惑がある。
・有罪確定すれば、共に民主党は党存亡の様々な不安の中で反尹政権闘争を続けなければならない。
韓国検察は9月8日午後、「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)代表を第20代大統領選挙(2022年3月9日)期間に虚偽事実を流布したとして、公職選挙法違反の疑いで起訴した。野党第一党の大統領候補でもある党の代表が選挙直後に起訴されたのは初めてだ。
容疑は、キム・ムンギ元城南(ソンナム)都市開発公社開発事業第1処長についての虚偽発言と、柏峴洞(ペクヒョンドン)開発事業と関連して「国土部(省)が用途変更を脅迫した」とした虚偽発言の2つである。前者についてはソウル中央地検が、後者については水原地検城南支庁がそれぞれ起訴した。
李在明代表は8月26日の書面調査に応じず、9月6日10時までの出頭期日1日前に書面陳述を行い、出頭時間の2時間前に出頭拒否を行う戦術に出ていた。公職選挙法違反事件の公訴時効は9月9日だった。
■ 容疑1つ目―市長在任時「故キム・ムンギ処長は知らなかった」
容疑1つ目の発言は、李在明代表が昨年12月22日に放送番組に出演し、城南市大庄洞(デジャンドン)開発疑惑関連の捜査を受け、前日に自ら命を断った故キム・ムンギ前城南都市開発公社開発第1処長に対して「末端の職員なので市長在任時には知らなかった」としたことだ。
しかしその後、城南市長時代における李代表のオーストラリア・ニュージーランド出張にキム元処長が同行した写真が遺族から公開され、また故キム・ムンギ氏が、大庄洞(テジャンドン)開発と関係した報告を李在明(市長)代表に行っていたとの証言も出た。
検察はこれらの事実を確認するため、キム元処長の携帯電話と遺族の自宅、李代表の城南市長・京畿道知事時代の側近である京畿道庁Aチーム長の携帯電話と自宅・事務室、李代表が2015年1月に行ったオーストラリア・ニュージーランド出張に関連した旅行会社などを家宅捜索し、公社の関係者からも「李代表は市長時代にキム元処長から大庄洞関連の報告を何度か受けた」との陳述を確保した。
また李代表が弁護士時代から故キム・ムンギ前城南都市開発公社処長と様々な交流をしていたという客観的な物証と陳述も得た。このほかクロス検証のためにオーストラリア・ニュージーランド出張に同行した城南市公務員も参考人として調べた。
検察はこうした捜査を行った上で、「李代表が消極的に(金前処長関連)虚偽の事実を語ったというよりも、放送に出演してインタビューに応じ、積極的かつ持続的に虚偽の事実を語った」と判断した。その背景として「金前処長が亡くなった後、李代表が(自分と)大庄洞事件疑惑との関連性などを遮断する必要があり、虚偽の発言をした」と結論付けた。
李代表に関係した疑惑ではキム・ムンギ氏以外にも自殺者2人と死亡者一人が出ている。昨年末には大庄洞開発疑惑で捜査を受けた城南都市開発公社のユ・ハンギ元開発事業本部長が、今年7月には李代表の妻キム・ヘギョン氏による公務用クレジットカード私的流用疑惑と関連した40代男性運転手K氏が参考人聴取を受けた直後に自殺している。もう一人の死亡者は李代表の弁護士費用代納疑惑の情報提供者イ氏だが、イ氏は病死と見なされた。
■ 容疑2つ目―「国土交通部が職務放棄とみなすと脅迫した」
容疑2つ目の発言は、柏峴洞疑惑と関連した発言だ。昨年10月20日に李代表は、京畿道(キョンギド)への国政監査に京畿知事資格で出席し、柏峴洞(ペクヒョンドン)の土地を緑地から準住居地域へと用途変更したことについて「国土交通部が公文書で用途変更を求め、公共機関地方移転特別法に従って実行しなければ、職務放棄とみなし問題視すると脅迫した」としたことだ。
柏峴洞疑惑とは、李代表が城南市長在任中の2015年から16年にかけ、城南市が柏峴洞の韓国食品研究院敷地の用途を自然緑地から準住居地域へと4段階格上げし、アパート開発事業者に約3千億ウォンの利益を得させたとされる疑惑だ。
しかし当時の国土交通部と城南市の公文書と事件関係者の供述を総合した結果、国土交通部の公文書は用途変更で城南市の協力を求めるもので、公共機関地方移転特別法に基づき地方自治体に都市管理計画反映義務が伴う要請ではなかった。城南市住居環境課も2014年12月、国土交通部への問い合わせを通じ、用途変更要請が「単純な協力要請」だと当時市長だった李代表に報告していた。警察は李代表の発言を虚偽と結論付けた。
その他、大庄洞(テジャンドン)開発疑惑では、追加利益還元の条項を追加しようとの意見を認めなかった」としておきながら、次の日には「自身が認めなかったのではなく、担当部門の審議で認めなかった」と言い換えたことも虚偽発言とされているが、この問題は大庄洞疑惑捜査で問題視するとして今回は立件されなかった。
■ 李在明代表には公職選挙法違反以外にも10以上の疑惑
しかし李在明代表の疑惑解明はこれが始まりだ。今回の事件だけではなく、李在明代表には10以上の疑惑があるが、検察と警察が捜査している主な疑惑だけでも次の7つがある。
検察関係では、1)大庄洞・柏峴洞開発に関係した虚偽事実公表容疑、2)大庄洞事件の数千億ウオンの超過利益回収を放棄した背任容疑、3)サンバンウル(2つのしずく)グループによる弁護士費用肩代わり疑惑があり、警察関係では、4)柏峴洞事業の用途変更で開発業者を優遇した疑惑、5)城南市長在任中に企業から城南FC(サッカーチーム)への後援金受け取り便宜を図った疑惑、6)京畿洞住宅都市公社の宿泊所を大統領選の選対事務所として使用した疑惑がある。
そこに新たな疑惑として、7)城南市が大庄洞と同じ方式で推進した慰礼新都市事業の疑惑が持ち上がっている。
■ ソ・ジョンウク弁護士が語る有罪時の量刑とその後遺症
ではこの公職選挙法違反で李代表が有罪となる場合の量刑はどのくらいになるのだろうか?こうした事件に詳しいソ・ジョンウク弁護士は、「虚偽が積極的で悪質なので過去の例からみて量刑は少なくとも罰金100万ウオン以上にはなるだろう」と指摘した。
もしも罰金100万ウオン以上の刑を宣告された場合、李代表にどれほどの打撃が及ぶのか?
まずは次期大統領選挙には出られない。罰金100万ウオン以上の刑が決まると選挙権と被選挙権が5年間剥奪されるからだ。
次に李代表は議員バッジを外さなければならなくなる。もちろん不逮捕特権はなくなる。
国会法136条の退職条項では、被選挙権がなくなれば自動的に国会議員を退職しなければならないと規定されている。李代表の国会議員補欠選挙での当選も無効になる。
そして有罪が確定すれば党代表の職責も剥奪されることになる。
共に民主党はさる8月16日、党代表が起訴されても代表職を維持できるようにするために、党役員が不正腐敗の罪で起訴された場合職務を停止するように定めた党規「80条」の改正を議決した。党規を変更して、李在明議員が党代表に選出された後起訴されても、有罪判決が出るまでは党代表職を維持できるとし、有罪が出たとしても党務会議で議決すれば代表を維持できるとしたのである。
しかしこれらは政党法22条を詳しく精査しない対策だったようだ。政党法22条によれば、選挙権・被選挙権が剥奪されれば、党代表職も放棄せざるを得なくなる事になっている。政党法22条では、選挙権と被選挙権がなければ党員になれないとなっているからだ。党員になれなければもちろん党の代表にもなれない。共に民主党は李在明擁護のために党規約まで変えたが、罰金100万ウオン以上の有罪が確定すれば無力されることになる。
では共に民主党にはどのような被害が及ぶのか?
その被害は党の信頼をなくすというだけのものではない。選挙法262条により、共に民主党は選挙費用434億ウオンを国に返却しなければならなくなる。共に民主の汝矣島(ヨイド)党舎は評価額が300億ウオンといわれているのでそれを売却しても返済できない。134億ウオンの債務が残る。李代表の罰金100万ウオン以上の有罪が確定すれば、共に民主党は財政的にも壊滅状態になるということだ。
公職選挙法違反の最終結審は原則6ヶ月以内と定められているので、原則来年の3月初旬までには判決が確定するが、その間、共に民主党は、党存亡の様々な不安の中で反尹政権闘争を続けなければならない。
トップ写真:KBSスタジオで大統領選挙のテレビ討論会に出演する李在明氏 (2022年3月2日、韓国・ソウル) 出典:Photo by Jung Yeon-Je – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統