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.国際  投稿日:2024/4/2

キューバ、韓国と国交樹立 経済苦境に加え「もしトラ」説も影響か


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・韓国とキューバの国交樹立は、キューバと同盟関係にある北朝鮮にとって大きなショック。

・キューバの経済苦境が韓国との国交に踏み切った大きな要因。

・「もしトラ」に備えキューバが韓国の支援をあてにした可能性も。

 

◇1月に友好・連帯うたったばかり-北朝鮮

先ごろ、キューバと韓国の国交樹立という衝撃的なニュースが報じられた。なぜ、キューバは「兄弟国」北朝鮮との同盟関係に反するような外交に踏み切ったのか。

キューバは1959年の革命を機に韓国との国交を断絶し、翌60年に北朝鮮と国交を結んだ。以来、キューバと北朝鮮は同盟国として外交・政治面で緊密な関係を維持してきた。

故カストロ・キューバ国家評議会議長は1986年に訪朝し、故金日成国家主席と友好協力の強化を表明。1988年のソウル五輪では当時のソ連や東欧の社会主義諸国が参加を表明する中、キューバはボイコット、北朝鮮への連帯を示した。

北朝鮮は2016年のカストロ氏死去の際には国内で3日間の服喪を宣言、朝鮮労働党最高幹部らから成る弔問団をハバナに派遣した。キューバのディアスカネル現大統領も2018年に訪朝している。今年1月には平壌でキューバ革命65周年祝賀集会が開かれ、両国の連帯と友好関係がうたい上げられたばかりだった。

それだけに金正恩・朝鮮労働党総書記にとって今回のニュースが大きなショックだったことは想像に難くない。北朝鮮国営メディアは最近ではほとんど「キューバ」について報じなくなったという。朝鮮半島情勢の専門家は「キューバに対する”沈黙の抗議”だ」と指摘する。

◇「キューバ経済は過去30年で最悪」

キューバが予想外の外交政策を打ち出した背景には深刻な経済危機があるのは確実。韓国はキューバとの国交樹立に際し、投資や貿易分野への進出と協力の意向を示しており、キューバは経済苦境からの脱却に向け韓国からの支援に強い期待感を表明した。

キューバの経済不振は今に始まったわけではない。長引く米国の対キューバ経済制裁が響いていることは明らか。オバマ米政権時代に制裁の一部緩和があり、2015年両国国交正常化が実現してからキューバ経済の好転傾向が見られたのもつかの間、トランプ前政権が再び制裁を強化。バイデン政権になってからもほとんどの制裁はそのまま。

キューバ経済はここ数年は惨憺たる状況が続く。世銀の最近の報告によれば、2020年の経済成長率はコロナウイルス感染症の影響もありマイナス10.9%、2021年は0%、22年は1%増。23年についてキューバ当局者は2%未満と予想している。

食料、医薬品や電力不足に加えインフレが国民生活を苦しめている。キューバ共産党機関紙「グランマ」は昨年のインフレ率が30%程度と伝えているが、実際は50%を超えるとの見方が専ら。キューバ政府が先ごろ、ガソリン価格の5倍引き上げなどを盛り込んだ緊縮政策を発表するや、同国第2の都市サンティアゴ・デ・クーバを中心に各地で大規模な抗議デモが発生した。「キューバ経済は過去30年で最悪」(米有力シンクタンク専門家)といった声も聞かれる。

◇年明けから国交樹立へ動き加速

キューバにとって韓国の経済支援はノドから手が出るほど欲しいと言っても過言ではないだろう。だが、キューバは従来、韓国側の積極的歩み寄りに慎重に対応をしてきた。

実は韓国がキューバへの接近を始めたのは20年ぐらい前からである。ソウルのメディアの報道によれば、韓国がキューバへの接近を公式に始めたのは大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が2005年にハバナに貿易館を開設してからだという。以後、韓国は経済・文化面を中心に盛んにキューバへの浸透を図ったものの、キューバ側の反応はそれほどではなかったという。

しかし、昨年5月グアテマラで開催されたカリブ諸国連合(ACS)閣僚会議にオブザーバー参加した韓国がキューバと高官協議を行ったのをきっかけに風向きが変わり、二国間交渉が進展、年明けから国交樹立への動きが一気に加速、2月半ばに国交合意に至った伝えられる。

キューバの”変身”について複数の中南米問題専門家は、米大統領選でトランプ前大統領が勝利する可能性が出てきたことも要因の一つだと分析する。

トランプ氏はキューバの現体制を「邪悪な共産主義独裁」などと非難、政権の座に返り咲けばディアスカネル政権に対し強硬方針で臨むと公言している。「もしトラ」実現に備え、キューバが経済支援をあてに韓国との国交を急いだのではないか、というのがこれら専門家の見方である。

イデオロギーよりも実利を優先せざるを得ないキューバの現実が浮かび上がると言えるかもしれない。(了)

トップ写真:キューバ・ハバナのダウンタウンのスカイライン 出典:Sean Pavone / Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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