高さ世界一 インドの「チェナブ橋」年内開通か
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・インド国鉄、北部のジャンム&カシミールで鉄橋通過試走に成功。
・4-5か月内に、同渓谷と他のインド国内との往来が実現する。
・今後、サンガルダン~レアシ間の安全審査を行う。
インド国鉄、北部のジャンム&カシミールで鉄橋通過試走に成功。タイムズ・オブ・インディア紙2024年6月17日付によると、インド国鉄は同月16日、北部のジャンム&カシミール渓谷のチェナブ河(Chenab river)にかかる高さ359メートルという世界一の高さの鉄橋「チェナブ橋」を含むサンガルダン~レアシ間の通過試走に成功した。
この高さはフランスのエッフェル塔より35メートル高い。当局責任者は「このリンクで4-5か月内に、同渓谷と他のインド国内との往来が実現しよう」と期待感を表明。プロジェクトが予定通りにいくことが珍しい同国のこと、実現が遅れることはあるかもしれないが、272kmにおよぶウダンプル~スリナガル~バラムラ間の鉄道リンクのうち209kmは1997年から段階的に運用を始めている。
■ チェナブ橋架橋に向けた難関の突破
上記の同紙2024年4月6日付は、チェナブ橋架橋の難関突破について、次の10点を挙げている。
1)インド国鉄はチェナブ橋架橋に関し、3期目を迎えたナレンドラ・モディ政権向けの100日の行動計画を作成している。
2)チェナブ橋は河底から高さ359メートルの位置。フランスのエッフェル塔より35メートル高い。厳しいヒマラヤの光景に位置する同橋は工学面での功績を挙げてこそ認められる。
3)チェナブ橋の特殊事情もある。同橋は93のデッキ構成で、各デッキの重量は85トンにも上る。
4)チェナブ橋の特異性への対応も必要となる。同橋の径間は17の橋でできており、主弧の円周の長さは467メートル。円周がシンメトリーになっていることが大切となる。
5)チェナブ橋の他の画期的な点は、デッキ状部分が「ゴールデン・ジョイント」であることだ。これは、デッキ状部分が「ゴールデン・ジョイント」であることを意味するのでなく、あくまで象徴的な表現。
6)地震、突風に強いことが必要となった。
7)チェナブ橋の列車通行速度は時速100kmで、寿命は120年間が求められることになりそうという。
8)チェナブ橋は挑戦しがいのあるヒマラヤ特有な地勢をなしている。
9)野心的なプロジェクト故、膨大な建設費を要する。コンカン鉄道を運営し、その他の鉄道関連プロジェクトも請け負うインドの公共企業体であるコンカン鉄道の試算によると、チェナブ橋の建設費は148億6000万ルピー(約280億円)に上る。
10)内外の研究機関とのの協力が必須となる。チェナブ橋プロジェクトの実施に貢献している研究機関としては、国内ではインド各地のインド工科大学、防衛研究開発機構(DRDO)インド地質調査局などがあり、海外研究機関との協力関係もあるという。
■ 特急とも接続
アシュウィニ・バイシュナウ鉄道相は、チェナブ橋が開通したらインド国鉄の特急「Vande Bharat Express」と接続すると表明している。コタラ~バニハル(111km)間の列車運行にもつながる。
製造業振興の「Make in India」にも貢献。2014年の総選挙でインド人民党(BJP)を率い、インド首相に初めて就任したモディ首相(任期5年、現在は3期目)が掲げた製造業振興の取組み「Make in India」の一環として、インド国鉄は2019年2月15日に、デリー~ワーラナシ間で列車運転を開始した。 運用路線は2024年2月現在で41路線となっている。
■ 安全審査にも力
鉄道の安全審査の関係者が、サンガルダン~レアシ間の安全審査を2024年6月末に行うことになっている。
(了)
トップ写真:インド、ジャンムー・カシミール州にある世界一高い鉄道橋、チェナブ橋。2022年10月23日。
出典:Retina Charmer Productions/ Getty Images