IMFの世界経済の成長率予測
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・IMFは2023〜2025年の世界成長率を3.3%前後と予測し、過去平均を下回る低成長を見込んでいる。
・新興市場は4%台の成長を維持し、特にインドや中国の高成長が注目される。
・インフレは鈍化する見込みだが、コア・インフレが高止まりし、対策が必要とされる。
国際通貨基金(IMF)による世界経済の成長率予測では、2023年は3.3%、2024年と2025年はともに3.2%になる見込みだ(図1参照)。これは、2000~2019年の平均成長率である3.8%を大きく下回る。
■ 先進国の経済成長率予測
先進国の成長率は、金融引き締め策の影響が出始め、2023年に1.7%、2024年と2025年はともに1.8%と低成長路線になる見込みだ。
米国経済は、2023年は2.9%、2024年は2.8%、2025年には2.2%になると見ている。
ドイツ、フランス、イタリア、スペインのユーロ圏の経済は、2023年は0.4%、2024年は0.8%、2025年は1.2%になる見込みだ。
日本については、2023年が1.7%、2024年が0.3%、2025年が1.1%と低迷すると見ている。
英国は、2023年が0.3%、2024年が1.1%、2025年が1.5%とこれまた低迷の予測。カナダについても、2023年が1.2%、2024年が1.3%、2025年が2.4%と見ている。
■ 新興市場・発展途上国の経済成長率予測
新興市場・発展途上国の成長率は、2023年が4.4%、2024年と2025年がともに4.2%になると見られている。
注目されているインド、中国の経済成長率予測に関しては、以下の通り。インド経済は2023年に8.2%、2024年に7.0%、2025年に6.5%と高成長を遂げると見こみ、中国経済はそれぞれ、5.2%、4.8%、4.5%の成長を示すと見ている。
ロシアに関しては、2023年と2024年にそれぞれ3.6%の伸びを見込み、2025年には1.3%に落ち込む、と見ている。
■ 産油国には厳しさ
産油国は厳しさが増しそうだ。
メキシコが2023年に3.2%成長、2024年、2025年にはそれぞれ1.5%、1.3%へと成長率は落ち込むと予測している。ブラジルは2023年に2.9%成長、2024年に3.0%成長、2025年に2.2%成長と見ている。サウジアラビアに関しては、それぞれ、-0.8%、1.5%、4.6%の成長と予測。南アフリカについては、それぞれ、0.7%、1.1%、1.5%の成長と見ている。
■ シリコンバレーの取り付け騒動ではヒヤリ-ネット時代での情報伝達の恐ろしさ示す
2023年3月にシリコンバレー銀行を破綻に追い込んだ取り付け騒動が起きた。この騒動は、バイデン政権が「利用者の預金は全額保護する」と表明して収まったが、インターネット時代おける情報伝達の恐ろしさを示した。
世界経済に多大な影響を及ぼした案件では、2023年8月に発表されたスイス最大の銀行であるUBSと同じく同国の大手銀行であるクレディ・スイスの合併があるが、2024年5月31日に合併が完了している。
■ 世界のインフレ率は安定的に鈍化の見込み
世界のインフレ率は、国際的な一次産品価格の下落と金融引き締め策の影響で、2022年の8.7%から、2023年には6.9%、2024年には5.8%へと安定的に鈍化すると見られている。
しかし、総合インフレ率から相対的に価格変動が大きい食品価格とエネルギー価格を除外したコア・インフレ率の「粘性」が高く、インフレ期待が高止まりする可能性も指摘されている。この面では、インフレ期待を形成する各経済主体への情報伝達の改善なども課題となろう。
写真:労働者階級の人々で混雑するムンバイの駅(2024.4.15 インド ムンバイ)
出典:Photo by siraanamwong/Getty Images