無料会員募集中
.国際  投稿日:2024/8/6

長崎平和祈念式典、イスラエル招待せず 欧米なら「反ユダヤ主義」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#30

2024年8月5-11日

【まとめ】

・8月6日、広島で原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が挙行された。

・広島市は例年通りイスラエル大使を招待したが、長崎市は国家ではないパレスチナの在京代表を招待した

・原爆犠牲者を慰霊する厳粛であるべき式典を政治化。欧米であれば「反ユダヤ主義」と批判される恐れがある。

 

今週は珍しく国内出張が重なり、本原稿は広島の某ホテルで書いている。6日には市内で原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が厳かに挙行された。この特別の日に広島に入るのは久しぶりだったが、高校生当時、初めて広島平和公園の原爆ドーム前に立った時に受けた「稲妻に打たれたような衝撃」を筆者は今も忘れない。

昨年従来とは異なる種類の抗議運動が起きたからかもしれないが、市内の警備はかなり厳重だった。それでも、式典そのものは平穏かつ円滑に行われたし、市内で大きな混乱も生じていない。今朝もホテルの前でデモがあったが、見た限りでは、いつもの通りの「核兵器反対」をテーマとした、平穏かつ整然としたデモ行進だった。

筆者にとって、毎年8月に開かれる慰霊式典は若き日のあの衝撃を思い返す荘厳、神聖かつ厳粛な場である。その式典に今年泥を塗ったのは長崎市だ。理由は、広島市が例年通りイスラエル大使を招待したのに対し、長崎市はイスラエル招待を撤回し、国家ではないパレスチナの在京代表を招待したからである。

同市長が挙げた理由は「不測の事態発生の懸念」らしいが、現にイスラエル大使が出席している広島では「不測の事態」など起きていない。ということは市長の「政治的判断ではない」との発言にも拘らず、今回の長崎市の判断は極めて政治的な理由に基づく判断と言わざるを得ないだろう。

なぜ原爆犠牲者を慰霊する厳粛であるべき式典を政治化するのか。なぜ日本政府の外交方針と異なる措置を敢えてとるのか、筆者にはどうしても理解できない。しかも、この長崎市の判断には在京外交団の多くが首を傾げたそうだ。これって、欧米であれば、「反ユダヤ主義」と批判される恐れがあるんだけどなぁ。

長崎市の「鈍感さ」は致し仕方がないとしても、筆者が驚いたのは日本の大手メディアの「鈍感さ」だ。これまで長崎市の判断が「反ユダヤ主義」と誤解される恐れありとした記事など見たことがない。筆者が「敏感過ぎる」のかなあ。日本でも無意識の内に反ユダヤ主義が静かに広まりつつあるとすれば、これは大変だ。その点を今週の産経新聞WorldWatchに書いたので、ご関心があればご一読願いたい。

さて、米大統領選では、ハリス候補は24時間以内に伴走者(running mate副大統領候補のこと)を決めなければならない。アリゾナ州のケリー上院議員、ペンシルベニア州のシャピロ知事、ミネソタ州のワルツ知事の3人に絞られたと報じられたままだが、どうなることか。人選に失敗すれば、ハリスはモメンタムを失いかねない。

それよりも大きなニュースが先週あった。ハマースの政治部門トップがイラン新大統領就任式出席のため滞在していたテヘランで爆死し、ほぼ同時期にヒズボッラなど親イラン武装勢力のリーダーが何故か相次いで死亡しているのだ。これはイスラエルの仕業だと誰もが思うが、テヘランの事件についてイスラエルは沈黙を守っている。

ではイランは何をするかだが、その前に、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。但し、今週は夏枯れである。

7月6日 火曜日 米豪2+2会合

7月7日 水曜日 タイ憲法裁判所、野党「前進党」の解党を求める請求につき判断

8月8日 木曜日 インド中銀、金利を決定

8月11日 日曜日 パリ五輪終幕

最後にいつものガザ・中東情勢だが、焦点はハマース指導者をテヘランで殺害されたイランの対イスラエル報復措置の、時期、対象、目標の場所、使用する兵器等の詳細である。それで、イランが対イスラエル、対米本格戦闘も辞さない覚悟か、従来同様可能な限り、戦闘のエスカレーションを回避しようとするかが推測できるからだ。

いずれにせよ、ネタニヤフは今もハマース壊滅という最終目標を諦めておらず、恐らく11月まで現在の方針を変えないのだろう。トランプが勝てばゲームは変わるし、仮にハリスが勝っても今まで通りで良いのだから・・・。ネタニヤフにとって停戦を急ぐ理由はない。本当に停戦したら、ネタニヤフ自身の政治責任が問われるだけだ。

いずれにせよ、本当に戦線拡大を望んでいるのはハマースで、実はイスラエルもイラン、ヒズブッラも望んでいないはずなのだが・・・・。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."