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.国際  投稿日:2024/8/24

ケネディ氏のトランプ支持の衝撃


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・ケネディ氏がトランプ支持を表明し、民主党政権を厳しく批判。

・ハリス氏を「候補として失格」と断じ、民主党の現状に強い失望感を示す。

・ケネディ氏の動きが激戦州の票に影響を与え、大統領選をさらに複雑化させる可能性。

 

変転の続くアメリカ大統領選挙でまた予想外の異変が起きた。民主党、共和党のどちらでもない無所属の候補者のロバート・ケネディ・Jr氏が共和党のドナルド・トランプ候補への支持を表明したのだ。しかもケネディ氏は民主党のカマラ・ハリス候補を「立候補の資格もない無の人物」とまで酷評した。

ケネディ氏は民主党の伝説的な象徴メンバー家族の一員である。伯父ジョン・ケネディ氏が大統領、父のロバート・ケネディ氏が司法長官だった。しかもこの2人とも生粋の民主党政治家で、いずれも暗殺されるという悲劇でも有名だった。そんな民主党政治の名門の出の人物がいまの民主党政権、そしてその大統領選候補に敵対を表明し、共和党保守のトランプ氏との共闘を誓ったのだ。ふつうに考えれば、いまの民主党政権、そしてその代表となるハリス副大統領にとっては意表をつく痛手だともいえる。

ロバート・ケネディJr氏は8月23日、アリゾナ州のフィニックス市での集会でこの爆弾のような決定を発表した。自分の大統領選での勝利の道がないことがあまりに明白となったため、選挙活動を停止し、トランプ氏を支持する、と宣言したのだ。ただしこの選挙戦からの撤退はペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンなど合計10州ほどの接戦州だけで、その他の州ですでに立候補の法的な届け出がすんだところは、あえて撤回はしないという。

ケネディ氏は今回の動きについて、民主党の現政権、とくにハリス副大統領への失望と、自分の立候補が共和党のトランプ氏に与えるかもしれない悪影響への懸念とをその理由としてあげた。

ケネディ氏は2023年10月から24年の大統領選挙への名乗りをあげていた。当初は民主党の候補としての出馬を意図したが、バイデン・ハリス政権の妨害でそれが実現できず、無所属として立ったのだと説明した。しかしいまのバイデン・ハリス政権の国境警備政策や子供保護政策の失態に懸念を深め、同政権への批判を強めたという。ケネディ氏はバイデン政権の対外政策ではとくにウクライナへの軍事援助を「停戦や平和への展望なしに無制限な援助を与えていることに強く反対する」とも述べた。

ケネディ氏はこのフィニックスでの演説で以下の骨子をも明らかにした。

 ●カマラ・ハリス氏は民主党の予備選では2020年もただの1票も獲得せず、今回も同様だった。ハリス氏は独自の政策もなにも明かさないで民主党の指名を得た。シカゴでの民主党全国大会は最初からシナリオが決っていたサーカスだった。ハリス氏は政治家、活動家としてなにも達成しないで指名候補となった。だから候補としては失格のnothing だ。

 ●バイデン・ハリス政権下の民主党はまるでプーチン大統領の独裁下のロシアのように専制的で私の選挙活動を抑圧してきた。民主党勢力は有力メディアのほとんどを影響下におき、私の選挙活動、政治活動の報道を最小限に抑えてきた。この動きは完全に検閲であり、言論、報道の自由の抑圧だった。

 ●このため私はいまの民主党政権は支持できず、とくに指名候補となったハリス氏への不信や反対を強く感じる。一方、共和党のトランプ候補とは多様な政策のなかでも不一致はあっても、もっとも基本的な国のあり方では同意する点が多い。このため私はトランプ氏を支持し、その選挙戦をも支援していく。

以上のような骨子を述べたケネディ氏はこの集会の数時間後、同じアリゾナ州のグレンデール市でのトランプ氏の支援集会に参加した。満員の大会場でトランプ氏とともに壇上に立ったケネディ氏は改めてハリス氏への批判を述べ、トランプ氏への支援を強調した。会場からは熱い拍手が続いた。

この動きはこんごの選挙戦でやはりハリス陣営への「負」となり、とくに激戦州でのその結果としての票の流れの変化は選挙全体にまで影響を及ぼすともみられている。民主党側にとっては8月22日までの全国党大会でハリス氏の指名を決めて、団結を打ち出した直後のこの動きは衝撃をもともなって受け止められたといえる。

なおケネディ家の他のメンバーは数人ほどが連名で声明を出して、自分たちはこのロバ―ト・ケネディ氏のトランプ候補支持には反対だと明言した。同時にこのケネディ氏の動きを「悲しい言動」だとも評した。

アメリカ大統領選はますます複雑、混乱の様相を深めてきた。

トップ写真:出典 Rebecca Noble/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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