【自民党総裁選挙】8 小泉進次郎氏「政策分析」と「人事評価」
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・小泉氏の政策の特徴は、改革の理念を強烈に打ち出したこと。
・「選択肢を用意する」と政治の役割を明確にしていることと、社会システムを支える「価値観」の転換を提案していること。
・あえていうなら、個別政策ではなく、経済に対する考え方を示して欲しかった
決着。新時代の扉を開ける。
長年、議論ばかりを続けて答えをだしていない日本の課題に決着をつけたい、ということが真意のようだ。「日本国民が政治にしらけている」と喝破する小泉さん。彼は、業界や既得権益の範囲でしかかえられない自民党に限界を深く感じているようだ。その問題意識から、未来を展望した強烈なメッセージを発信している。
「次の時代に間に合わない」
「安定した衰退を求めるならいまのままでいい」
「稼げる産業をつくらないといけない」
という危機感。
「1人ひとりの人生の選択肢を増やす」
「自分らしい生き方ができる国」
という価値観。
「聖域なき規制改革」
「人手不足の時代の新しい労働市場」
という必要性の実感。
「日本社会を変える」という意気込みで立ち上がった。
内閣府地方創生のシティマネジャーとして彼に仕えた筆者でもあるが、だからこそ客観的に厳しく見ていこう。
◆小泉さんとは?
1981年4月14日神奈川県横須賀市生まれ。血液型はAB型。元首相の小泉純一郎さんの次男として神奈川県横須賀市に生まれた。生まれて間もなく両親が離婚、長年、同居する叔母に育てられた。1988年に関東学院六浦小学校入学、関東学院中学校、関東学院六浦高校と内部進学。野球に打ち込み、ポジションは1番セカンド。高校の野球部では、春の神奈川県大会でベスト8、夏は激戦の神奈川県大会で5回戦敗退(第2シード)であった。野球経験を「チームメイトと声を掛け合って頑張り、時には自己犠牲も必要となります。一人では何もできない政治と通じる部分がたくさんあると感じています。」(タウンニュース、2018年7月6日版)と語る。高校卒業後、2000年に系列の大学に進学。2004年、関東学院大学経済学部卒業。アメリカに留学、睡眠時間が3時間の毎日を過ごし、「脳みそから汗が出る」ほど勉強したそう。NYは修行の地であり、その日々を「人生で最も辛かった」と語る。2006年、コロンビア大学院で修士号を取得。その後、アメリカのシンクタンクである戦略国際問題研究所 (CSIS)研究員を経て、帰国。衆議院議員小泉純一郎氏秘書を務めた後、2009年8月衆議院議員初当選し、当選を重ねてきた。環境大臣、内閣府特命担当大臣(原子力防災)、衆議院安全保障委員会委員長を務める。環境大臣として、カーボンニュートラルの活動を加速化させた。環境省を「社会変革省」と位置づけ、気候変動に警鐘を鳴らし、プラスティック資源循環法の制定、組織内改革などを進め、実績を出してきた。滝川クリステルさんと結婚し、2人の子供もがいる。好きな言葉は「有志有道」、長所は「最後まで諦めないところ」だそう。
◆ 小泉氏の政策の特徴
1年以内に3つの改革を断行することを約束する。①政治改革、自民党改革、国会改革、②規制改革。特に、労働市場改革、ライドシェア、スタートアップの支援である。③国民の生き方や働き方の変化に合わせた年収の壁の撤廃、労働時間規制の見直し、選択的夫婦別姓など人生の選択肢の拡大。その他にも、物価高対策の検討着手、年金生活世帯・低所得者世帯への支援、そして政治改革である。
特徴の第一に、改革の理念を明確に、強烈に打ち出したこと。経済、政治、国会、行政、社会、あらゆる面に渡って日本に必要な改革を提示し、いわば「イノベーション」を押し出している。
・政治資金の透明化を徹底する。使途が公開されていない政策活動費は廃止。旧交通費についても、使途の開示と残金の返納を義務付ける。
・非効率な国会運営を抜本改革する。総理や閣僚の国会張り付きをやめる。質問通告期限の遵守を徹底し、国家公務員の深夜残業を減らす。
・政治資金の透明化、自民党改革、国会改革を三位一体で進め、政治への信頼を取り戻す。
・賃上げ、人手不足、正規非正規格差を同時に解決するため、労働市場改革の本丸、解雇規制を見直します。誰もが求められ、自分らしく、適材適所で働ける本来当たり前の社会に変え、日本の経済社会にダイナミズムを取り戻す。来年法案を提出します。
・スタートアップが劇的に拡大する仕組みを整備。例えばベンチャー株式の譲渡益に対する課税の免除を行う。
・選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出し、国民的な議論を進める。
【出典】小泉さん政策
労働市場改革の必要性を問う小泉さんは、特に、整理解雇に対して、リスキリングや再就職支援の履行を「企業に義務付ける」とまで言っている。これには驚いた。さらに、労働市場の流動化とさらにその先につながる話もしている。「大企業に眠る豊富な資金、人材、技術を開放し、スタートアップや中小企業に流れ、スタートアップが既存企業と公平に競争できる環境を整備しなければなりません」という問題意識で、この「失われた30年」で進まなかった人材の流動化と産業構造改革に着手しようとしている。「解雇規制の見直し」というだけで誤解を生むのがわかっていたのにもかかわらず、「聖域に」切り込んだ覚悟は賞賛したいところだ。
第二に、「選択肢を用意するのが政治」と政治の役割を明確にしている。たんなる政策や「経済政策」というラベルのバラマキ政策がほとんど見られない。国家観や国家像は「個人の自由」を重視していて「誰でも自分らしい生き方ができる国」とする。自身では「寛容な包容力ある保守」という位置づけのようだ。その意味で他の政治家と全く一線を画す。
第三に、高度成長以来、長らく変わってこなかった日本の社会システムを支える「価値観」の転換を提案していること。「選択と自由」を大事にしたいと思っているように、日本社会の権威主義とそれがもつ閉塞感に対してアンチテーゼを突き付けている。労働市場改革は、「年功序列・新卒一括採用・終身雇用」の日本型雇用システムの価値観を変えようとしている。選択的夫婦別姓はもちろんだ。
課題は、特にない。あえて言うなら、個別政策ではなく、経済に対する考え方を示して欲しかったことだ。岸田さんは「新しい資本主義」という分配の必要性を説いて、高所得層重視のアベノミクスに対して、ある意味、新しい日本の方向性を示した。なので、「分配をどうするのか?」など日本社会のあり方に関する問題提起も欲しかったところだ。
◆人事評価
筆者は人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。ここで、「首相の人事評価」を考えたい。総理大臣の「能力」「成果が出せる行動特性(コンピテンシー)」は以下になる。
◆1.未来の方向性を示せる、共有できる
◆2.組織マネジメントができる
◆3.決断・意思決定ができる
これをしっかりできれば十分なのだが、小泉さんをこの視点を細かく見ると以下のようになる。
バッシングを受けても、めげずに笑顔で誠実に対応している姿、福島の支援に長年励む姿勢は人を魅了する。「プリンス」ではない「野良犬」と自身を評価する。社会に必要なこと、国民目線で必要なこと、国民目線の当たり前のマインドや共感を持っている。育児、母親との再会など人間的にも一皮むけた印象だ。
迷ったらフルスイング。
国民の願いや希望を形にするため、寛容で包容力ある保守政党を作り、最高のチームで国民の共感を取り戻し、次世代のための改革を断行し、新しい日本をつくる。小泉さんに期待したい。
トップ写真:小泉進次郎氏 2024年9月14日 東京千代田区
出典:Takashi Aoyama/Getty Images