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.政治  投稿日:2024/9/26

【自民党総裁選選挙】7 小林鷹之氏「政策分析」と「人事評価」


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・小林氏は、賃上げや地方分散型社会、国家主導の産業政策を推進する政策を掲げている。

・スタートアップ支援やデジタル技術を強化し、地方創生と経済成長を目指している。

・政治改革や企業献金廃止を訴え、日本の停滞感を打破するリーダーシップに期待が寄せられる。

「めちゃくちゃ真面目で裏表がない人」

「ストイックに頑張る人格者」

「真面目で後輩思いで優しい」

「非の打ち所がないというのはまさに彼」

「高身長でバスケも上手」

「運動能力が高い」

「何でもできる人」

「ガマン強さ、忍耐力がある」

「大好きな先輩」

以上、「コバホーク」こと、小林鷹之さんに対する学生時代のお友達、後輩たちの評価である。

小林さんは、「国民の皆様が夢と希望を感じられる社会を、世界をリードする日本を創りたい。真に自律し、他国の動向に右往左往しない日本を創りたい。世界から信頼され、必要とされる日本を創りたい。」という思いをもとに今回自民党総裁選に出馬したそう。

筆者の1つ上の先輩でもあるが、だからこそ、厳しく客観的に見ていきたいと思う。

□小林鷹之さん

1974年11月29日、千葉県市川市で生まれ。香川県出身の両親のもとに生まれる。お父様は大倉商事に勤務。浦安市立美浜南小学校、私立開成中学、私立開成高校を卒業。在学中はバスケットボール部で活躍。浪人を経て、東京大学に入学した。ボート部のストイックな環境で奮闘し、主将まで務める。国家公務員試験を受験し、猛勉強の末、大蔵省に合格した。1999年3月、東京大学法学部を卒業した。大蔵省に入省しても、ハードに働いていたそう。ハーバード大学ケネディ行政大学院で公共政策修士を取得。2003年に国際機構課通貨基金係長、2005年に理財局総務課課長補佐、2007年から2010年まで在アメリカ合衆国日本国大使館で二等書記官、一等書記官を務めた。2010年4月に退官。その後、自民党の公募に応募し、支部長に就任した。2012年12月に衆議院議員に初当選。防衛大臣政務官や内閣府特命担当大臣(科学技術政策、宇宙政策、経済安全保障)などの役職を歴任した。東大同期で現在弁護士として活躍する女性と結婚。娘がいる。座右の銘は「意志あれば道あり」「有志有途」(「志」があるところに道は拓けるという意味)。

□政策のポイント

賃上げ実現のための価格転嫁の徹底、中小企業への省力化投資支援、下請法の抜本改正、年内に重点的な物価高対策パッケージ策定、ニーズに対応した輸出産地形成、戦略的サプライチェーン構築、知的財産の保護、農林水産物・食品のグローバル展開推進、就職氷河期世代対策などを主張している。特に外交面では、新たな外交戦略「BRIDGE」を策定し、グローバルサウスとの連携強化を通じ、国際秩序を維持していくとしている。「力による一方的な現状変更」の試みには断固反対していくと外交では「タカ派」的な政策が並ぶ。

特徴の第一は、「分散型国づくり」というビジョンを掲げ、東京一極集中の是正を謳っているところである。「地方は稼げる」として、地方投資を進めていくことも主張する。

・10 年間の地方創生の取組を総括しつつ、地方における大学や企業等の充実・底上げ、一極集中による脆弱性を回避するための首都圏が持つ機能のバックアップ体制構築などにより、「分散型国づくり」を進めます。

・農山漁村を支える多様な人材の育成と地域資源を活かした「賑わい」創出、地域を牽引する食品産業関連企業の育成と成長支援、適正管理を通じた水産資源の維持・拡大、漁船漁業の構造改革やマーケットイン型養殖業の展開等による水産業の成長産業化、「多面的機能発揮」の拡充と鳥獣被害対策を進めます。

・道路や新幹線、空港、港湾など、地域の力が最大化されるような物流・人流のインフラを国が責任をもって更新・新設

・インバウンドの活力を、食・工芸・アートの購入、文化・地方・自然の体験等に誘い、更に日本経済の振興に活かすとともに、観光負荷対策にも取り組みます。地方の観光の高付加価値化を支援

【出典】小林さん政策

「千葉都民」が多い都市近郊出身の政治家がこういったことを言い出す、これは相当に凄いことである。また過去10年の地方創生の取り組みの検証などを訴えているところなど、その強い問題意識がうかがい知れる。

第二に、国家主導の産業政策である。「産業立国」を強調し、国のリーダーシップで「国家プロジェクト」を推進させていくシナリオのようで、国家の主導色が濃い。産業政策を重視し、半導体や自動車などの戦略産業の集積地をつくっていくそう。デジタルについても知見があり、デジタルサービス収支を黒字化し、「シン・デジタル日本」「デジタルで稼ぐ国」を目指していくとする。

・「シン・ニッポン創造計画」。わが国が強みを持っている、または強みを持たなければならない戦略分野として、半導体、自動車、グリーン、航空・宇宙、海洋、素材、金融、データ産業、スマート農林水産業等を選定します。それらの分野に、予算、税制、規制・制度を総動員し、地方に大胆に投資し、新たな時代の産業クラスターを全国に創ります。

・AI の開発・実装が世界一進んだ経済社会の実現に向けた「AI 先進国」実現プログラムを立ち上げます。

・データセンター整備など計算資源の抜本拡大を進めます。そのための半導体供給体制を構築します。

【出典】小林さん政策

第三に、戦略や計画策定が多い。2050 年のわが国を見据えた「国家戦略 2050」、「シン・ニッポン創造計画」・・・・などなど、「戦略・計画を作る」政策が目立つ。PDCAサイクルを効果的に回すこと、アジャイル型の業務執行、運用改善や検証などは言及が少ない。計画を作って終わりがちのよくある「行政のマネジメント」にならないとよいのだが。

課題は、実現するための手段である。「新たな価値の創出が不十分であるという供給側の構造的課題を克服する必要があります」という的確な問題意識ものと、様々な方策を提案している。特に、デジタル政策、そしてスタートアップ政策、技術戦略。スタートアップ支援の強化、スタートアップや新技術を政府調達も活用して成長させる「日本版 COTS」制度を創設するなどの提案は斬新的である。

しかし、それだけでは不十分であろう。どうやってOECD中位国が「世界をリードする国へ」になれるのか、という疑問である。

1人当たりGDP、平均賃金、労働生産性、仕事の満足度、やりがい、企業の競争力など世界をリードどころか、劣っている現状にある。技術レベルは世界でも有数だが、IT、DX、人材育成、イノベーションにも完全に出遅れ、権威主義的組織風土がまだ企業競争力やイノベーションを阻害している。個人の創造性を促し・デザイン思考を進めイノベーションをどう起こすのか、起業をどのように推進していくのか、失われた30年間の変わらない大企業優先・業界団体の企業風土をどう変革し、公平公正な競争環境を作るのか、業法の規制緩和をどう進めるのか、雇用の流動化で産業構造改革をどう促すのか、海外のプラットフォーム企業の寡占化をどう防止するのかなどなど、このあたりが明確にしてもらいたいものである。

さらに、国民の実感レベル、例えば、幸福度、仲が良い友達の数、低い自己効力感、強い不安感、相互信頼など様々な指標も先進各国において劣後している。「日本人は頑張ればできる」という認識は同感であるが、日本社会は「底が割れている」状況である。国家主導のトップダウンだけで可能なのだろうか。多様性、寛容性と包容力のある共同体の基盤をどうにかしないと格差が広がるだけだろう。

二番目の課題は、「自民党は生まれ変わる」と主張する政治改革の内容だ。政策活動費の毎年公開又は廃止、第三者機関の設置などの政治改革に取り組むと主張するが、それだけで「生まれ変わる」「古い慣例を勇気をもって脱ぎ捨てられる」ことは難しいだろう。

今回の裏金事件、統一教会との関係など自民党政治の本質的な問題が明らかになった。利益集団が政治へのアクセス権や影響力をカネや選挙で応援する対価と引き換えに得て、色々と影響を及ぼしていた。政治家と利益集団の持ちつ持たれつの関係性こそ問題の本質である。なので、企業・団体献金の廃止に踏み込み、新しい政党像を打ち出さないと自民党は再生できない。

そもそも過去、政党助成金との引き換えに行った企業・団体献金の廃止の約束があったはず。反故にされてきたこの約束の実現はいつなのだろうか。彼がたびたび口にする「政治責任」は問われないのだろうか。

◆人事評価

筆者は人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。ここで、「首相の人事評価」を考えたい。総理大臣の「能力」「成果が出せる行動特性(コンピテンシー)」は以下になる。

◆1.未来の方向性を示せる、共有できる

◆2.組織マネジメントができる

◆3.決断・意思決定ができる

これをしっかりできれば十分なのだが、小林さんをこの視点を細かく見ると以下のようになる。

子供のころから、政治家を目指し、総理大臣を目指し、ここまでやってきた。部活と勉強両面でも体力と気合で頑張り、文武両道を実践。大蔵省・財務省でも「次官候補」と言われるほど活躍。政治家になってからも、外交力を中心に、経済安保などの専門性を磨いてきた。

「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動に関する法律案(宇宙資源法案)」、環境負荷の低い合併浄化槽への転換を推進する「浄化槽法の一部を改正する法律案」などの議員立法を主導して成立させるなど実績を積み重ねてきた。

義理と恩義を重視したその人格で、多くの人にしたわれてきた熱い情熱と努力の人。日本社会のために粉骨砕身頑張ってくれる政治家ではあるだろう。

就職氷河期世代ゆえの苦しみも知り、若い人の閉塞感、社会の危機的状況も知る。「足元では物価が高騰し、実質賃金が上がらず、暮らしが良くなったという実感が得られない。

「地方は、人口減少が進み、疲弊しています。この停滞感を打破し、活力ある社会を取り戻さなければ、日本は世界の中で埋没してしまう。これから数年間の私たちの歩みが、数十年後の日本の未来を大きく左右する。もはや猶予はありません。ビジョンを掲げ、進むしかないのです」と危機意識を語る小林さん。「日本人のマインドを変えたい」と語る小林さんに期待したい。

トップ写真:小林鷹之氏

出典:衆議院議員 小林鷹之




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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