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.政治  投稿日:2023/4/2

大阪~アップデートするべきものは知事選の公約! 【統一地方選特集その1】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・維新の吉村知事と対抗する谷口真由美氏の公約を分析する。

・谷口氏公約から洗練された言葉は見られるが、イメージ先行、問題解決の視点の薄さが感じられる。

・維新現職に対抗する為には具体的な政策を本気で訴える必要あり。

統一地方選挙、恒例の「公約分析」をしていこうと思う。まずは、大阪府知事選挙から。

アップデートおおさかと言う有志組織が応援する谷口真由美さん(48歳)、参政党の吉野敏明さん(55歳)、共産党推薦の辰巳孝太郎さん(46)、大阪維新の会の吉村洋文さん(47歳)、新党くにもりの稲垣秀哉さん(53歳)、政治家女子48党(元NHK党)の佐藤さやかさん(34歳)が立候補した。

現職知事である維新の吉村さんが圧倒的な存在であるという構図。この強敵を倒す可能性があるのかとなると自民党と立憲民主党という既存政党の支援を受けた谷口さんが対抗という位置づけになるだろう。争点は維新政治の信任投票といってもいいだろう。

写真)吉村洋文氏

出典)Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images

今回は挑戦する側の有力候補である谷口さんにフォーカスを当て分析していこうと思う。

谷口さんは1975年3月6日、近鉄ラグビー部の選手の娘として生まれる。父が近鉄ラグビー部コーチ時は「花園ラグビー場で育った」そうだ。併設されるラグビー部の寮で生活していたとか。府立清水谷高校、大阪国際大学政経学部卒業、和歌山大学大学院経済学研究科修士課程修了、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。専門は国際人権法。テレビのコメンテーターなどをした関係で知名度があり、「全日本おばちゃん党」、「メディアにおけるセクハラを考える会」などの活動や日本ラグビーフットボール協会理事なども歴任した。シングルマザーでもある。

□谷口さんの公約

法学者でタレント、大阪国際大の准教授の「公約」を見てみよう。そこでは「IR、カジノは住民投票」と大きく打ち出している。争点から外れそうな、あえて取り上げない維新をよそに、「IR」について問題提起をしていることは流石である。また、アップデートおおさかのHPに問題意識と政策が載っている。

【出典】HPより

・大阪を、環境・社会・企業ガバナンスにおいて世界水準を超えるESG(※用語解説)先進都市に。

・夢洲・IRカジノは問題が多すぎる。あらゆる情報を住民に開示し、住民の選択で決定する。

・エッセンシャルワーカー・ケアワーカーの処遇改善、中小企業の賃上げ支援で賃金の上がる大阪をめざす。

・育児・介護・ヤングケアラーの総合相談窓口を設置する。

・社会的弱者の目線からのまちづくりをすすめる

これらの「公約」からは、多様性や支え合いの関係性、社会的弱者への配慮、共生の思想が底流に流れていることがわかる。

女性目線で新たな風を吹き込んでくれそうな期待感を醸成したものとなっている。「ごきげんさんで、ふくよかな、おおさかを作りたい」という心に届くキャッチフレーズ、優しい言葉、伝えようとする姿勢などなど。文体も非常にわかりやすく、優しい言葉使いで暖かさを感じる。素晴らしい。

 

□公約分析によると・・・

しかし、専門家としてアップデートおおさかの「政策」と谷口氏の公約を見てみると3つの特徴がある。

第一に、イメージ先行であること。政策の基本すらみえなく、「お題目」のような文言が並ぶ。抽象的なふわっとした話がほとんどで、具体性がない。具体性を出せば、優先順位が明確になるものの、そこは残念である。「教職員の負担を減らす」と公約にあるが、「どのように?」「どうやって?」と突っ込んでしまったくらいである。政策トピックとしてはここ10年くらいの重要課題であり、文科省や各自治体が色々取り組んできたこと、DXやEDテック、GIGAスクール構想などの取り組みを踏まえるとあまりに簡易である。

「大阪を、環境・社会・企業ガバナンスにおいて世界水準を超えるESG先進都市に。」とあるが、ESGも様々である。環境だけでも、気候変動、エネルギー、生物多様性、大気、廃棄物など様々な問題が絡み合うのに、どこに重点を置くのか見えない。

「先進都市」の定義はなにか。そして、SDGsのほうが言葉としては府民に浸透する中であえてESGを使った理由などもよくわからない。

第二に、問題解決の視点が薄いこと。大阪府の問題は何なのか?と言ったら経済に尽きるだろう。たしかに、谷口さんが主張するようにインバウンド頼みの経済になっているという意味で、問題意識は良いと思う。しかし、それではどうやって経済を再生していくか?という視点が欲しいところだ。(IRを批判するなら)IRの代わりに起爆剤になるような「新産業」を提示する責任はあるだろう。代案ってやつだ。

・・・・をめざす。

・・・・を構築する。

・・・・を設置する。

制度を構築し、設置し、何かを目指す、それはわかる。しかし、政策というものは、制度を構築し・組織を設置すればすぐにできるものではない。事前調査、企画立案、査定、実施にむけた方向性を示したうえでしっかりとマネジメント・運用していく、そして政策検証をする。こうした行政経営の基本手法が踏襲されてないし、府庁が実施している各計画・各政策・各施策・各事務事業を踏まえた「対案」にすらなっていない。

名門大学院(私もよく知っている)で国際公共施策で博士号をとられた方が上記のようなことはわかっていないはずがない。だから、なぜに?とかなりのショックを受けてしまった。

第三に、利権闘争の匂いが感じられてしまっていることだ。女性候補でしかも庶民的であり、魅力的な女性。しかし、その裏にいる「アップデート大阪」の元大阪商工会議所副会頭ら年配の方々。大変失礼だが、女性の華やかで新鮮なイメージが台無しである。補助金の配分に対して批判をする姿、補助金をもらったりしてきた団体が話す会見を見てしまうと、日本的権威主義、権力とポジションを放そうとしない既得権益者の空気感で、クリーンなイメージも消えてしまった。橋下維新改革の前の「大阪」に戻ってしまったような錯覚を覚えてしまったほどだ。

「既得権益打破」を訴える維新に対して、「いや違う!お前らも○○と△△の関係やろ!」という勇気もないのだろうか。その意味で、本気の改革からは程遠いように思える。

 

□まずは、政策をアップデートしよう!

厳しいことを言っていたが、最低でも「第2期大阪府まち・ひと・しごと創生総合戦略」などを踏まえたうえで、考えることだってできたはずだ。「副首都・大阪都構想とは違う形の魅力的な地方分権・大阪の新しい地域リージョンの役割・新しい行政経営モデル」「万博後の大阪のあるべき姿・ビジョン」「DX・GXによる大阪経済のイノベーション方法」といった形で維新との差別化を図り、一次元の上の政策競争を促すことができないのは非常に残念である。

これからでも遅くない。本気の政策を訴えてほしい。維新の現職に対抗するためには政策のアップデートを頑張るしかないだろう。

トップ写真:大阪道頓堀

出典:Eloi_Omella/GettyImages

 

 




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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