米欧景気後退なら中韓経済に打撃 【2023年を占う!】アジア経済
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・IMFは2023年の先進国・地域の経済成長はいずれも下落し、新興市場国と途上国の成長率も大半が落ち込むと予測。
・米国は従来の「高インフレ抑制第一主義」から「景気配慮型引き締め策」へ転じ、中国を除くアジア諸国は予測成長率を下方修正。
・米欧で景気後退が起きると、中国、韓国、シンガポールが打撃を受け、アジアのサプライチェーンに大きな影響を及ぼす。
IMF(国際通貨基金)の2022年10月の世界経済見通し(表1)によると、2023年の先進国・地域の経済成長率はいずれも下落とされており、これに伴い、新興市場国と途上国の経済成長率も大半が落ち込むと見られている。ロシアのウクライナ侵攻の影響でインフレはここ数十年ぶりの水準を上回り、賃金と物価がスパイラルに上昇することへの懸念も示されている。
表1)最新の経済成長率
注)インドについてはデータと予測が財政年度ベースで表示されており、2021/2022年度は2021年4月に始まった。2022年10月のWEOでは、インドの成長見通しが暦年ベースで2022年が6.9%、2023年が5.4%となっている。
出典)国際通貨基金(IMF)(2022年10月IMF世界経済見通し)資料を基に編集部作成
国・地域別の経済成長率では、米国が2021年実績の5.7%、2022年の1.6%予測から2023年には1.0%に低下するとしている。ユーロ圏も5.2%→3.1%→0.5%(米国の3か年の順番に同じ、以下同様)と急降下。うち、ドイツとイタリアは2023年、それぞれ-0.3%、-0.2%とマイナス成長に落ち込むと予想している。日本は1.7%→1.7%→1.6%、英国が7.4%→3.6%→0.3%、カナダは4.5%→3.3%→1.5%を見込み、その他の先進国・地域は5.3%→2.8%→2.3%の成長を見込んでいる。
米連邦準備制度理事会(FRB=この名称は日本独自、米国での呼称はFED)は従来の「高インフレ抑制第一主義」から、景気とのバランスを考慮した「景気配慮型引き締め策」に転じたと見られている。
アジア開発銀行は2022年12月中旬に発表したアジア途上国の成長見通し(定期補足版)で、2022年及び2023年の見通しに関し、同年9月段階の見直しでそれぞれ4.3%、4.9%としていた予測を、定期補足版では4.2%、4.6%へ下方修正した(表2)。
中国を除くアジア途上国については、2022年の定期補完版で若干の上方修正、2023年のそれでは下方修正をしている。
表2)GDP成長率とインフレ率
出典)アジア開発銀行 2022年12月段階GDP成長・インフレ予測 資料を基に編集部作成
東アジアに関しては、2022年と2023年の定期補完版とも下方修正。香港の2022年予測については、定期補完版で-3.3%成長としている。一方、インドに関しては、7%台の高成長維持と見ている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)では、マレーシア、フィリピン、ベトナムが2022年に6%台から7%の高成長を維持するが、2023年にはフィリピンとベトナムが6%台成長へ、マレーシアは4.3%成長に減速するとしている。
シンガポールの2023年は2.3%と低成長、大国インドネシアの2022年と2023年の定期補完版の成長率予測は5.4%、4.7%。タイはそれぞれ3.2%、4.0%。
定期補完版での2023年のインフレ率に関しては、タイの2.7%、シンガポールの5.5%、インドネシアの5.0%などと幅がある。
定期補完版でのアジアの新興市場国の成長率予測に関しては、2021年実績、2022年予測、2023年予測の順で、中国が8.1%→3.0%→4.3%、インドが8.7%→7.0%→7.2%、ASEAN6か国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム)が3.3%→5.5%→4.7%成長と予測している。韓国では、中央銀行である韓国銀行が11月24日、2023年の経済成長見通しを従来の2.1%から1.7%に下方修正している。
アジア開発銀行のシニア・エコノミストであるM・ランザフェイム氏らは、同行ウェブサイトの「世界的な不況寸前か」と題する質疑応答形式のブログの中で、“戦後に世界的な景気後退が起きたのはリーマン・ブラザーズの経営破綻後の2009年の金融危機時と2020年のコロナ禍時だけ”としながら、「景気後退のリスクは高まっている」と現状について警鐘を鳴らし、「米国、欧州で景気後退が起きると消費が落ち込み、アジアからの輸出が影響を受ける。特に、中国、韓国、シンガポールが打撃を受け、アジアのサプライチェーンに大きな影響を及ぼす」と懸念している。
トップ写真:上海陽山深海港のコンテナヤード