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.国際  投稿日:2024/11/21

ワクチン陰謀論のケネディ・Jr氏が厚生長官に 元大統領暗殺事件にも焦点か


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・トランプ再選から2週間余。次期大統領は国務、国防長官らを含む重要閣僚を続々と指名。

・厚生長官には、「ワクチン陰謀論」を信奉するロバート・F・ケネディ・Jr氏が指名。

・氏は暗殺されたジョン・F・ケネデイ大統領(民主党)の甥。指名を機に、いまなお謎の多い事件に再び注目が集まる。

 

 感染対策の任者が強く反発

ケネディ・Jr氏の指名に対して、米国の感染症予防・研究の総本山、CDC(疾病予防センター)のマンディ・コーエン長官は、「強い懸念」を表明、「彼の登場によって(国民の)健康問題に動揺、影響が出る。新しい地位によって得られた権限を利用して誤った情報、疑念をまき散らすだろう」と強く非難した。

 

現政権関係者が人選を含め次期政権について賛否を明らかにするのはタブーだが、ケネディ氏は、コロナワクチン接種に懐疑的、陰謀論ともいえる見解を唱えており、氏の就任によって、ワクチン中心の対策が混乱する恐れがある。感染防止のマスク着用に反対、ワクチン接種をナチスドイツの人体実験に例えて攻撃するなどして一部から危険視されている。厚生長官はCDCのほかFDA(食品医薬品局)、NIH(国立衛生研究所)など国民の健康、福祉に関する機関をも監督する。就任には上院での承認が必要だが、共和党内にも氏の姿勢に対する疑問、反発が散見され、承認審議は難航するとの見方もなされている。

 

■ トランプ支持の返礼?

氏は1963年に暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領の甥。父は、故大統領の実弟で、その政権で司法長官を務めたロバート・F・ケネディ氏。ロバート長官は兄の暗殺後、上院議員に選出され、68年大統領選に民主党の有力候補として出馬したが、予備選途中の同年6月、アメリカの中東政策に反対するパレスチナ系青年に撃たれ亡くなった。

ケネディ・Jr氏は環境問題を得意とする弁護士で、23年に大統領選に民主党から名乗りを上げた。党の指名は困難とみて無所属に変更したものの、一時は20%にのぼる支持があり、その保守的な主張はトランプ大統領の脅威になるとみられていた。24年に入ってから徐々に失速、8月に撤退、トランプ支持を表明し、これがトランプ氏に有利に作用したといわれる。

厚生長官への指名は次期大統領からの〝返礼〟との見方もある。

 

■ いまなお謎に包まれたJFK暗殺事件

昨年60周年を迎えたケネディ氏大統領の暗殺事件はいまなお真相は闇の中だ。ケネディ氏は63年11月、遊説に訪れたテキサス州ダラス市内でパレード中、銃撃されて死亡した。事件直後に発足した事件解明委員会の報告では、現場近くで逮捕された男の単独犯と断定されたが、容疑者は警察署内で市民に撃たれて死亡、動機は未解明に終わっている。

複数による犯行ではないか、マフィアやCIA(中央情報局)が関与していたのではないか、などともささやかれている。筆者はワシントン勤務時代の2003年、真相解明委員会メンバーで当時、ただひとり健在だったジェラルド・フォード元大統領にインタビューしたことがあるが、元大統領は「逮捕された青年の単独犯という結論が揺らぐことはない。(マフィアアやCIAの陰謀は)〝あったかもしれない〟という程度だ」とはっきりと否定した。しかし、昨年の暗殺60年を機会に、銃弾は、従来言われていた病院の担架ではなく、大統領専用車内でみつかっており、不自然だと指摘する元警護官の証言がなされたりして、なお人々の憶測をかきたてている。

 

 華麗なるケネディ家の系譜

ケネディ家の動向がいまなお、アメリカ人の口の端にのぼるのは、何といっても、その華麗さからだ。43歳で就任した〝青年大統領〟とその実弟に加え、故大統領のジャクリーン夫人はその美貌と才知で人々を魅了した。兄弟の末弟、エドワード氏も一家の地元、マサチューセッツ州選出の上院議員を亡くなる09年まで46年間つとめて、一時は大統領候補にも擬せられた。Jr氏の兄とその息子、エドワード氏の長男もそれぞれ下院議員をつとめ、キャロライン・ケネディ元駐日米大使は故大統領の一人娘だ。故大統領の61回目の命日は22日(日本時間23日)にめぐってくる。

 

■ サプライズ、物議醸すトランプ人事

一方、ケネディ次期厚生長官に加え、トランプ次期大統領は急ピッチで新政権の閣僚、ホワイハウス幹部の選考を進めている。

全世界が注目する国務長官には、マルコ・ルビオ下院議員が指名された。過去、大統領選にも名乗りを上げ、当初はトランプ氏に批判的だったが、最近は親トランプに〝転向〟したとも伝えられる。中国、イランに対する強硬派だ。

国防長官人事も意外感を与えた。保守系メディアでトランプ氏に近いFOXニュースの司会者、ピート・ヘグセス氏が起用された。州兵の経験はあるが政府や軍など要職にもついたことがなく、一部では性的暴行疑惑がささやかれている。

司法長官に指名されたマット・ゲーツ下院議員は少女が関わる性的人身売買をめぐって司法省の捜査を受けたことがある。かつての被疑者に司法省職員が忠誠を誓うか疑問視されているが、次期大統領は人事を見直す考えはないと強調している。

CIA,FBI(連邦捜査局)など情報、捜査に関わる機関を統括する国家情報長官に就任するトゥルシー・ギャバ―ド元下院議員は昨年、日本による真珠湾攻撃に合わせてX(旧ツイッター)に「太平洋侵略を思い起こすと、日本の再軍備は本当によいことだろうか」と反日的なコメントを載せていた。ハワイ選出の元民主党員だが、最近はトランプ氏に接近していたといえわれる。

 

文字通り多士済々。「独裁」「報復」などといわれるトランプ人事、まだまだサプライズがあるかもしれない。

 

写真)支持者と自撮りをする厚生長官に指名されたケネディ・Jr氏(2024.11.14 アメリカ フロリダ)

出典)Photo by Joe Raedle/Getty Images




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