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.国際  投稿日:2021/1/3

バイデンの米国①ワクチン頼みの政権運営【2021年を占う!】米国


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・米新型コロナ感染者総数2000万突破、死者数35万に迫り世界ワースト1。

・バイデン政権のコロナ政策は、厳罰主義から実効性あるものへ転換。

・ワクチン薬害が起きたりすれば新政権の先行き暗い。

民主党のジョー・バイデン次期大統領が1月20日に就任式を迎える。「さまざまな対立軸で深く分断された米国を癒し、団結を取り戻す」と誓う新大統領の下で、米社会や経済はどのように変わるのだろうか。

連載3回にわたり、第1回は「新型コロナウイルス対策の成否」、第2回は「グローバル化の巻き戻し」および「ウォール街と庶民経済」、第3回は「人種問題」について考える。

第1回の今回は、「米民主党バイデン政権のコロナ政策は、有無を言わせぬロックダウンなどの厳罰主義から、より優しくより実効性のあるものへと転換してゆく」との予想に基づき、解説する。

 触れ込み通りに効かない封鎖

2020年2月以降、共和党トランプ政権が極端なコロナ放任主義政策を採る中、都市封鎖(ロックダウンの権限を持つ州知事など各地の民主党首長は、「一時的に経済を犠牲にしてロックダウンを厳守すれば、感染者数や死者数を速効的に抑えることができ、結果的に経済の回復を早められる」との触れ込みで、厳しい罰則を伴う都市封鎖を実施してきた。

しかし、ニューヨーク州やニュージャージー州など多くの地域ではロックダウン実施から1か月を経ても感染者数や死者数がさらに増加を続け、ニューヨークのアンドリュー・クオモ知事をして、「人々は外出せず家にこもっているのに、感染し続けている」と頭を抱えさせた。

これらの州でコロナの「火勢」が弱まり始めるには、2か月近くの時間を要した。それがロックダウンによる人と人との接触減少によるものであるとの、明確な因果関係をエビデンスで示した学術研究はない。あるのは、「ロックダウンなしの状況で増加したであろう感染者数と死者数の推計」とロックダウン後の感染・死亡減少の数字を比較して「封鎖は実際に効果があった」と結論付けるという、真に科学的とは言えない研究のみである。

こうした中、各地では感染者の増減に応じて部分的・全面的なロックダウンが9か月以上も繰り返されたものの、感染者や死者は逆に増加するばかり。年明けの1月1日現在で新規感染者数は23万件、感染者総数が2000万を突破、死者数も35万に迫り、文字通り世界ワースト1の記録を更新し続けている。

ロックダウンが劇的に効かず、先の見えない都市封鎖が繰り返されて低所得層や中間層の失業や収入減に起因する社会問題が悪化する中、私権の制限を嫌う共和党支持者のみならず、基本的に都市封鎖支持の民主党支持者の間にも「コロナ疲れ」が広まり、党派を問わない消極的な不服従が蔓延している。具体的には、屋内で家族や友人と多人数の集まりを楽しむ、マスク着用をしない、奨励されない遠距離の移動をする、などの違反が目立つ。

ロックダウンに対する全米規模の支持が得られた3月や4月と現在とでは、格段の違いがある。当初、「数週間もあればコロナを抑え込める」はずだったものが実現せず、外出制限や営業禁止などのゴールポスト移動が目まぐるしく、しかも恣意的で、国民が政府や専門家に対する信頼を失ったからである。

 より優しいコロナ政策へ

従来の厳罰主義やロックダウンが所期のコロナ退治効果をもたらしていない事実、さらに配布や接種が始まったワクチンの効果が現時点では高いと見られることを受けて、バイデン次期政権は、「より優しく、実効性にこだわる」コロナ政策を追求することになろう。

事実、バイデン氏は大統領選挙期間中の2020年8月に、「当選すれば、科学者の助言に従い、必要に応じてロックダウンを布告する」と述べたことがあるが、選挙民の間で高まる反発を受け、「全米規模の封鎖は必要ないと思う」と述べるなど、持論をトーンダウンさせている。

また、バイデン氏の当選確定後には、副大統領に就任予定のカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)が12月16日のABCニュースのインタビューで、「新政権は懲罰的なコロナ対策を採用しない」と述べている。米国民を団結させたいのであれば、懲罰的政策が逆効果であるとの認識が見え隠れする。

▲写真 カマラ・ハリス次期米副大統領 出典:Gage Skidmore

バイデン次期政権と連携しながらロックダウン令を発出する州政府など自治体も、考え方を改めるところが出てきている。極めて無慈悲な厳罰主義でロックダウンを執行していたニューヨーク州では、大晦日の1日当たりの死亡者数が約150人と、4月上旬の1000人以上と比較して抑制できているものの、新規感染者数が過去最多の1万5000人を突破するなど、再び「ホットスポット化」が始まっている。

しかし、同州のクオモ知事は12月30日、「ワクチン接種で州の集団免疫が形成されるには、優に1年かかる。だが、そんなに長く州経済を封鎖しておくことはできない」「NFL地元チームであるバッファロー・ビルズの試合を、その場でインスタントPCR検査を受けた6700人が観戦することを認める」「こうした運用が上手くいけば、他のビジネスにも適用してゆく」と述べるなど、「より優しいロックダウン」への政策転換を図っている。

厳罰適用はまだら模様で続く

翻って、連邦レベルでは、バイデン次期政権の新型コロナウイルス対策チームの諮問委員会のメンバーで、ミネソタ大学感染症研究・政策センターの所長であるマイケル・オスターホルム博士が11月11日に、「コロナを抑え込み、米経済を再生するためには4~6週間の全土ロックダウンが効く」と発言し、バイデン氏自身の「全米規模の封鎖は必要ないと思う」との立場と矛盾するなど、政権内でロックダウン至上主義者が再び台頭する可能性は残る。

また、従来は比較的緩やかなロックダウン政策を実施してきたカリフォルニア州のロサンゼルスでは、新規感染者数が1日当たり1万5000に迫り、死者も300人近くに達するなどした結果、医療が逼迫して「命の選別」を行わなければならない瀬戸際へ追い込まれたため、なりふり構わぬ厳罰主義でロックダウンを執行している。

ロサンゼルスのエリック・ガーセッティ市長(民主党)は、市警に対して「スーパースプレッダー」と目される新年パーティーの厳重な取り締まりを命じ、警官が総出でパトロールを行っている。さらに、「常習的なパーティーハウス」に対しては電気・ガス・水道の供給をストップするという強硬策にも訴えた。12月だけで、同市郡では「スーパースプレッダーイベント」参加の容疑で、250人近くが逮捕されている。

また、イベントチケット販売サイトのイベントブライトに対し、同市郡で開催される大晦日のパーティーイベントの招待を削除するよう要請するなど、米憲法で保障された言論の自由に抵触すると解釈されかねない強権をふりかざしている。

ロサンゼルスに限らず、新規感染者数や死者数が爆発的に増え、首長がパニック状態に陥った地域においては、「より優しいロックダウン」を目指すバイデン次期政権の方針にもかかわらず、厳罰適用が続くだろう。

 ワクチン頼みで危うい政権運営

結局、ワクチン接種で国民の大部分がコロナに対して免疫を獲得し、社会が安全になったと認められるまでは、中央(バイデン政権)の意向にかかわらず、各地で地元首長の判断によりロックダウンが繰り返されることになろう。

その意味において、「コロナ退治第一」を掲げるバイデン次期政権にできることは、予定よりも大幅に遅れているワクチン接種のスピードを急加速させるべく、ワクチン配送・保管・接種に関する総合的で現実的な計画を立て、米議会を味方につけて潤沢な接種予算を確保し、さらに有能な「司令官」を任命して実行させることだ。

それに成功すれば、2022年の中間選挙で大勝できるだけでなく、2024年の大統領選挙でも民主党は圧勝できるかも知れない。

反対に計画遂行に失敗したり、大規模なワクチン薬害が起こったり、現在のワクチンが効かないような事態になれば、バイデン新政権の先行きは暗い。

筆者の予想としては、「計画遂行に失敗」の可能性が高いと見る。バイデン氏はワクチン原料増産に国防生産法(DPA)を発動し、1日当たり100万人に接種を行う計画を公表しているが、それ以上の具体性、特に財源確保の見込みに欠けるからだ。

すでに民主党はロックダウンに関して、機能していない触れ込みに固執し、厳罰主義を採用して民心を離反させている。人々の支持を得られないロックダウンなど、絵に描いた餅に過ぎず、食えない(協力が得られず機能しない)。

こうした中、バイデン政権内で自己批判ができる現実派が実権を握り、大局をにらんでワクチン増産や接種加速の指揮が執れる人物が任命されることこそが肝要だと思われる。

に続く。全3回)

トップ写真:バイデン次期米大統領とハリス次期副大統領 出典:joebiden.com




この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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