〝ケネディ大統領〟の再来待望 JFKの甥、予想覆す健闘
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・暗殺されたジョン・F・ケネディ米大統領の甥が大統領選に出馬表明。
・〝泡沫〟の予想に反し、バイデン、トランプ両氏 をしのぐほどの健闘ぶり。
・指名獲得は困難視されるも、今なおケネディ・ ファミリーへの人気が衰えず。
ひさびさの「ケネディ・ファミリー」登場だ。
故ジョン・F・ケネディ大統領の甥、ロバート・ ケネディ・ジュニア氏(69)が2024年の大統領選に 民主党から名乗りをあげている。予備選を勝ち抜くのは困難とみられているが、現職相手の戦いぶりは 予想以上だ。
本命のバイデン大統領、トランプ前大統領の不人気ぶりの裏返しとはいえ、栄華を極めたアメリカきっての名門に対する米国民の憧憬はいまなお強いというべきか。
■華麗なるケネディ・ファミリー、いまも人気
ケネディ・ジュニア氏の伯父、JFKは、米国の内外を問わず、中年以上なら知らぬ人はほとんどいない。
1961年、選挙で選ばれた大統領としては、最も若い44歳で就任(35代)したが、1963年11月、テキサス州ダラスでモーターケードで遊説中、銃撃されて 亡くなった。
その実弟、つまりジュニア氏の父、ロバート・ F・ケネディ氏は兄政権で司法長官をつとめ、その後は上院議員として活躍。1968年の大統領選に出馬し、カリフォルニア州の予備選で勝利宣言した直後にやはり撃たれて死亡した。
ケネディ家は多くの悲劇に見舞われながらも、〝華麗なる一族〟として長く米国を象徴する存在だった。
故大統領のジャクリーン夫人はその美貌と才知で夫の死後も敬愛されたし、JFKの義弟は英国出身のかつての人気俳優、ピーター・ローフォードで、ハリウッドとの接点にも恵まれた。
兄弟の末弟、エドワード氏も一家の地元、マサチューセッツ州選出の上院議員を長くつとめた重鎮だった。ジミー・カーター大統領が共和党の新人、ロナルド・レーガン氏に敗れた1980年の大統領選では、有力候補に擬せられた。
故大統領の長女は、オバマ政権時代に駐日大使だったキャロライン・ケネディ女史。
ファミリーの多くは政界で活躍し、ジュニア氏の 兄、その息子、エドワード氏の長男もそれぞれ下院議員を務めた。ジュニア氏の姉もメリーランド州の元副知事という錚々たる顔ぶれだ。
日本や英国のように皇室や王室が存在しない米国において、ケネディ一家はそれに代わる存在とみる米国民も少なくない。
■バイデン、トランプ両氏しのぐ支持率
ジュニア氏が4月に出馬宣言した際は、いつの時代も再選狙う現職がきわめて強力であることから、早晩、選挙戦から撤退するのではなどどささやかれ ていた。
そうした見方は早々に裏切られた。
政治ニュースサイト「リアル・クリア・ポリティクス」の最近の調査による民主党内の支持率は、バイデン62・1%、ケネディ15・6%。ハーバード大アメリカ政治研究センターなどの調査ではバイデン 62%に対してケネディ15%。
現職から大きく水をあけられてはいるものの、〝泡沫〟が2桁にのせただけで驚きだった。
データの収集と分析を専門的に行うユー・ゴブと エコノミストによる最新の調査では、ケネディ氏が 一気に追い抜く。
「好ましい」という評価が49%にのぼり、バイデン氏の44%だけでなく、共和党の最有力候補、トランプ氏の44%をも上回った。事前予測とのあまりの違いに、あっけにとられた有権者も少なくなかったろう。
■選挙近づけば失速の見方も
ニューズウィーク誌は政治研究者の分析を紹介、 このなかで 「有権者に人気があるのは、(ケネディ家という)その名前からだろう」「現職大統領が 有権者にとって関心のあるさまざまな政治課題について批判の的になりやすいのは当然だ」などの分析を伝えている。
その一方で同誌は、選挙が近づいたら有権者は真剣にどの候補に投票すべきか考慮するから、その時点でケネディ氏は失速する可能性があるという厳しい予測も伝えている。
ケネディ氏は新型コロナウィルス対策のためのマスク着用に反対、ワクチン陰謀論を唱え、最近ワシントンDCで行った集会で、ワクチン接種を、ナチスドイツによる人体実験になぞらえて攻撃した。
こうした主張がさらに拡散されれば、支持率がいっそう低下する事態は十分に予想される。
■68年はRFKが現職に引導、今回は?
今回の大統領選をみる多くは、やはり再選めざす現職、ジョー・バイデン氏とドナルド・トランプ前大統領の両本命対決、前回2020年の選挙と同じ構図 になるだろうと予想する。
80歳の現職と2度にわたって刑事訴追された前大統領という〝究極の選択〟に米国の有権者はややしらけ気味とも伝えられる。
ロバート・ジュニア氏の参戦は本来、そうした選挙戦に風穴をあける意図だったろう。
ジュニア氏の父、ロバート氏は1968年の大統領選で、出馬を見送る考えだったが、現職、リンドン・ ジョンソン氏が最初の予備選で、弱小とみられてい たユージン・マッカーシー上院議員にあわやという ところまで追い上げられたのをみて急遽、出馬を決めた。
ジョンソン氏は泥沼化していたベトナム戦争の影響で人気低迷にあえいでおり、ロバート氏が名乗りを上げた直後に再選断念に追い込まれた。
本選挙では結局、共和党のリチャード・ニクソン元副大統領が、急遽擁立されたヒューバート・ハンフリー前大統領を破ることになるが、ロバート氏が戦い抜くことができたら、十分に勝機があったといわれる。
今回の選挙、高齢、不十分なインフレ対策などから、現職バイデン氏は決して盤石とはいえない。
不人気な現職という似通った構図の中、ジョンソン大統領を追い詰めたマッカーシー議員を演じようとしているのがジュニア氏というのは因縁めいているが、満を持して登場したロバート氏の役割を演じるのは誰か。
彗星のように登場する候補がいても、バイデン氏がやはり底力をみせつけるのか。共和党では、トランプ氏が容易に指名を受けることができるのか。
2024年11月5日に向けて、長い波乱含みの戦いがいよいよ始まる。
トップ写真:マイケル・スメルコニッシュ氏が、シリウスXMタウンホール生放送中にロバート・ ケネディ・ジュニア氏にインタビューした。2023年6月5日 アメリカ ペンシルベニア州 フィラデルフィア
出典:Photo by Lisa Lake /Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。