支援団体が警鐘 オンラインカジノが若者を闇バイトへ誘う危険な構図
Japan In-depth編集部(楊文果)
写真)ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子代表と参加した国会議員らⓒJapan In-depth編集部
【まとめ】
・違法オンラインカジノ対策強化に向けて、ギャンブル依存症問題を考える会による勉強会が開かれ、国会議員や警察ら関係者が参加。
・実際にギャンブル依存症の息子が闇バイトに手を出したという母親が登壇、支援や知識が行き届かない状況を訴える。
・団体代表の田中氏が違法オンラインカジノと闇バイトの関連性を説明、カジノの厳罰化や国内広告の犯罪ほう助の取り締まりなどを要望。
社会を揺るがす「闇バイト事件」。多くの若者が、闇バイトに応募し、特殊詐欺の「受け子」や「出し子」などの実行役として逮捕されている。時給の高いバイトを探して闇バイトに飛びつく背景のひとつに、ギャンブル問題があるとの見方がある。
こうした中、12月17日、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(以下、考える会)は、「闇バイトとギャンブル依存症問題:違法オンラインカジノ対策強化に向けて」と題する勉強会を衆議院議員会館内で開催した。
まず、都内で起きている一連の闇バイト事件で逮捕拘留中のギャンブル依存症者(以下A氏:27才)の母親が登壇した。A氏は幼少期より皆に可愛がられて育っていたが、衝動的な行動が目立つこともあり、育てにくさを感じていたという。高校に入ったものの部活で挫折を経験し、そのまま中退に。その後ギャンブルやパチスロなどのギャンブルにハマってしまい、母親にお金の無心をするようになった。そして19歳の時、窃盗・無免許運転により少年院に入った。少年院では高卒認定資格を取り、出所後は社会復帰を果たすも、すぐにギャンブルを再開し、やがて職を転々とするようになった。お金の無心も続き、「お金を送ってくれないなら犯罪を起こす」と言われると、母親はどこにいようとATMを探して振り込み、「これが最後だから」と毎度伝えていた。しかし次第に額は高くなり、最終的には一度に100万円の振込を求めてきたという。
母親はお金を渡すことをやめられず、貯金を使い果たし、自身の保険を解約してまで送金し、その総額は1000万円にも上った。
そうした中、母親は地元で開かれた厚生労働省依存症民間支援団体支援事業のギャンブル依存症セミナーに参加し、そこで初めてギャンブル依存症を知った。さらに家族会に入ってから、息子の為にと思ってやってきたお金の肩代わりが事態を悪化させていることを知り、送金をやめたという。
「今まで誰にも話せなかった辛い気持ちを話せる場所、安心して話せる自分の居場所を見つけたと、気持ちが少し軽くなりました」と母親は述べた。その後、A氏を回復施設に入れるも本人はギャンブル依存症を認めず、たった2ヶ月半で施設を飛び出してしまった。そして詐欺の受け子に手を染め、逮捕された。出所後、再度更生施設に入るもまた3ヶ月で飛び出し、一人暮らしを始めたという。
その4ヶ月後である今年6月、闇金からの電話が家族の職場にかかってくるようになると同時に、闇バイトのニュースを目にするようになった。嫌な予感は的中し、A氏は強盗致傷で逮捕された。
「依存症だから罪を軽くして欲しい訳ではありません。ただ、もっと早くギャンブル依存症を知り、対策をすればここまで悪化することは無かったと悔やんでいます。私はたった一人で抱え込み、息子に振り回されていました。社会のためにも、息子自身のためにも、気付くのがあまりにも遅すぎました」。母親はそう述懐した。
しかし、母親が住む田舎町では依然としてギャンブル依存症に関する情報は少なく、正しい知識を得る機会は少ない。母親は、「この国には、私のように家族のギャンブル問題に苦しんでいる人、息子のように闇バイトに手を出すしかないと追い詰められているギャンブル依存症者がたった今も孤立し、苦しんでいます」と苦しい胸の内を打ち明けた。
次に、考える会の田中紀子代表が、闇バイトとギャンブル依存症問題について解説した。家族会での実施したアンケートにて、回答者の33%が「当事者に犯罪行為があった」としたことを受けて、田中氏は「ギャンブル依存症の問題に関わりだして今年で20年になるが、これほど犯罪が増えたのは由々しき事態だ」と危機感を強く示し、「日本の若者をギャンブルから守らなくてはならない」と強く訴えた。
写真)記者の取材に答える田中紀子氏
ⓒJapan In-depth編集部
田中氏によると、闇バイトで最初に手を付けられがちなのは口座の売買で、その後強盗や詐欺の受け子等に流れていくという。
また、闇バイトに加担した人が依存していたギャンブルは、多い順にパチンコ、競馬、競輪、そして違法のオンラインカジノであることを明かした。中でも特に問題視されているのが犯罪性の高い違法オンラインカジノだ。その売上は競輪の1兆1892億円・年に匹敵する1兆1565億円・年にも上る。特にコロナ禍、オンラインカジノの参加者は一気に増え、考える会の家族会面談で寄せられた相談でも、オンラインカジノに関するものは20%を超えた。田中氏は、「ギャンブル依存症対策の更なる強化を望みたい」と述べた。
田中氏がオンラインカジノで特に問題視しているのが過剰なポイントサービスだ。「あまりにも垣根が低くなっている、何の啓発もないまま安易に友達紹介を進めるポイントサービスは早急にやめて頂きたい」と強く問題提起した。
写真)考える会が作成した「STOP!闇バイト」ポスター
考える会提供)
田中氏によると、日本のオンラインカジノ取り締まりが後手後手になっている理由として、海外では合法、日本では違法のオンラインカジノへのアクセス者を取り締まってこなかったという事実を挙げた。しかし、日本人が日本人向けにサイトをやっているのではないか、という疑惑があり、実際台湾では90人を超える日本人が違法オンラインカジノで逮捕されているという。
また、海外カジノのアンバサダーに日本人が就任していることや、日本の広告業者が広告を出していることが犯罪ほう助にあたる可能性があること、そして、日本から海外カジノへの送金も、マネーロンダリングにあたる可能性があることなどを問題視しているという。したがって、海外ではなく日本を拠点として営業している決済代行業者やアフィリエーター、YouTuberの取り締まりも必要だとの考えを示した。
図)アフィリエイター、決済代行業者の立ち位置
考える会提供)
最後に、田中氏は三つの要望を提示した。一つ目は厳罰化及び予算・専門人材の確保だ。警察の現場では専門知識が足りず捜査が難航しているという。二つ目は広告の取締体制の強化である。日本国内で関与しているアフィリエイター、決済代行業者への対策強化を強く求めた。三つ目はサイトにアクセスできないようにする、いわゆるサイトブロッキングの実施だ。他分野ではサイトブロッキングに成功したという事例もあるので、積極的に検討して欲しいと訴えた。
図)児童ポルノのサイトブロッキングに関する資料
考える会提供)
さらに、厚生労働省に対しては、ギャンブル依存症についての情報が地方にまで行き渡るよう、予算の増加を求めた。田中さんは、地方などギャンブル依存症に関する情報が乏しい地域で、オンラインカジノで容易にギャンブルを始められる状況に危機感を持っている。アルコールやゲームとは異なる趣旨の依存症であるにも関わらず、依存症対策としてまとめて8.9億円しか割かれていない状況を変えて欲しいと訴えた。
また、田中氏は警察庁にも、闇バイトの犯人に対し、金に行き詰まった背景にギャンブルの問題が無いか聞き取りをして欲しいと要望した。そしてギャンブルの問題があった場合は警察が適切な治療に繋げ、回復のきっかけにすべきだと提言した。さらに、オンラインカジノは国際的な問題であるとし、警察と外務省との連携を求めた。
同会は、8月に「オンラインカジノを規制する法改正又は特別法の立法を求める要望書 」を、岸田総理(当時)、ギャンブル等依存症対策推進本部 本部長(内閣官房長官) 林芳正氏らに提出している。これに関して、本勉強会にて内閣官房の担当者は、ギャンブル依存症対策の基本計画を見直しする中でオンラインカジノに関する記載を盛り込むことを検討していると発言した。
議員と警察による質疑応答、討論では、参加者約110人が様々な立場から意見交換を行った。「違法オンラインカジノに有名な格闘家やサッカー選手が堂々とアンバサダーをやっているが、法的に何故許されているのか」という質問に対し、警察保安課の参加者が、法の適応は法務省の主管だとした上で、警察も現在違法オンラインカジノアフェリエイターの逮捕に取り組んでいると回答した。
オンラインカジノの影響を最も受けているのは若い世代だという説明もあり、実際にギャンブル依存症に陥った大学生らによる発言もあった。SNSで目にした広告からギャンブルに手を出し始め、依存症になってしまったという大学生は「ブロッキングのような規制があれば良かったのかな」とコメントした。また、大学内の友人らとギャンブルに興じ、依存してしまったという別の学生は「校内の喫煙所で皆オンラインカジノをやっているという状態だった」と現状を訴えた。
写真)勉強会の参加者と取材するメディア
ⓒJapan In-depth編集部
その後、編集部はギャンブル依存症や闇バイトに対し世論が自己責任論に帰着している現状について質問した。「自分は非当事者だから関係が無い」と考えている若者はどのようにこれらの問題に向き合うべきかと問うと、田中氏は、「ギャンブル依存症っていうのは自分は当事者じゃないと思っていても、いつ巻き込まれるかわからないです」とコメントし、実際に寄せられた大学生の相談を例に出しつつ「巻き込まれた人たちの体験談も聞いてもらうことが若者にも必要だと思います」と答えた。さらに、ギャンブル依存症は精神疾患であり、闇バイト関与への予防も精神論で片付けられるものでは無いため、個人の資質に矮小化すべきでは無いと伝えていく必要があると語った。