無料会員募集中
.社会  投稿日:2019/3/25

期待外れギャンブル依存症対策に今すぐパブコメを!


田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)

 

【まとめ】

内閣官房、「ギャンブル等依存症対策基本法」策定に必要な人員排除。

・ギャンブル等依存症対策は本質を見ず、IR法案対策となりつつある。

・依存症対策基本法に4つの問題点有り。パブコメで意見表明を。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイト(https://japan-indepth.jp/?p=44855)でお読み下さい。】

 

昨年度、大騒ぎをして通過した法案の一つにIRカジノ法案があるが、あの法案を通す推進派の言い訳に「ギャンブル依存症対策をしっかりやる!」の大合唱があったことを、皆さん覚えておられるだろうか?

もちろん我々は、カジノを作ることにもろ手をあげて賛成などできないが、今まで顧みられることのなかったギャンブル依存症対策が、これで前進するのでは?と、大いに期待するところであった。

確かに現在、厚生労働省や文部科学省そして金融庁、消費者庁らが、前向きにギャンブル依存症の当事者・家族の思いをうけ、様々な対策を講じてくれるようになったが、信じられないことに「ギャンブル等依存症対策基本法」の策定に関わる、肝心の内閣官房が徹底的なギャンブル産業つまり既得権の擁護、および当事者・家族の切り捨てにかかってきたのには、驚き、困惑、そして失望しかない。このまま内閣官房が、さらなるギャンブル産業を発展させようと動き出すことには、大いなる警鐘を鳴らしたいと思う。

まず内閣官房のホームページでギャンブル等依存症対策基本法の関係者会議のHPをご覧いただきたい。関係者会議は2019年2月20日に突然公開の通知もなく行われた。

アルコールの健康障害対策基本法では、あらかじめ日程が発表され、会議の公開のお知らせがなされたのに、このやり方にも驚いた。

そして関係者会議のメンバー表を見ていただきたい。ギャンブル等依存症対策基本法にもIR(カジノ)法案にも「当事者・家族の代表に意見を聞く」という文言があるにも関わらず、なんと当事者・家族の全国を縦断する予防啓発、相談支援を行っている団体を排除してきたのである。

ギャンブルで予防啓発、相談支援を全国にまたがり活動しているのは、私たち「公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会」、もしくは「NPO法人 全国ギャンブル依存症家族の会」しかない。だから当然この二つの団体のどちらかを関係者会議に入れなければ、現在、全国でどのようなギャンブル依存症問題が起きているか?当事者・家族はどんな支援を求めているのか?医療や行政の支援にどのような連携が必要か?支援の手薄な地域はどのようなところか?などなど、現状の課題と問題点を全国規模で把握しているのはこの2団体しかない。そしてこの2団体はつねに連携し、身銭を切って支援に駆けずり回っているのである。

▲写真:衆議院内閣委員会「ギャンブル等依存症対策基本法」について参考人招致 出典:公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会

 

しかも私たちは、ギャンブル依存症対策推進のためにご尽力下さった与野党の先生方全員から関係者会議へのご推挙を頂いていたのだが、その先生方にも会議のメンバーはギリギリまで「まだ決まっていない」という回答一辺倒で、我々2団体の誰もメンバーに入れなかったのである。これには与野党の先生方も驚いておられた

そして言い訳的に一個人の当事者・及び家族をメンバーに入れてきたのである。もちろん個人の方を入れても構わないが、当然に全国を縦断した団体の代表も入れなければ、現状の問題も課題も解決されるわけがない。これは、アルコールの健康障害対策基本法に公益社団法人全日本断酒連盟さんを排除して作成するようなものである。それでどうやって当事者・家族のニーズにこたえることができようか。

さらに驚いたことには、こうして当事者・家族の団体の参加を認めなかったばかりか、ギャンブル産業側からは、パチンコ、競馬、競艇の団体の長、合計3名もが会議のメンバーになっていたのである。そしてギャンブル依存症の回復施設も2つ入っているが、そのうちの1つはパチンコ団体からの支援を受けている団体である。

言っておくが関係者会議には、これらギャンブル産業の管轄省庁も参加しているのであって、当事者・家族団体ゼロに対し、ギャンブル産業の代表3名及びギャンブル管轄省庁が加わっているのである。

また大きな問題点はもう一つあり、日弁連からどなたもメンバーに入らなかったことは我々にとっても大きな打撃である。うがった見方をすれば日弁連はIR(カジノ)法案に徹頭徹尾反対されてこられたことも影響したのかと思う。ギャンブル問題はその大半を金銭問題が占めるわけであり、さらに現在重篤な遅れを示しているのはギャンブル依存症者による刑事事件つまり司法との関係なのである。日弁連も、ギャンブル依存症問題に対する課題を度々提起されており、また我々も司法の理解を切望していたのだが、ここで完全に意見が取り入れられる目はつぶされてしまった。

そして内閣官房が初日に用意してきた、会議資料にはギャンブル依存症対策が世間で叫ばれるようになってから、ほんの言い訳程度に進めてきたギャンブル産業側の強化策がもっともらしく羅列された資料のみが提出され、現状に対する問題点や課題について触れた当事者・家族団体による要望やレポート等の資料は提出されないどころか聞き取りすらされなかったのである。

その上、会議の日程も危惧していた通り、ギャンブル等依存症対悪基本法は、わずか4回の会議で終了となるのである。4回のうち1回は委員の自己紹介、2回目で資料配布3回目で意見の取りまとめ、4回目で決定と中身について話し合われるのはわずか1回であり、そこでもし課題が提起されたとしても、参考人が招致されることも、関係団体の意見聴取も一切なされないのである。

議事録を見て頂ければお分かり頂けると思うが、会議の中味はわずか2時間。冒頭の説明で大半の時間を使い、発言していない委員もいる。アルコール健康障害対策基本法は、関係者会議は30回を超え、2年間かけて話し合われそれぞれワーキンググループまで作られたことを鑑みると、ギャンブル等依存症対策基本法がいかに骨抜きかお分かりいただけることと思う。

菅官房長官は「5月のギャンブル依存症啓発週間に間に合わせる」といかにもな理由付けを発表していたが、アルコールの啓発週間は基本法が策定されなくとも関係者会議と同時並行で実施されており、関係者会議の長さと啓発週間の実施は阻害するものではないのである。

このようにギャンブル等依存症対策は、あくまでもこの後に控えるIR(カジノ)法案の言い訳対策にすぎず、内閣官房はギャンブル産業側の既得権を守ることを重視し、ギャンブル依存症対策は問題点を封じ込み、さっさと終わらせることしか考えていなかったとしか思えない状況にある。

しかしながら、我々は内閣官房がどんなにギャンブル産業側の既得権者への擁護しか考えていないと思える状況にあっても、依存症対策を前に進め、ギャンブル産業が利益を増大させ、その負の側面であるギャンブル依存症問題は国民の税金にツケを回している愚策をなんとか一歩でも前進させ、ギャンブル産業を許可する諸外国が当然に行っている受益者負担を実現し、欧米諸国並みのギャンブル依存症対策を実現させるべく、前進するしかないのである。それができない現状がある限り、この上新たなギャンブル産業を許可するカジノを推進することは時期尚早であるとはっきり申し上げておく。

そして国民の皆様に是非お願いしたいことは、3月26日までこちらのサイトパブリックコメントを募集しているので、今から私が絶対に外せないギャンブル等依存症対策基本法の問題点を掲げるのでそれも参考にしていただき、パブリックコメントをどしどし入れていただき、内閣官房がギャンブル産業に忖度し、国民にツケを押し付けているような現状を改善できるようどうかお力を貸して頂きたい。

 

まず、こちらに基本計画案があるので、こちらをご覧いただきたい。

1)ギャンブル依存症対策で一番の大問題は、年齢制限が一向に守られていないということである。現在、おこなわれているのは、パチンコも公営競技も従業員やガードマンによる「目視」だけというずさんさである。ある意味法律違反が常態化しているのである。

依存症研究ではっきりしていることは、「開始年齢が低ければ低いほど、印象発症リスクは高まる」ということである。当会が行った研究でも、ギャンブル依存症者のギャンブル開始年齢の平均は18.1歳、対する問題のないギャンブル愛好家の平均開始年齢は30.6歳と歴然たる開きがあるのである。だからこそ、ギャンブルには年齢制限が法律で定められているのだが、ギャンブル産業側はこの法律を遵守するための企業努力をほとんど行ってきていない。

現在でも未成年者や高校生のギャンブル問題の相談が来ており、入り口対策のずさんさには腹立たしく思っている。ゲートをシステム化し年齢チェックをすることなど、あれだけ豪勢なCMを作る費用があるなら実現できないわけがない。パチンコ団体の長が、「トイレを借りに来る人もいる」などと理由を述べているが、このご時世、コンビニなどトイレを借りれるところはいくらでもある。そんな話は、システム化しない言い訳になどならない。

その上、公営競技は「ファミリーでギャンブル場に来て欲しい」と、子連れでギャンブル場で遊べるような企画を次々と打ち出しているのである。

小さいお子さんをお持ちの親御さんに警告しておくが、これは本当にやめたほうが良い。もちろん全員ではないが、お子さんがギャンブル依存症を発症してしまった際に、「自分たちがギャンブル場に連れて行っていた。」と後悔し嘆き悲しみ涙しているご両親を、相談会でいつも見ている。予防知識も警告もなく子供にギャンブルの敷居を下げてしまうことは本当に危険である。

ところが、この入場時の年齢チェックですら、基本計画案では一様に「入場制限措置の支援ツールとして、平成 31 年度から個人認証システ ムの研究を開始し、3年を目途とした研究を踏まえその導入の可能性を検討。(競馬)」といった具合で、これから「検討します。」というのが堂々と対策案として認められようとしているのである。これでは3年後に「検討したけどやめました」と言われてしまえば、基本計画は無と化してしまう。「検討する」という文言はすべて「実施する」として明記してもらう必要がある。

 

2)同様に、依存症の当事者及び家族からの申告によるアクセス制限というものが始まっているが、これも現状は年齢制限と同様に、家族から申告があっても顔写真でガードマンや従業員が目視で対応するという実際には機能していないものである。年齢制限も、アクセス制限も、しっかりとしたシステム化を実施すると明記しなくてはならない。

 

3)そして現在の重大な課題は利益相反問題である。基本計画案には、全ギャンブル産業から「自助グループと民間団体等に対する経済的支援」とある。ここには3つの問題がある。

①まず国内にあるギャンブル依存症の自助グループで最も大きなGA(ギャンブラーズ・アノニマス)及びギャマノンは、外部からの寄付は一切受け取らないので、これは書いてあるだけで実際は支援策にはならない。

②民間団体が直接ギャンブル産業から支援を受けたのでは、利益相反問題となりギャンブル産業側からの圧力を受けたり、ギャンブル産業側への忖度が発生する。ギャンブル産業側が依存症対策費を負担することは当然であるが、その方法は「ギャンブル依存症対策費」を国で吸い上げ透明性・公平性を担保したうえで分配すべきである。

③これが最大の問題であるが、利益相反問題など一切気にせずギャンブル産業側と手を結んでしまう、ある組織の医者や研究者らが殆ど全てのギャンブル産業と結託してしまっていることである。そしてこの組織が当事者・家族との連携を拒否し、「ギャンブル依存症という病気はない」「ギャンブル依存症になる人は、そもそもその人に発達障害などの問題がある」「ギャンブル依存症はそれほどいない」などと依存症者側にレッテル貼りをしているのである。

つまり、ギャンブル産業側が痛くもかゆくもない依存症対策をもっともらしい対策にみせ、ギャンブル産業側に痛みを伴うような対策はやらないのである。

この「民間団体支援」は下手をすれば、ギャンブル産業がお金を出し、ギャンブル産業の息のかかった民間団体だけを支援して「支援しています」とアリバイを作り、ギャンブル等依存症対策を停滞させることになりかねない危険性を秘めているのである。

ギャンブル等依存症対策は、もちろん我々だけでなく多くの民間団体が関わって支援をしており、その団体は多岐に渡る。例えば、生活困窮者、独居老人、シングルマザー、自殺対策、多重債務、DVや児童虐待、更生保護・・・など、とにかく窓口が沢山あるのがギャンブル依存症問題である。それら各種団体に透明性・公平性を担保した上で、ギャンブル依存症対策の支援の手が網目のように張り巡らされるからこそセーフティーネットが作られていくのである。利益相反は国民の皆さんにも目を光らせて欲しい。

特に、カジノ誘致を目指す自治体の市民は、この自治体が行っているギャンブル等依存症対策会議に利益相反の医者や研究者等が入っていないかチェックして欲しい。もしそれら利益相反の医者・研究者が入っているようなら、本気で依存症対策を推進する気がなく、カジノ建設のことしか考えていないと思われる。

また、最近依存症の医学会はこの利益相反問題に非常に厳しくなり、こういった医者や研究者との線引きが行われているが、本気でギャンブル依存症対策をやろうと思う地方自治体も、この利益相反問題には十分配慮し、委員の選定を行って欲しい

 

4)このように「ギャンブル等依存症対策基本法」は、あれだけ鳴り物入りで「しっかりやる!」と叫び続け、その一辺倒でごり押しした内閣官房だが、この法案の最も重大な課題は、「カジノを推進する内閣官房が、ギャンブル依存症対策も行う」という矛盾にある。しかもこの二つの法律は、ほぼ同じメンバーが策定に関わっているのである。しかしながら当初は私も内閣官房を信頼していた部分もあった。だが、IRカジノ法案が通過した今となっては、あの「しっかりやる」はすっかり反故にされてしまった気がしている

重要な対策は「検討する」。もしくはやるように見せかけて、自分たちの都合のよい人とお金を循環させるだけ。そして、全国の問題を津々浦々まで見てきた当事者・家族の団体は完全排除し、ギャンブル産業の既得権を守る。そして本質に踏み込んだ話し合いができないよう、関係者会議をわずか4回で終わらせ、しかも趣旨説明に殆どの時間を割く。ここまで露骨にギャンブル等依存症対策をないがしろにしてくるとは夢にも思わなかった。

だからこそ、ここで国民の皆様に是非とも、時期尚早のままカジノ建設を許可して良いものか?今一度お考え頂き、声をあげて頂けたらと思う。パブリックコメントに意見をどしどし入れて頂きたい。ちなみにカジノ管理委員会の平成31年度予算はなんと29億円である。それに対して、依存症対策予算はアルコール・薬物・ギャンブルをあわせて8億円しかないのである。

この国は、ギャンブル産業の既得権を守り抜き、ギャンブル依存症者を見捨てるばかりか、それによる負の側面は全て国民の税金に負担させるつもりである。それを阻止できるのは、国民の声、マスコミの力、そして良心ある国会議員の力である。どうかお力を貸して頂けるよう切にお願い申しあげる。

 

トップ写真:カジノ(イメージ) 出典:Pexel; Tookapic


この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表

1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。

 

田中紀子

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."