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.政治  投稿日:2022/5/19

オンラインカジノ対策、急務


                    JID編集部(黒沼瑠子、村田莉菜)

【まとめ】

・5月18日、東京都内で『2022年度 ギャンブル等依存症問題啓発週間フォーラム』が開催された。

・今回はオンラインギャンブルに焦点が当てられ、当事者や家族らが登壇し、その深刻さを語った。

・シンポジウムでは依存症患者の若年化が指摘され、オンラインカジノの取り締まり強化と依存症対策を各方面で取り組んでいくべきという結論となった。

 

5月14日から20日までのギャンブル等依存症問題啓発週間に合わせ、5月18日、「ギャンブル等依存症問題啓発週間フォーラム」が都内で開催された。

 

まず、NPO法人全国ギャンブル依存症家族の会の大沢妙子氏による家族のギャンブル依存症体験談が語られ、次にインタビュー形式で当事者支援部代表と主催のギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子氏がオンラインのギャンブルによる被害と自殺者の増加について話した。

 

その後、田中紀子氏の基調講演が行われた。

 

講演のテーマは「急増するオンラインギャンブル-依存症対策の現状と課題-」である。

写真)講演中の田中氏

©︎Japan In-depth編集部

 

 

講演で田中氏はオンラインギャンブルを「公営競技」「FX・仮想通貨・バイナリーオプション」「オンラインカジノ」の3つに分け、特にオンラインカジノについて、実際には違法なのに曖昧になっていると指摘した。

 

また実際にオンラインカジノ経験者1人と当事者家族2組が体験談を語った。

 

オンラインカジノは入金がとてもスムーズなのに対し、出金の際にはスムーズに運ばず、中には審査が一か月程かかるケースもあり、出金せずに次の資金にするケースが増えているようだ。また24時間いつでもできるためギャンブルに興味のなかった層を取り込みやすく、パソコンやスマホでできるため発覚も遅れやすい。通信傍受法の観点から警察の調査もしにくいのだという。

 

また当事者家族の体験談では、「もともとギャンブルをやるような性格ではない子でも簡単にギャンブラーになってしまうこと」、そして「ギャンブル依存症という病気だと周りに伝えること」の重要性を語っていた。

 

第二部のシンポジウムには、内閣総理大臣補佐官の中谷元氏、内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局参事官の榎本芳人氏、東京都十一市競輪事業組合及び業務課副主幹兼事業係長の松波基成氏、立川市公営競技事業部事業課事業課長の福家健三氏、昭和大学附属烏山病院精神科医の常岡俊昭氏が出席し、「オンラインカジノは違法か、合法か」というテーマを皮切りに意見が交わされた。

写真)シンポジウムの様子。中央で起立しているのが中谷氏。

ⓒJapan In-depth編集部

 

中谷氏は自身もゲーム依存症になった、という体験を語り、「ギャンブル依存症対策の法律ができたのは5年ほど前で、コロナの巣ごもりによるオンラインギャンブルの拡大とネットバンキングの流行はカバーできていない」と懸念を示した。また社会規範から変えていくべき、とし、関係者会議を通して更に深掘りしていくと言う。

 

榎本氏は「オンラインカジノは明確に違法であるが、曖昧な認識になっているのは啓発が足りていない」と述べ、オンラインカジノの取り締まりを含むインターネットによるギャンブルへの対応と、ギャンブル提供元と依存症問題を考える会などとの包括的な連携関係と支援について力を入れたいという考えを示した。

 

また松波氏と福家氏は競輪業界全体でもギャンブル依存症問題に取り組んでいくべきという自覚があるが、それぞれの競輪場が具体的な施策に踏み切ることができていない、と述べた。またアプリからの参加者が増え実際に足を運ぶ人が少ないため、アプリ業者とも相談して現地に来る人を増やしたい、とのことだった。

 

彼らが経営する京王閣競輪場とたちかわ競輪場では、ギャンブル依存症問題を考える会と連携してスクリーニング調査を行っており、多くの人が調査に回答してくれたという。

 

田中氏は「意外とみんな気さくに参加してくれた。どこか『自分は依存症なんじゃないか』と不安に思うところがあるのだろう」と述べた。一方で「息子を見張るために来ている母親がいて心が痛んだ。女子トイレなどに『家族のことでお困りではないですか』というカードを置くのはどうか」と提案した。

 

常岡氏は医師の立場から、「ここ一年程で若い依存症患者が増えた」と語り「社会経験がないまま依存症になると復帰のきっかけが作りにくいので長引く恐れがある」と述べた。また「スクリーニング調査の現場に医療関係者が立ち会うことで気軽に相談しやすいのでは?」と提案した。

 

 

また常岡氏は「病院では治すことしかできない。もっと前の段階で対策していかねばならない」とし、「病院側はギャンブルがいけないものと思い込んでしまう。今回のようにギャンブル主催側とお話できる機会は病院側としても大事」と述べた。

 

最後に田中氏が「大人は若者が人生をギャンブルで破滅したり、絶望して自ら死を選んだりすることがないように守らなくてはならない」とまとめ、参加者がそれぞれの立場で依存症問題に取り組んでいく決意を示して閉会した。

 

フォーラム後、田中氏はメディアの取材に応じ、ギャンブル依存症の指標について、「仕事などとの優先順位が狂ったり、借金を繰り返したりすることが挙げられるが、(依存症と判断する)明確な基準があるわけではなく、グラデーションのようなものだ」と述べた。

写真)田中紀子氏

ⓒJapan In-depth編集部

 

また田中氏は相談に来た当事者や当事者家族が自分たちの元で元気になり、一緒に活動してくれるのを見るとやりがいを感じると語った。

 

最近支援対象であった方が亡くなってしまったこともあり、田中氏をはじめとするギャンブル依存症問題に携わる方々は皆、「生きてさえくれたら良い」と語っていたのが印象的だった。

 

オンラインギャンブルの浸透で若年層の依存症患者が増える中、フォーラムの最後で語られたように、「大人達は若者から稼ぐのではなく守ろうとすべき」であり、ギャンブルで彼らの未来が奪われないことが最優先である。

以上

トップ写真)フォーラム会場(星陵会館) 2022年5月18日 東京都千代田区
©︎Japan In-depth編集部




この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表

1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。

 

田中紀子

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