2024年を振り返る:政治指導者の判断ミスと「新常態」の始まり
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#52
2024年12月23-31日
【まとめ】
・2024年は政治指導者の判断ミスが連鎖し、「新常態」が形成され始めた。
・経済合理性から戦略合理性への移行期において、判断の難しさが顕在化。
・1945年以降の「戦間期」が終わりを迎え、世界は新たな局面へ。
遂に今回が2024年の外交安保カレンダー最終号となった。一年間ご愛読いただいた親愛なる読者各位に心から御礼申し上げたい。それにしても2024年は「恐ろしい年」だったなぁ、と思う。
以前筆者はどこかで「政治指導者は、有事に近付けば近付くほど、深く考える時間や余裕がなくなり、その場の勢いや偶然などによって、判断ミスを繰り返すようになる。判断ミスが積み重なると、平時とは違い、間違いは是正されない。そんな誤った判断が積み重なると『新常態』が生まれ、その下で新たな判断ミスが繰り返される」と書いた。
平時、すなわち不確実性が低く、予測可能性が高い時代には、経済合理性の原則が妥当する。突発事項は限りなく少ないから、安心して「金儲け」をすれば良い時代だからだ。問題は、1945年から曲がりなりにも続いた、この古き良き時代が、21世紀に入って、どうやら終わりつつあるらしい ということだろう。
これが筆者の言う、80年間の幸せな「戦間期」の終わり、である。
先が読めなくなると、正しい情報も入って来なくなる。特に、時代が平時から有事に近付き始めると、国内外の情勢は一層流動化していく。そうなれば政治指導者は「経済合理性」とは別の基準、すなわち「戦略合理性」に基づいて政策判断を下し始めるのだが、実は、ここに大きな落とし穴がある。
経済合理性よりも戦略合理性に基づく判断の方が、はるかに難しいからだ。2024年という年は、このような政治指導者の「判断ミス」が連鎖を起し始め、その誤った判断の蓄積が新たな誤った「新常態」を作り始める時期なのかもしれない。年末の、しかもクリスマスの日にこんなことは書きたくないのだが・・・。
続いては、いつもなら、欧米から見た今週の世界の動きを見るところだが、あちらはクリスマス休暇なのか、めぼしい情報がないので今回はお休みする。いずれにせよ、クリスマスとハヌカーの時期だからか、欧米は静かなものだ。ちなみに、この時期、「メリークリスマス」と言うのはキリスト教徒だけ、ということをご存じか。
「ハヌカー」とは「奉献」を意味するヘブライ語で、別名「光の祭り」とも呼ばれるユダヤ教の祭事だ。紀元前1世紀にユダヤ人がエルサレム神殿を奪還し、再び奉献したことを祝うもので、大体クリスマス前後なのだが、ハヌカーの時期は毎年ユダヤ暦で決まる。今年は12月26日の日没とともに始まるそうだ。
英語では「ハッピー・ハヌカー」と言うのだが、これはキリスト教徒には言えない。そこでアメリカで登場したのが「Happy Holidays」という「政治的に適切な」言葉、というのが筆者の見立てである。但し、これもイスラム教徒やヒンズー教徒などにはピンとこないので、要注意なのだが・・・。ちなみに、キリスト教徒の少ない日本では、なぜかというか、当然ながら、「メリークリスマス」が主流である。
最後はいつものガザ・中東情勢だ。先週は「シリア情勢は、一つ間違えれば、中東全域の大混乱にも繋がりかねない大事件だ」と書いたが、今週もその見立ては変わらない。今は真の意味の「シリア再建」への序曲か、それとも更なる「シリアの悲劇」の始まりなのか?神のみぞ知るである。
今週はこのくらいにしておこう。2025年が読者の皆様にとって実り多い年となることを祈っている。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ロックフェラー・センターのクリスマスツリー(2024年12月21日、ニューヨーク)
出典:Photo by Craig T Fruchtman/Getty Images