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.国際  投稿日:2024/3/6

トランプ陣営の対日政策文書とはその2憲法9条が日本を無防備にした


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・アメリカが作成した日本国憲法の結果、日本は好戦的な共産主義の拡張に事実上無防備となった。

中国ロシア、北朝鮮の軍事的な脅威と、アメリカの相対的な抑止力縮小が日本の戦略的変化を触発。

・中国による台湾侵略成功なら、日本政府が倒れる最悪な状況を招きかねず、台湾防衛すなわち日本防衛。

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の対日政策文書の全文紹介を続ける。

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日本の消極平和主義の伝統

日本の地政学的に抑制された伝統的な姿勢はアメリカが戦後、作成した日本国憲法の結果だった。この戦後憲法は1947年5月3日に日本で施行された。そのうちの憲法9条は永遠の「戦争の放棄」をうたっていた。その第9条の全文を参考までに記しておこう。

「第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇 又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ② 前項の目的を達するため、 陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない」

しかしながら1949年の中国での毛沢東軍の勝利や、1950年の朝鮮半島での戦争勃発によって、日本は東アジアでの好戦的な共産主義の拡張に対して事実上、まったくの無防備となってしまった。日本の自衛隊は憲法9条の消極平和主義の精神を保ちながらも、独立した軍事抑止力を保持するという現実的な努力として1954年に設置された。

1960年にはアメリカと日本の間で「米日相互協力及び安全保障条約」が結ばれ、日本が武力攻撃を受けた際の日米共同の防衛が誓約された。

日本は1967年には大量破壊兵器へのレッド・ラインという意味で「非核3原則」を発表した。この原則は「核兵器を保持しない、製造しない、そして日本への核兵器の持ち込みを許さない」という趣旨だった。

「21世紀の脅威が変化を触発する」

消極平和主義の憲法と、ある程度の自衛部隊を保持する現実の必要性とのギャップに分裂させられたような、日本のこの曖昧な防衛姿勢は数十年はなんとか保たれた。しかしながら中国の軍事能力の急速な拡大、ロシアや北朝鮮による軍事面での妨害や威嚇の増加、そしてアメリカの抑止力の太平洋での相対的な縮小などが日本の戦略的な計算を変えるにいたった。

2021年の夏には中国共産党は、もし台湾防衛に日本が加わったならば、中国は核兵器を継続的に使って、日本が2度目の無条件降伏をするまで攻撃を重ねる、と威嚇した。第二次世界大戦での日本の破滅的な無条件降伏の再現を指していたわけだ。中国のミサイルや核兵器は急速に増加しており、この種の対日威嚇を実際に実行に移せる能力を増強してきたのだ。

中国共産党の好む、もうひとつの威嚇の方法は台湾の防空識別圏(ADIZ)への間断のない侵入である。いまは日本もそれと同じ被害を受けるのだ。八重山諸島は台湾からわずか110キロほどの距離にあり、日本は台湾の防空識別圏に隣接した状態にあるからだ。日本の防衛省の発表によると、2021年の1年間に日本の航空自衛隊機は合計1004回、緊急発進したが、そのうちの722回は中国の軍用機の異常接近に対してだった。残りの緊急発進のほとんどはロシア軍機に対してだった。この状況は前年の2020年からは顕著な増加となる。同年の緊急発進は合計で725回だったのだ。

中国軍がアメリカ議会のナンシー・ペロシ議長の台湾訪問に抗議して2022年8月に実施した実弾射撃の大訓練では中国軍のミサイル5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に初めて撃ち込まれることとなった。

ロシアはその前身のソビエト連邦が第二次世界大戦の終了期に日本側から自己勝手に奪取した日本の北方領土を支配し続けてきた。日本とロシアの間にはその結果、公式にはなお戦争状態が続いてきたが、最近になってロシアは日本がロシアのウクライナ侵略に抗議して制裁措置をとったことを口実にその日本との平和条約交渉からも撤退してしまった。

2022年3月には日本の外務省は改めて北方領土4島すべてが日本の領土だと宣言している。

北朝鮮はこれまで数回の核兵器開発実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を繰り返してきた。そのミサイルのいくつかは日本領土の上空や至近の空域を飛行した。2022年3月には岸田文雄首相が北朝鮮のミサイルが日本の領海近くに着水したことを非難した。

台湾の防衛は日本の防衛

アメリカも日本も中国共産党政権による東アジアでの侵略的膨張こそが21世紀のもっとも重大な地政学的挑戦だとみなしている。とくに日本にとっては台湾への中国共産党軍の軍事攻撃という展望は、アメリカにとってよりもずっと基本的な脅威である。日本の将来そのものが深刻に脅かされるからだ。

北京政府は民主主義の島国の台湾に侵略し、占領するという脅しを堂々と誇示している。

その軍事攻撃が成功した場合、南シナ海を通過する日本のエネルギー源や他の輸入品の80%もが危険にさらされる。そのような事態は台湾に至近の琉球諸島の日本領土の一部を中国に奪われる可能性をも生むだろう。さらにそんな事態は日本の経済を衰退させ、政治を不安にし、時の日本政府が倒れるという最悪な状況をも招きかねない。

日本での2022年の世論調査では、こうした危険への当然の心配からか、90%の日本国民が中国が台湾を侵略することを恐れ、現実のそんな事態への強い懸念を抱いている人が56%に達するという結果が出た。

(その3につづく。その1

トップ写真:7月1日の共産党創立100周年にあわせて行われた記念式典(2021年6月28日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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