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.国際  投稿日:2025/1/9

トランプ新政権の日本への意味とは その4 孤立主義ではない


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・トランプ氏の対外政策は孤立主義ではなく、選択的な介入と同盟関係の強化を重視している。

・民主党政権の外交政策の失敗が現代の国際危機を招いたとの批判がある。

・トランプ氏の次期政策は「力による平和」を軸にした国際戦略であり、同盟国の役割を重視しながら安定を目指している。

 

――ところでトランプ氏のアメリカ第一主義は孤立主義ではないのか。この疑問はグローバルに消えていませんね、対外政策ではNATO(北大西洋条約機構)からは撤退、アジアからも撤退、台湾は守らない、とする指摘が日本の識者の間でも語られています

古森義久 間違った指摘です。トランプ氏の片言隻句を捉えて、ねじ曲げて、自分がひそかに望むような絵図を描いての批判です。

アメリカの外交政策についてはまずトランプ氏が厳しく批判する民主党側の実績をみましょう。簡単に申せば、現代の国際的な戦争危機はバイデン政権の失策が原因なのです。日本側の専門家とされる人たち、さらにはアメリカ側の主要メディアも、この民主党側の失態について、ほとんで触れません。トランプ外交を考えるには、まずその前任者の民主党バイデン政権の対外政策を点検する必要があります。

たとえばアフガニスタンからの撤退はまったくの失策でした。アメリカは20年間アフガニスタンに介入して、一応民主的な政権を作ったけれどもうまくいかない。それで手を引くことは決めたのですが、トランプ前政権では2500人の海兵隊は残すことにしていました。

ところがバイデン政権は2021年8月31日に米軍をいきなり全面撤退させた。アメリカ軍が突然いなくなったからアフガニスタンの親米政権は倒れて、イスラム過激派のタリバンが政権を握った。その混乱の中で13人の米軍兵士が殺されました。

その後の情勢変化をみると、このバイデン政権の弱さと不器用さをロシアや中国、あるいはパレスチナのハマスが見て、攻勢に出ても大丈夫だと考えたという面があると思います。

さらに目に見えるバイデン政権の失敗は、ウクライナに対するロシアの侵攻を許したことです。ロシアがウクライナに軍事侵攻しようとする動きが分かってもバイデンは経済制裁で対応すると言って、最初から軍事オプションを外したのです。

――それで軍事行動に出ても大丈夫だと考え、ロシアはウクライナに侵攻した。

古森 そう言えると思います。そもそも民主党は伝統的に軍事は避ける、軍事忌避の体質があるのです。バイデンもカマラ・ハリスも軍事についてほとんど語ったことはありません。民主党にはリベラル派のオカシオコルテス議員など4人組と言われる女性議員や社会主義者を自認する上院のバーニー・サンダース議員などといった人たちがいて国防費増額に反対している。だから、バイデン政権の一番新しい国防費は前年比の名目1%増です。今はインフレが3%ぐらいですから、実質上のマイナスです。それに対してトランプの前政権では四年間をすべてで前年比2桁増を続けてきたわけですから、その違いは大きいのです。

――トランプ大統領の対外政策は孤立主義だとする批判については、どうでしょうか。

古森 トランプ氏の対外政策は孤立主義ではなく、選別的な介入だと思います。アメリカの国民の命を奪う、あるいは国益の根幹を傷つける、さらには国際秩序の全体を揺るがすとかいう大きな出来事については、トランプ陣営は外国に対しても介入していくと宣言しています。

その象徴的なケースが、シリアのアサド政権が化学兵器を使ったときには59発のミサイルを撃ち込みました。しかも、中国の習近平がフロリダの私邸を訪問していたときに攻撃を実行したのです。

トランプ第一次政権の国家安全保障戦略には、孤立主義どころか同盟関係を重視する、強化するとはっきり書いてあった。むろん、その強化の有効な方法は、同盟相手にもう少し防衛努力してもらうことだとも書いていました。この同盟重視も孤立主義とは正反対ですね。

では日本側の一部の識者とされる人たちの間などで、「トランプ政権は孤立主義だ」と断ずるような見解が出てくるのか。その根源を探ることも意味がありますね。

まず第一はトランプ氏自身の言葉の切り取りです。彼は選挙戦では1時間半くらいはプロンプターなしで演説する人です。洪水のように言葉が彼自身の口から出てくる。その洪水のなから、孤立主義とも思われる瞬間的な表現を文脈から切り取って孤立主義だと断じる。こういう事例も多いのです。

NATOの欧州側諸国がもし防衛費をGDPの2%以上にするという公約を果たさない場合、「アメリカはその国を守らない」というトランプ氏の言葉も趣旨は公約をきちんと守ってくれという意味でした。しかも彼はそんな言葉のすぐ後に「そう述べたら、多くの国が公約を守ってくれた」とつけ加えていたのです。発言の目的はNATO脱退ではなく、NATO強化だったのです。韓国との関係、日本との関係も同じく同盟強化です。ただし日本に対してはもっと防衛費を増やせとか在日米軍経費を増やせとかは公には全然求めてはいません。

間違った情報の第二のソース(源)はトランプ憎しという思いの敵の言葉です。トランプ政権でかつては働いたものの、なんらかの理由でトランプ大統領と衝突、あるいは意見を異にして、クビを切られる。そんな人たちが後から述べる「トランプ語録」です。

第三はニューヨーク・タイムズなど民主党びいき、トランプ叩きのメディアの偏向報道です。ここには「ロシア疑惑」のような虚報、誤報が山のようにあります。

――ではトランプ大統領、あるいはトランプ陣営の政策について正しい情報を得るのはどんな方法があるのでしょうか。

古森 次期トランプ政権の対外政策、安全保障政策はトランプ氏が直接にかかわっている、アメリカ第一政策研究所(アメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート AFPI)というシンクタンクがあります。2024年夏に第二次トランプ政権の対外政策を明記した250ページ以上もの文書を発表しました。この政策文書が決定的でした。次期トランプ政権の対外政策、世界戦略を具体的、かつ詳細に記していたのです。対中国政策なども非常に細かく書かれていました。そしてその全体の基調がまさに同盟強化でした。ただし同盟の相手側にもう少し防衛努力を増してもらう。その点は第一次トランプ政権の安全保障戦略と同じでした。ですからトランプ新政権下では国際情勢は安定の方向に動くと思います。トランプ大統領が一貫して強調するアメリカの「力による平和」による抑止力の効果には期待することができると思います。

(その5につづく。その,その, その

写真)フロリダで演説をするトランプ大統領 (2025年1月7日 アメリカ フロリダ)

出典)Photo by Scott Olson/Getty Images




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