日本での「トランプ叩き」の構造その3 誤報や虚報はどこから出るのか

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本メディアや識者はトランプ直属の研究機関AFPIの情報を取得せず、直接的な取材もしない。
・日本メディアがトランプ政策を読み間違える理由として、文脈の無視、トランプを恨む人らの言葉、反トランプ大手メディアの3つがあげられる。
・民主党寄りの三大メディアに日本の識者は強く依存している。
日本のメディアや識者たちはアメリカ国内の保守派からの情報をよくみていないといえる。トランプ氏直属の研究機関として、政策を発表してきた「アメリカ第一政策研究所(AFPI)」という存在がその実例だろう。この機関は選挙期間中、そしていま現在もトランプ大統領の政策に関しては最も有力な指針である。だが日本のメディアや識者のなかではAFPIの情報を取得し、分析していた人はほとんどいなかった。日本のいわゆるアメリカ通とされる彼らは全体をみずに、自分たちが思い込んでいる構図を押し通そうとするからこそ、選挙結果を読み間違えたのだ。
だがトランプ政権の閣僚や幹部をみるとAFPI出身者がきわめて数多く起用されていた。AFPIこそが政策に関しても、トランプ陣営そのものだったのだ。最も重要な情報源だったのである。ただしAFPIの情報をみていなかったのは、あるいはみていても無視していたのはアメリカの民主党寄りメディアも同様だった。
トランプ氏の政策や信条を理解する方法としては、大統領選期間中の集会に参加する方法もあった。しかしトランプ陣営が開く集会に日本の記者はほとんど参加していなかった。直接の取材をしないのだ。そもそもトランプ陣営に関する客観報道には最初から関心がないことのあらわれのようだった。
トランプ陣営側も外国のマスコミを政治集会のなかに入れたところで票が増えるわけではないため、あまり参加させていなかった。取材の申請をしても、「今回はもうスペースがなくて」というような理由で断られる場合が多かった。しかし一個人として参加する方法はあった。
私自身はアメリカ在住の一個人して、バージニア州のリッチモンドで開かれた集会に参加を申請したら認められた。集会の内部に入ると、テレビでみるよりもずっと多数の参加者たちがものすごい熱気を高めていた。トランプ人気のすさまじさをいやでも実感することができた。トランプ氏自身の演説も聴衆を沸かせることに長けていた。というより聴衆がトランプ候補を熱狂的に支持している実態が迫ってきた。集会に参加すれば、それこそ「トランプ人気がない」などとは書けなくなると実感したのだった。
日本のメディアは、トランプ氏が掲げる政策も読み間違えていた。そうした間違った情報はどこから、どのように出てくるのか。少し構造的に分類してみよう。
第一はトランプ氏自身の言葉の文脈を無視しての切り取りである。
その実例は「トランプ氏はNATO(北大西洋条約機構)から脱退するだろう」という虚報だった。日本の主要新聞などではしきりにそう報じられていたが、そもそもあり得ない話だった。トランプ氏はNATOを増強するため、ヨーロッパ諸国が防衛費を増額することを求めているだけだったのだ。
トランプ氏自身が欧州の加盟国の防衛負担の少なさ、とくにドイツなどの西欧諸国がオバマ政権時代に公約した防衛費のGDP2%以上の支出責務を守らないことを批判した事実をねじ曲げて、「トランプはNATOから脱退」と突っ走るのだった。
第二の虚報の情報源は、トランプ氏に恨みを持つ人物たちの言葉だった。
トランプ氏に恨みや憎しみを抱く人たちの悪口雑言を切り取って報じる傾向である。NATOについては、第一次トランプ政権で国家安全保障問題担当補佐官を務めたものの、トランプ氏と衝突してクビを切られたジョン・ボルトン氏の言葉のねじ曲げ引用が多かった。ボルトン氏は自分の回顧録のなかで、「NATOは大したことないとトランプが言っていた」「だから、トランプはNATOを脱退するかもしれない」などと書いていた。
日本の一部の記者たちはこの言葉を切り取り、トランプ氏の政策は脱退なのだと決めつけるという悪質な報道をしていたのだ。しかし回顧録に書かれていることをよく読むと、トランプ氏がNATOの完全否定などは一切していないことが一目瞭然だった。
トランプ氏を「ヒトラー」と表現する事例は先にも述べた。これについても情報源は、第一次政権で大統領補佐官を務めた経験があるものの、離反してやめさせられたことでトランプ氏に恨みを持つジョン・ケリー氏という人物だった。ケリー氏もトランプ叩きの本を出版しており、そのなかには「トランプが『ヒトラーも、いいこともしたかもしれない』と述べたことがある」と書かれていただけだった。しかもトランプ氏はそんな発言は否定していた。だがトランプ叩きの側は飛躍して、一気にここから「トランプはヒトラーだ」という断定に跳びつくわけだった。
第三の虚報や誤報の発生源はアメリカの反トランプの大手メディアである。
具体的にはニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビの三大メディアの影響が大きかったといえる。前述のように、この三大メディアは第一次トランプ政権の冒頭から『ロシア疑惑』を完全な事実であるかのように報じ続けた。この疑惑とはつまり繰り返しとなるが、「2016年の大統領選挙ではトランプ陣営はロシア政府と共謀して、アメリカ有権者の票を不正に操作した』という糾弾だった。この糾弾が事実ならば、トランプ氏の当選も不当ということになってしまう。
しかしこの糾弾はまったくの虚構だと判明した。だがニューヨーク・タイムズなどは訂正も撤回もしていない。日本の主要メディアもこの虚報を受けて、同様の誤報を続けた。もちろん訂正などはしていない。
このアメリカ側の民主党応援団の大手メディアは今回の大統領選でもトランプ氏への悪口雑言は絶やさなかった。トランプ氏は人種差別主義であり、女性蔑視であり、独裁者であり、民主主義の敵だという根拠の不明な誹謗である。同時に民主党のカマラ・ハリス候補を天にも昇れ、という調子で賞賛し続けた。
ニューヨーク・タイムズなどのこれら三大メディアは日本側では最も親しまれ、信頼されているという実態がなんとも皮肉である。とくにアメリカ政治を専門に研究する日本側のいわゆる識者たちはこの三大メディアに依存する度合いがものすごく高いといえる。なかでもCNNは日本でも自由に、しかも24時間、視聴できる。だから日本側識者の依存度が高い。だがそのメディアこそが極端に偏向し、民主党をほめたたえ、トランプ氏をけなし続けたのだ。
以上がトランプ誤報、虚報の情報源のおおまかな区分である。
(その4につづく。その1,その2)
#この記事は月刊雑誌WILLの2025年4月号掲載の古森義久氏の『日本のメディアは何故トランプ叩きに終始するのか』という論文を一部、書き直しての転載です。
冒頭写真)2019年8月20日 ワシントンD.C ホワイトハウスでルーマニアのクラウス・イオハニス大統領と会談するトランプ大統領
出典)Alex Wong/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

