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.国際,.政治  投稿日:2025/5/14

弱体化するアメリカを支えよ:日本の戦略的選択


 

牛島信弁護士・小説家・元検事)

【まとめ】

・EUがドイツの本格的な再軍備に賛同している。

・問題はトランプ大統領ではなく、アメリカの弱体化

・日本はアメリカが必要とする国になり、再建に協力すべき。

 

歴史を学ぶのはなんのためだろうか。

その時々の人の動き、それぞれの立場の違いを知るため。

では、知ってどうなるのか。

もちろん、歴史は繰り返さない。学んだところで、同じことは起きない。

しかし、マーク・トウェインは、「歴史は韻を踏む」と言ったと伝えられている。

よく意味がわからない。似たようなことが起きるという趣旨だということのようだが、わかったようでわからない。

 

私は、人が歴史を学ぶのは、過去が既成のものではないからだと考えている。過去は、今の時点で過去だとされているものである。過去の一断面を切り取って、それが過去の時点で生起したことである、と、今の時点で決めつけているだけのことなのである。

真実かどうかは、誰にもわからない。今の眼鏡しかないのだ。

明日になって考え直してみれば、違う事実が生起したのが過去であったと思うかもしれない、と思っている。

過去は一義的ではない。

 

それは、今が実は歴史の最後尾だと理解するということでもある。昨日があって、一昨日があったことは間違いがない。だが、今にとって重要な事実は1年前の或る事実ではなく、2年前の或る事実かもしれない。80年前かもしれない。

確かなことは、今日が最も新しい時間だということだけである。

 

驚くべき進展があった。

EUがドイツの本格的な再軍備に賛同しているというのだ。あのヒトラーのドイツを封じ込めるための仕組みだったはずのEUが、もはやヨーロッパはドイツに頼るほかないと云いだしたのである。

 

もちろん、トランプ氏のアメリカに起因する。アメリカが、NATOにもかかわらず、EUを防衛しないかもしれないとEUが感じ始めたのである。ポーランドはロシアの隣国である。

 

前回、「要するに、第二次世界大戦のときヨーロッパを支えたアメリカはもうどこにもいない」と書いた。なにもトランプ大統領が突然云いだしたわけでも、そうしたわけでもなく、「それは、オバマ氏が大統領当時、もはやアメリカは世界の警察官ではない、と言ったこととも文脈が一致している。どちらも民主党である。アメリカはもう昔のアメリカではない、豊かなアメリカではない、という客観的事実がその前提にある。」とも書いた。

 

今月の9日の日経に、ハラリ氏が、「トランプ氏」をとりあげて、「この状況が続けば短期的には貿易戦争と軍拡競争に加え、帝国主義の拡大を招くだろう。」と述べたうえで、「最終的な結末は、世界戦争及び生態系の崩壊、制御不能なAIとなる。」と記している。そうだろうな、と思う。

 

さらに彼は、「トランプ氏の考え方を擁護したい人は、この質問に答えるべきだ。」として、「普遍的価値観や拘束力を伴う国際法がない中で、どうしたら対立する国家同士が経済的、領土的な紛争を平和裏に解決できるのか、という問い」だと、その「質問」の中身を明かす。

 

 

私はトランプ氏の考え方を擁護したいとは思っていない。今の世界に「普遍的価値観や拘束力を伴う国際法」があればどんなに良かろうと思っている。しかし、今の世界にそれらはほとんど無いという事実を認識してもいる。日本国内では、一定の法の支配が行き届いている。しかし、言うのも愚かだが、それは世界を覆っていない。

 

アメリカが世界のGDPの半分を占めていた時代には、パクス・アメリカーナがあったのである。アメリカがGreatであった時代である。戦後80年、遂にパクス・アメリカーナが崩壊したのである。

アメリカがソ連と対立して、自らの力、支出で世界を「保護」していた時代が嘗てあった。それは、果たして「普遍的価値観や拘束力を伴う国際法」のあった時代だったろうか?

 

もちろん、違う。

それは、ハラリ氏が例にあげている北ベトナムとアメリカの戦争を思い出せばすぐにわかることではないか。北ベトナムはアメリカに独力で勝ったわけではない。ソ連と中国の援助があったればこそ、勝ったのである。それは、第二次世界大戦でドイツに勝ったソ連も英仏も、アメリカのお蔭だったと前回書いたのと同じことである。

しかし、北ベトナムの外側にドミノ倒しが拡がることはなかった。アメリカの力である。

 

私は、ヨーロッパの国々の恐怖をそれなりに理解しているつもりである。第二のウクライナが自分たちだと思わざるを得ないところに追い詰められているのである。アメリカの核の傘に頼れないとしたら、どこにも傘らしい傘はない。自ら作るしかない。費用が掛かる、時間がかかる。それ以前に、そもそも自力で可能なことなのか。であればこそのドイツ頼みなのだろう。ドイツはどうするのだろう?

 

私がヨーロッパの国々の恐怖を理解しているつもりだなどと言えるのは、他人事ではないからである。歴史は韻を踏むなどと、軽薄なことを考えている場合ではない。

 

1949年の日本に生まれた私は、平和に生き、平和に死ぬのだろうと、つい最近まで疑いもしなかった。それが、そうではないかもしれないと真剣に思わざるを得ない事態に、今の日本は置かれている。日本を取り囲んでいるのはロシア、中国、北朝鮮。どれも権威主義国家であり核保有国である。

 

泣き叫んでみてもどうなるものでもない。

したり顔の評論家の云う平和論にすがってみたところで、今、目の前で歴史の歯車はカチカチと動いていて、日本を巻き込もとしている。もう私のズボンの裾は歯車の感触を伝えている気がしてくる。

もう一度繰り返す。問題はトランプ氏、大統領ではない。アメリカの弱体化である。

 

では、そうした状況下で日本にできることは?

アメリカ再建、Make America Great Again に協力することしかない。ただし、それは日本がアメリカに屈服することを意味しない。アメリカが必要とする国に日本がなることである。

ドイツはその良い先行事例になるだろう。

 

具体的には?

経済と防衛である。関税はその入り口に過ぎない。

 

気になってならないことがひとつある。

日本の国内政治である。自民党と公明党の与党が参議院選挙で過半数を失うかもしれないことである。

それだけなら、国民民主と組むことで凌げるかもしれない。しかし、その次の衆議院選挙はどうだろう?過半数を有する安定した与党が日本から消えてしまったら?

日本は内部から崩壊してしまう。

すぐそこにある別の危機である。

 

 

トップ写真)ブリュッセルで会見を行うドイツのメルツ新首相(ベルギー、ブリュッセル)

出典)Omar Havana / Getty Images

 




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