台湾に対する中国軍の動きはもはや「リハーサル」

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025 #06
2025年2月10-16日
【まとめ】
・米インド太平洋軍は戦争準備を加速中。
・台湾に対する中国軍の動きはもはや「リハーサル」の段階。
・インド太平洋軍は、「無人戦」の実用化が進行中で新兵器の迅速配備検討。
今週は出稿が大幅に遅れてしまった。2月11日から海外出張が入り、時差の関係もあって(苦しい言い訳だが)、執筆のタイミングを逸したのだ。今回は米国シンクタンクPacific Forum主催のHonolulu Defense Forum(HDF)に参加するためハワイに来ている。されば今週は、同フォーラムの模様も含め、日米関係について書こう。
まずは、先週末の石破茂首相による初訪米・日米首脳会談から。日本での大方の懸念を裏切り、訪米はまずまずだったと思う。会合の性格上、今次HDFで石破訪米は話題にならなかったが、当地で会った多くの米国の友人たちの評価も「予想以上」だった。但し、その理由については、筆者の見立ては大方とはちょっと違う。
2月4日からの10日間、トランプ氏は米国大統領として4カ国の首脳と会談を行った。具体的には4日にネタニヤフ・イスラエル首相、8日は石破茂首相、11日にヨルダンのアブドッラ国王、最後は12日のモディ・インド首相だった。なぜトランプ政権は最初の首脳レベル会談の相手として、これら4カ国の首脳を選んだのか。
第二期トランプ政権発足から3週間経った今強く感じるのは同政権の戦略性だ。確かに昔のトランプ政権に戦略性はなかった。第一期政権発足後最初の一週間で発出した大統領令は僅か5件、内容的にもオバマケア(医療保険改革)、国境警備、環境保護規制などの見直しだけだった。
その理由は簡単で、当時のトランプ陣営は大統領選勝利を殆ど予測しておらず、政権発足時の基本戦略は勿論、具体的戦術すら固まっていなかったからだ。案の定、発足当初から第一期政権では政権部内の意見対立が激しく、主要な閣僚やホワイトハウス高官がことごとく辞任していった。
ところが第二期の今回は、政権発足最初の一週間で二〇〇件以上の大統領令が署名されている。これは第二期政権が過去4年の準備期間を経て、内政と外交の両面で、トランプ政権が如何なる戦略に基づき、如何なる政策をどこまで実行するかにつき、慎重に計画を練っていたことを意味する。
だからこそ、政権発足から一カ月も経たない2月前半までに、矢継ぎ早に新たな内政上の政策を打ち出し、首脳外交を始動できた。トランプ政権、恐るべし。今回の石破茂首相のワシントン訪問についても、米国内政の観点から分析すべきなのに・・。政治部記者の書く首相訪米記事は実に底が浅い。その理由はここらへんにある。
日米関係についてもう一点。今回HDFに参加して、特に強く感じたのは米インド太平洋軍の「戦争準備」が、以前にも増して、というか順調に、加速していることだ。HDF参加者には「チャタムハウス」ルールが課されるので、誰が何を言ったかには言及できない。しかし、それを前提に筆者が全体を通じて感じたことは次の諸点だ。
① 台湾に対する最近の中国軍の動きはもはや「演習」ではなく「リハーサル」である
② 対する米太平洋軍は、従来とは全く異なる戦争を戦う準備を着々と進めている
③ 中でも「無人戦」については概念化や試験段階を終えて実用段階に入っている
具体的には、可能な限り、「兵士は危険に晒さない、防御行為はAIと機械に任せるが、殺人行為だけはAIや機械には任せない」という大原則の下で戦争の「無人化」を本気で考えており、そのための技術は既に確立しているので、今はその種の新兵器を如何に大量かつ迅速に配備するかを真剣に考えているようだ、と感じた。
このように米軍、特にインド太平洋軍は本気だが、今のワシントンはそれを理解するだろうか。今回のHDF参加者は誰もが第二期トランプ政権を批判する発言や質問を控えていた。しかし、HDF初日の2月12日にトランプ・プーチン電話会談の内容が報じられたためか、参加者の多くは「来るべきものが来た」と感じたのではないか。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
2月11日 火曜日 米・ヨルダン首脳会議
2月12日 水曜日 欧州理事会議長と欧州委員会委員長、カナダ首相と会談(ブラッセル)
ウクライナ防衛コンタクトグループ、ブラッセルで会合
2月13日 木曜日 米印首脳会談
NATO国防大臣会合(ブラッセル)
2月14日 金曜日 欧州安全保障会議始まる(ミュンヘン)
クック諸島首相、訪中(5日間)
2月15日 土曜日 アフリカ連合首脳会議(エチオピア)
ジョージアのアブハジア地区で大統領選挙
最後はガザ・中東情勢だが、トランプ氏はガザ地区を米国が「take over」し、パレスチナ人を(一時的に)退去させる一方、同地を「リビエラ(のようなリゾート)にする」と発言したかと思えば、2月15日までに人質を解放しないと戦闘が再開し、ガザは「地獄を見る」などとハマースに圧力を掛けている。おいおい、ガザ地区は既に十分「地獄を見ている」ではないか、そんな脅迫に効果があるかね、と思う。ガザについては来週詳しく書くとして、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)日米首脳会談後の共同記者会見 2025年2月6日
出典)首相官邸
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

