スイスのプールが外国人入場制限:背景にあるフランスの社会問題とは

Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・スイスポラントリュイ市のプールでは、フランスから来る若者のマナー違反や混雑で居住者以外の入場を制限。
・仏社会の「移民の統合」「貧困」「教育の格差」などの問題を浮き彫りにした。
・この例は、文化の違いが共生の壁となり、多文化社会においてどの国も無視できない大きな課題を示唆。
スイスのポラントリュイ市のプールでは、フランスから来る若者のマナー違反や過度の混雑に対処するため、2025年7月4日から8月31日まで、スイス居住者以外の人々の入場を制限する決定がされた。
ポラントリュイ市のプールがスイス居住者以外への入場を制限する決定に対し、スイス連邦反人種差別委員会などから「差別的」「集団罰にあたる」との批判が上がり、スイスのイメージを損なうと非難されてもいる。しかし、この問題はフランス側から見れば、単に「差別」と呼んで終わるものではない。なぜなら、この背景には、フランスが抱える深い社会問題が関係しているからだ。
■プール利用者制限の理由
プールの責任者や利用者たちは、一部の若者の行動が「手に負えない、耐え難い」ものになっていたと感じていた。具体的な問題行動としては、以下のようなものが報告されている。
若い女性を追いかけ回したり、嫌がらせをしたりする行為
プールのルールや指示に従わない、または警備員や監視員に対して攻撃的になったり暴力を振う
料金を払わずにフェンスを乗り越えてプール敷地内に侵入する
不適切な言葉遣い
下着のままでプールに入る
集団(ギャング)間の喧嘩やトラブルが発生し、職員に危険をもたらしたことも
もちろんスイス側にも同様に人に迷惑をかける人はいるものの、それは少数であり、問題行為のほとんどは「フランス人」によるものだったという。目撃者の話によれば、迷惑をかけたのは主に北アフリカ出身でフランスのドゥー県とテリトワール・ド・ベルフォール県の出身者という話だ。
実は、同様の問題で2020年にも入場制限がされており、その時は市長により具体的な町名があげられていた。その町の名前は、ソショー、モンベリアル、ベルフォールで、問題を起こす若者たちは、この町の「団地」出身の「ギャング」であり、フランスの警察当局にも知られているようだと述べていたのだ。
また、入場制限はそれだけが理由ではない。ポラントリュイ市のプールの収容能力は900人から1000人だが、猛暑が続いた時期の午後には1000人を超える利用者が芝生の上にひしめき合っていたという。明らかに許容人数を超える利用者が敷地内にいたことになる。ポラントリュイ市長フィリップ・エッゲルスヴィラー氏は、アジョワ地方の人口が約2万8000人であるのに対し、隣接するフランス側の人口は約25万人に上るため、既存のインフラではすべての人を受け入れることはできないと説明しており、プールを建設・維持するために税金を支払っている地元ジュラ州の住民が平穏に利用できるようにする必要があると、決定を下した。
なお、市長によれば、この措置の導入後、わずか1週間で無作法な行為が「完全に消滅した」したという。
■フランスの社会問題
当然ながらこの決定は、スイス国内、フランス国内共に大きな波紋を呼んだ。ジュネーブ大学の公法講師ステファン・グロデッキ氏によれば、ポラントリュイのプールへのアクセス制限は「憲法に違反している」という。
しかし、フランス国内では、この決定を差別と捉えるだけでなく、より根深い社会問題として認識する動きが見られた。なぜなら、これはスイスだけで起こった話ではなく、フランス国内でも起きている問題だったからである。例えば、コルマールでは、公共プールが3日間閉鎖された。原因は、一部の集団が職員を侮辱し始め、乱闘騒ぎに発展したからだ。問題を起こした者たちは武器を持って戻ってくると脅迫したという。さらに、コルマールから車で1時間のストラスブールでも同様の事態が発生していたのだ。
ポラントリュイ市長や地元関係者が述べていた、ソショー、モンベリアル、ベルフォールというのがどういったところなのだろうか。場所的には、フランス東部、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏に位置する町で、スイスとの国境に近く、特にポラントリュイ市からアクセスしやすい地域だ。そして、これらの町は1950-70年代に建てられた低所得者用の団地が多いという特徴を持っている。こういった地域には、労働者階級や移民コミュニティが多く住み、貧困、失業、犯罪の温床となっていることが多い地域でもある。いわゆるフランスの「バンリュー(郊外)」問題が存在する地域だ。コルマールや、ストラスブールにも街の規模にしては大きなバンリューが存在している。要するにこの問題は、ほぼ全て、バンリューに住む若者によって引き起こされた問題なのである。
バンリューには、北アフリカ(アルジェリア、モロッコ、チュニジアなど)や他の旧フランス植民地からの移民とその子孫(二世・三世)が多く住んでおり、コミュニティを形成しているが、こういった地域では文化的・経済的統合の課題が顕著とされている。
フランスの学校ではもちろん市民教育が行われているが、家庭や地域コミュニティでの教育的サポートが不十分な場合、学校で教えられる公共マナーや規律が十分に浸透しない場合が多い。特に移民家庭では、出身国の文化や宗教的価値観が優先され、フランス社会の普遍的な価値観と衝突することもあるのだ。バンリューでは、同じような問題を抱える家庭が集中し、非行の温床になりやすく、若者が規範を示す大人や社会との接点に乏しくなる。 さらに、若者、特にバンリューの若者は、学校や警察といった公共機関に対する信頼度が低い傾向があり、それが公共ルールや社会的規範を尊重する態度に影響を与えている。
この結果、フランスに住んで、同じフランスの教育をうけているのにもかかわらず、フランスの中で大きな文化的ギャップが生まれることになる。もちろん国が何もしてこなかったわけではない。経済的機会の提供、教育の改善、警察と住民の関係の改善、社会統合の促進、地域再生など、長い年月をかけてあらゆる手段をほどこしてきたが、思ったほどの結果が出ていないのが現実だ。そしてさらにこの問題は、今後も長期で投資をして改善していかなければ国の安全に大きく影響をおよぼすことは間違いない。
ポラントリュイ市のプールでの問題およびフランス国内で起こった問題は、フランス社会が長年抱えてきた「移民の統合」「貧困」「教育の格差」という複雑な問題をあらためて浮き彫りにしたのである。
■文化的ギャップという課題
利用者が定員を超えてしまうような状況では、「誰をどう制限するか」という判断が必要になる。スイス当局は、公共の場でルールを守らないフランスからの若者を入場制限することで、地元の住民(税金を払っている人たち)の権利と安全を守るという、現実的で妥当な判断を下した。しかし、スイスのポラントリュイにあるプールで起きた問題は、フランス側から見れば、単に「差別」や「一部の利用者のマナーの悪さ」といったことで片づけられるものではない。
今回のプールでの出来事は、フランス社会が長年抱えてきた「移民の統合」「貧困」「教育の格差」といった複雑な問題が表に出た例でもあり、事態は国境を越えて国際的な話題にまで発展したともいえるだろう。
フランスはこれまで多くの移民を受け入れ、文化の違いを乗り越えて社会に溶け込んでもらう努力を続けてきた。しかし、それは簡単なことではなく、今もまだ課題が多く残っている。このような事例は、文化の違いが共生の大きな壁になることを示しており、移民とともに暮らす多文化社会には、日本を含め、どの国でも無視できない大きな課題が立ちはだかっていることを教えてくれるのではないだろうか?
トップ写真)サンウルサンヌ、ジュラ、スイスの写真素材
参考リンク
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