「護憲、改憲超えた『正憲』を」馬場伸幸衆院議員【憲法改正論】
Japan In-depth 編集部
【まとめ】
・少子化という国難克服のため「教育無償化」明記は不可欠。
・「9条1、2項見直し・自衛隊明記」へ議論進める。
Japan In-depthでは各党の論客に憲法改正への見解を聞いている。5月9日は日本維新の会・馬場伸幸幹事長を招き、党としての考えと馬場氏個人の見解を語ってもらった
――日本維新の会の憲法改正へのスタンスは。
馬場:
日本国憲法は人間で例えるともう72歳なのに、いまだに3、4歳のときの服を無理やり着ている状態だ。わが党としては、こう変えればこういうふうに国民に役に立ちますよという観点から、今の時代に合う憲法に改正すべきだとの考えだ。改憲なら保守系、護憲ならリベラル系というように、改憲、護憲という言葉も色がつきすぎている。だから最近は聞かれれば個人的には「正憲」と答えるようにしている。学問的に間違っているか正しいかではなく、時代と国民のニーズに正しく合っているかという意味だ。ぜひ安倍首相にも流行らせていただきたい。
――維新は憲法改正案として「教育無償化・統治機構改革(地域主権)・憲法裁判所」を訴えているが、9条改正を外した理由は。
馬場:
この3項目を決めた2年前はアジアの緊張感がまだこれほど高まっていなかった。当時、9条改正の結論はまだ出さないでもいいだろうとの判断だった。最近の情勢から、党内で再び議論を始めた。近いうちに結論を出すべく勉強会等を積み重ねている。
――憲法への自衛隊の位置づけについて。
馬場:
国民は自衛隊を違憲ではないと思っているのに、多くの憲法学者は違憲だと言う。憲法学者は、自衛隊は違憲だというところから入らないと学者として生きていけない。この神学論争に終止符を打つべきだ。どこかの政党の党首が言っているが、憲法に合わせて国をつくるのは時代がずれている。ほとんどの国民が自衛隊は違憲ではないという憲法事実がある以上、それに合わせて憲法を改正するのは当たり前だ。表現は別として、違憲論を封印するために憲法を改正して、誰がどうみても自衛隊は合憲だという状態にすべきだ。
――安倍首相の「1、2項維持」案についての考えは。
馬場:
安倍首相の考えは自衛隊の必要性しか打ち出されていない。許容性がない。許容性とは何か。自衛隊が合憲になれば、装備をグレードアップする必要があるかもしれない。戦争に行かないことになっている隊員が、万一戦争に巻き込まれた際の身分保証をどうするのかも考えないといけないかもしれない。シビリアンコントロールや軍法会議の整備も要るかもしれない。つまり、国民は自衛隊の必要性を認めているけれども、そういうことを完全に許容しているかというと、まだよく分からない。
1、2項を含め、自衛隊を憲法に位置付ける表現の仕方は、その許容性がきっちり国民に理解された中で考えるほうがいいのではないか。安倍首相も議論の入り口で「きちんと自衛隊を位置付けましょう」と説明すればいいのだが、「憲法に明記されても何も変わらない」との説明だけだ。とりあえず自衛隊を憲法に書いておいて、この先何かあるのではないかと勘繰られる説明に終わってしまっている。
――9条改正について、維新は1、2項とも見直し、自衛隊も明記するとのスタンスということか。
馬場:
個人的にはそうだ。自衛隊明記と1、2項は辻褄が合わない部分がある。整合性を取れるように改正すべきだ。ただ、どのような表現にするか党内で結論は出ていない。せっかく改正するのなら、誰がどう読んでも自衛隊は日本を守る組織だと分かるようにしたほうがいい。ほかの解釈ができるような条文はよくない。
――維新の自衛権への考え方は。
馬場:
個別的自衛権とか集団的自衛権という言葉はあまりにも手垢がついているので、もう使わないようにしようと言っている。日本国と日本国民を守っている外国軍隊が攻められたときに、チームディフェンスで対応するのは当たり前だ。ただ、ホルムズ海峡に行くとか、そういう意味の集団的自衛権は認めない。
――憲法に自衛隊を明記することで今後の国際貢献への影響は。
馬場:
やはり遠くへ行って自衛隊が戦闘活動を行うことは間違いだ。国連平和維持活動(PKO)への参加はいいが、基本的には戦闘地域には行かない。
――憲法に自衛隊を明記しなくても、法整備で対応できるのではないか。
馬場:
平和安全法制の議論の途中で3人の憲法学者が平和安全法制は「違憲だ」と言った。なぜかと尋ねたら、「自衛隊が違憲だからだ」という。それ以降、平和安全法制は違憲か合憲かの議論だけになってしまった。我々が真面目に法案の内容を議論しようとしても、「違憲だ」の主張一色となった。自衛隊を憲法に位置付けずに、法整備をやろうとすれば、またあの人たちが「違憲なのに何をしているのか」となる。
――教育無償化を憲法で位置付ける意義について
馬場:
保護者の経済的な理由で私立の高校や大学に行けない子供たちがたくさんいる。進学をあきらめてしまう。低学歴で社会に出ると年収も低い。そういう悪循環、貧困の連鎖が起きている。やる気があり、向上心のある子供たちがより良い高校、大学に行けるようにするのが我々の考えだ。少子化のため、大学改革も必然的にやらなければならない。それに合わせて教育の無償化をすれば、本来行われるべき教育を行う特色ある大学が生き残り、そこに通う学生はより良い知識、見識、学問が修められる。
――奨学金制度の充実ではなく、なぜ一律無償化なのか
馬場:
所得制限をかけるとしても、教育費を無償化することで保護者の可処分所得を増やす狙いもある。経済・景気を良くするためには個人消費を上げることが大きな柱になる。
――経済政策の意味合いもあるのか。
馬場:
そうだ。
――憲法で一律無償化とするとなかなか変えられなくなる。教育無償化は憲法に明記すべきなのか。
馬場:
安倍首相の言うように少子化は国難だ。国難を解決するためには子供を増やさないといけない。そのためには教育費の軽減が必要だ。教育無償化を行政の裁量権で左右させないためには義務教育と同じように憲法に明記する必要がある。悪夢の3年間と言われる民主党政権時代に子ども手当があった。妻はこんな制度長く続くはずがないと言って手当を貯金していた。妻の言う通り、政権が代わったとたんに子ども手当はなくなった。そういうことを教育で起こさせないためには憲法に書くべきだ。
――憲法改正の議論が進まない。
馬場:
憲法改正が実現すれば、日本の歴史に永遠に足跡を残すことになる。安倍首相にその手柄を立てさせたくない勢力が憲法審査会の開会を徹底的に妨害している。憲法審査会を開かせないというのが安倍政権打倒の一つのファクターになっている。今の国会は55年体制の再来だ。野党は様々なわがままを言ってとにかく審議妨害をする。与党はそれをなだめながら自分たちの通したい法案を通していく。最近特にその色が強くなってきた。
立憲民主党や国民民主党の議員が目指しているのはかつての社会党だ。憲法改正議論を前に進めさせない。自主憲法制定が党是の自民党の中にも憲法改正はやめたほうがいいという人たちもいるような気がする。
――安倍政権下でなくても日本では憲法改正は進まないのではないか。
馬場:
憲法審査会は一人一人平等に時間が与えられている最も民主的な運営がされている。民主的な運営をする代わりに、政局に関わらず憲法審査会を開きましょうというのがルールだった。ところが、いつの間にかそのルールが崩れて「こんな政局では開けない」、「安倍政権の間は改正させない」となっているのが今の審査会だ。本来は改正項目を審査するための会だ。
国民がその議論を聞けば、何のための改正か、改正により自分たちの暮らしはどうなるのかが分かる。憲法改正は最終的に国民が判断するもので、国会議員が決める話ではない。国会は国民が判断する材料を提供するのが役目だ。憲法審査会を開いてほしい。
【総括】
「教育無償化」「統治機構改革(地域主権)」「憲法裁判所」。維新の提案は明確だ。9条に関しても「1、2項見直し・自衛隊明記」の方向で議論を進めるという。安倍首相の提案よりも踏み込むことになり、果たして安倍首相案が妥当なのかどうか、維新との間で大いに議論を展開してもらいたい。
(この記事は、2018年5月9日放送のJapan In-depthチャンネルの放送内容を要約したものです。)
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