失策を隠蔽し「大本営発表」繰り返す防衛省:自衛隊の予算を増やすべきか

清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・防衛省がP-1哨戒機等の問題や失敗を隠蔽し、予算要求継続。
・会計検査院の指摘後も情報公開に後ろ向きで、説明責任を放棄。
・装備の効率的運用と情報公開を徹底すべきで予算増額はその後。
6月に会計検査院が、海上自衛隊のP-1哨戒機がこれまで1兆7766億円を投じてきたのだが、稼働率が極めて低いと指摘した。P-1の開発や調達が遅れたこともあり、旧型のP-3Cを多数近代化して凌いできたが、そのコストも含めれば2兆円を超えるのではないか。
防衛省や海上自衛隊はP-1が優れた哨戒機であると宣伝してきた。それを多くのメディアやジャーナリストが盲信して記事を書いてきた。筆者のように調査をしてP-1の問題点を指摘してきたジャーナリストやメディアは少数派だった。このため多くの国民がP-1は世界に誇る哨戒機で、いざ戦争ともなれば大活躍してくれるだろうと思っていただろう。
確かに航空機は採用後も不具合があることは少なくない、だがP-1は多額の改修費と20年近い年月をかけても稼働率が向上していない。これは明らかな失敗作だろう。
だがそれは世にいう「大本営発表」だったのだ。
開発中の評価期間で問題があり、しかも本来やるべき試験すら端折っていた。機体に問題がありつつも、問題ないとして採用して予算を要求してきたのだ。本来採用は不適当とあきらめるべき機体だった。英国はニムロッドMR4を予算超過などの情報を公開し、しかも開発と調達をキャンセルした。例えば同盟国である米国はGAO(会計検査院)や議会調査局が軍の主要航空機の稼働率やミッション達成率を公開して、問題があれば何が問題か、その対策も詳細に明らかにする。米国と同レベルの情報開示を行っていれば、P-1は調達されなかったのではないか。
防衛省と海上自衛隊は「相手に手の内を明かさない」として情報を隠蔽してP-1を採用して2007年以来予算を要求してきた。つまり国会と納税者をだまし続けてきたのだ。これは防衛省や海上自衛隊が文民統制を軽視している証左である。
米国のように問題点を明らかにして議会と納税者の監視を担保できるのと、我が国のように問題点を隠蔽して戦争で国民が痛い目をみるのとどちらが民主国家としてとるべき姿勢か。防衛省のいう「相手」とは納税者と政治家のことではないのか。
7月15日防衛大臣会見で筆者は中谷元防衛大臣にP-1の稼働率を公開するあるいは、一定の期間にいくら費用をかけて稼働率を然るべきレベルに向上させるか納税者に約束する気はないのかと尋ねたが、
>我が国を取り巻く環境に際しまして、これ以上、稼働状況の詳細について明らかにした場合には、有事における自衛隊の対処能力が明らかになりまして、結果として、我が国の安全を害することになりかねないことから、公表することは難しいという実情があるということを是非御理解いただきたいと思います。
と述べてその気が無いという回答であった。
https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2025/0715a.html

▲写真 中谷元防衛大臣 出典:筆者提供
P-1は61機が調達予定で現在35機が調達されているが、その調達計画を見直すかどうかも明らかにされていない。例えば然るべき稼働率まで上げるのに30年かけて、予算が3兆円であれば事実上不可能ということだ。会計検査院から指摘があったのだから、いつまでに、いくらかけて治すという約束をすべきであった。
民主国家の軍隊は、主権者たる国民とその代表である国会議員に可能な限り情報を公開する義務を負っている。国防にどのように、また適切に使われているのかを知るのは国民の権利でもある。だが防衛省の情報開示は民主国家としては落第であり、中国や北朝鮮にはるかに近い。
防衛省が隠ぺいしてきたのはP-1だけではない。プロジェクトが失敗しても開発が成功したと称して延々と調達が続くこと実は少なくない。
2011年に発生した東日本大震災では陸自ご自慢の無人ヘリ、FFOS(遠隔操縦観測システム)、FFRS(無人偵察機システム)は一度も使用さなかった。まずFFOSが特科(砲兵)用に開発され、その派生型としてFFRSが開発、装備化された。防衛省はFFRS開発の目的として「着上陸侵攻や離島侵攻、ゲリラや特殊部隊による攻撃やNBC攻撃、災害派遣などの多様な事態おける適切な指揮活動を実施するためには、所用の映像情報の早期伝達が可能なシステムを保有する必要がある。無人偵察機は隊員を危険にさらすことなく、悪天候やNBC汚染下でも現場の詳細な情報をリアルタイムで映像にて得ることが可能である」としている。まさに東日本大震災で活躍すべき機体だ。
だが一度も飛ばなかった。それは信頼性が低く、飛ばすと墜落する可能性が高く、二次被害を起こすからだった。筆者はこの事実を報じたが、防衛省は記者クラブのキャップクラスを集めたレクチャーで福島第一原子炉の偵察でFFRSやFFOSが飛ばなかったのは固定カメラだと嘘の説明をした。原子炉偵察に使用された民間の固定翼無人機、フジ・インバック社のB型のカメラは固定式だった。防衛省は明らかに記者クラブをだます意図があった。
その後この件は国会で追及され、防衛省の徳地秀士防衛政策局長も信頼性の低さを認めた。だがFFRSの導入から1年であり十分な習熟がなされていないとも言い訳した。しかしながらFFOSは導入から年数がたっており、それには当たらないし、FFRSはその後の熊本の震災などの災害でも一度も使用されたことはなかった。つまりここでも、防衛省は保身のためにその場かぎりの虚偽の説明をしたことになる。
陸上自衛隊は、2018年V-22オスプレイの搭載用車両として、川崎重工の民間向けATV(半地形車輛)をベースにした「汎用軽機動車」として試験調達した。だが運用する予定の水陸機動団で試験したところ、数値の上では車幅はオスプレイに搭載可能だが、実際には不可能であることが分かった。つまり開発は失敗した。この件は筆者が陸幕広報に確認し、量産品を調達予定はなく、後継車両を選定するとの回答を得た。
調達は6両で、契約額は7,743万6千円(契約単価1,220万6千円)。これが無駄になったわけだ。
だが防衛省も陸幕も開発に失敗したことを発表していない。そして能登半島地震において活躍したとか、総合火力演習で登場させるなど新たに採用された最新装備が「役に立つアピール」を行っている。まるで戦時中の大本営発表である。「汎用軽機動車」は水陸機動団では駐屯地内の移動用などに使用されているのが現実だ。

▲写真 軽汎用機動車 出典:防衛省
オスプレイ導入には3600億円以上がかかっているが、車両が搭載できなければ隊員たちは地上で機動力が発揮できず、貨物も運搬もできない。オスプレイの価値は半減する。
そもそも民間型と寸法は同じだったので、それを借りてきて試験すれば多額の費用をかけて試作品を調達するまでもなかった。しかも「汎用軽機動車」は、民間型にディーゼルエンジン型が存在するのにガソリンエンジンを採用している。言うまでもないがガソリンは引火性が強く、オスプレイが被弾したときに極めて危険だし、陸自の車両の多くはディーゼルエンジンであることを考えれば、燃料の確保という兵站面でも問題がある。
陸自の基幹連隊指揮統制システムも失敗したが防衛省と陸幕はそれを公表していない。基幹連隊指揮統制システムは普通科連隊、戦車連隊などが使用、戦術レベルのC4Iシステムとして東芝によって開発され、2007年度より第2師団に配備されて試験された。だが性能が芳しくなく、調達は見送られている。
航空自衛隊のF-2戦闘機は長年レーダーに問題があったが航空自衛隊はこれを隠蔽してきた。特に2004年に調達機数が98機に削減決定となった以降はひどかった。空幕広報の担当者はF-2に何の問題もない、そのような記事が出ているデマだと強弁した。
だが実際には探知距離が設計時の3分の1以下になる、レーダー照準(ロックオン)が突然解除される、自機よりも低い高度を索敵する場合のレーダー視程があまりにも短すぎる、などの不具合があった。その解消には導入後7年以上かかっている。
筆者の取材に対して三菱重工の重役は「レーダー不備があったのは事実だ。それは機体とレーダーのマッチングに問題があった。装備庁(当時)に対処能力がなく弊社が初めから対処していればはるかに短い期間で対処できた」と述べている。三菱重工は主契約者であるがエンジンやレーダーは防衛省から「官給品」として供給されるので機体全体を包括的に扱えない問題があった。現在日英伊で開発中の次世代戦闘機GCAP(Global Combat Aircraft Programme)では実質的に三菱重工がシステムの統合まで責任を負う体制となったがF-2の失敗が生かされたのだと信じたい。
海自の導入したもがみ級フリゲイト(FFM)も失敗作だ。12隻導入されたもがみ級は本来3隻あたり、4組の乗員を用意するクルー制度を導入するはずだった。だが人員の不足で実現しなかった。これまた防衛省も海幕も発表せず、筆者の質問で明らかになった。
1隻に対して、1組しか乗員がいなければ航海後に続けて運用することはできない。複数の乗員がいれば交代で乗り込むことができる。それは艦の稼働率をあげて、また航海期間を短くすることが可能であり、乗員の負担は大きく減る。
例えばアデン沖での海賊対処では派遣艦隊は現在往復で交代しているが、クルー制を導入していれば、別な乗員を飛行機で送り込めば簡単に交代ができ、アデン湾と日本との往復の航海は必要なくなる。その分乗員の航海日数は減ることになる。
もがみ級は個艦の性能だけでなく、乗員が90名ほどと、従来の護衛艦の半分から三分の一まで減らして、それによってクルー制を導入して乗員の負担を減らす「システム」として導入されたのだ。クルー制の導入に失敗したのは、もがみ級の開発に失敗したということになる。またこれは海上自衛隊の募集システムが機能していないという由々しき事態を示していることになるが、海幕に危機感は薄いようだ。
現在もがみ級の改良型の新型フリゲイトが2024年度から2028年度までのわずか5年間で計12隻が調達される計画である。だが筆者のクルー制の導入はあるのかとの質問に、海幕はわからない、と回答している。なおもがみ級は、高い評価と裏腹に、海自の電磁情報隊の検証によればステルス性が極めて低く、HFアンテナに特に問題があるとの情報もある。
防衛装備庁は6月6日、汎用小型UGV(無人車両)の取得方法と、開発を検討するための情報を提供する企業の募集を行った。これはいままでトライアルを行っていた装軌式のテーミス(ミルレム社)、装輪式のミッションマスター(ラインメタル社)の海外製を排除して国産開発をするためだ。
陸自は3つのタイプを想定している。RWSなどを搭載し普通科部隊で使用する「汎用小型UGV(攻撃型)」。偵察部隊などに配備する「汎用小型UGV(偵察型)」。
普通科部隊や施設科部隊等に配備して、補給や負傷者を後送のための「汎用小型UGV(分隊支援型)」だ。
だが今回の募集で示された仕様では速度などいくつかの項目で、露骨な上記に外国製車種を排除するものとなっている。それは国内企業に開発させるためである。
陸上自衛隊へのUGV導入は、岸田内閣が2022年6月に発表した経済財政運営と改革の基本方針2022、いわゆる「骨太の方針」の中で、5年以内に防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出したことを受け、この方針を実現するための方策の一つとして防衛省が進めている「無人アセット防衛能力」構築の一環として行われるものだ。
これから入札をして開発が行われるのであれば採用は少なくとも5年は先になる。更に申せば先述の二車種は世界でトップクラスの性能と信頼性を有しており、すでに多くの国で採用されているものだ。果たして、ろくに開発も運用経験もない陸自と国内企業が、車体やソフトウェアなど開発し、それらを統合してこれら以上の製品を作れるのか。また日本専用のUGVとなれば量産効果もでない。いつものように高額になる可能性は極めて大きい。
筆者は世界中のUGVを取材してきたが、我が国にそのような実力があるようには思えない。UGVの運用実績が全くなく、開発の経験もない装備庁、陸幕、メーカーが、すでに運用実績を積んだ世界の軍隊が認めるUGVを凌駕する性能を要求して、それを満たす国産品が開発できるのか。
陸自には「前科」がある。隊員が携行できる小型UGV「爆発物処理ロボット」を長年かけて日立を主契約として研究したが、目標とされる小型化が実現せず、また東日本大震災の福島第一原子炉内部の偵察でも使用されなかった。この件は非常時であり、試作といえども役にたつならば投入すべきだった。実際「試作レベル」の千葉工大のUGVが投入されている。また米国のiロボット社のUGVも投入され、事後防衛省は同社のUGVを調達している。その後開発は中止されている。国産UGVはおそらく会計検査院が報告書で低稼働率を指摘した海自の哨戒機、P-1と同じ運命をたどるだろう。

▲写真 技本(当時)が施設科向けに開発していた爆発物処理ロボット 出典:筆者提供
民主国家の軍隊は文民統制の観点から、極秘情報を除いてできるだけ政治家を含む納税者に組織の情報を開示し、説明責任を果たす必要がある。だが防衛省と自衛隊は落第レベルだ。それは便民党性が機能していない、ということである。
現在の防衛5か年計画では5年間に43兆円の防衛費を使うとしており、以前のGDP比1パーセント時代に比べて、1.6〜1.8倍の比率に増大している。そして米国からの圧力もあり、防衛費をGDPの2~3パーセントに増額すべきとの声も大きい。
だが本稿で示したように多額の税金を使って調達した装備が機能していない、それを防衛省も自衛隊も隠している。他の装備も同様である可能性は否定できない。これを放置して防衛費の増額をすべきでない。8月末には防衛予算の概算要求が発表されるが、まずは防衛省と自衛隊は情報公開を徹底し、防衛費の効率的な使い方を議論すべきだ。
トップ写真:FFRSの元となったFFOS 出典:筆者提供
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)
その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)
- ゲーム・シナリオ -
●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2002〜有事法発動の時〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2003〜テロ国家を制圧せよ〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)












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