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.政治  投稿日:2025/8/1

P-1哨戒機の高コストと低稼働率:会計検査院報告が示す課題


【まとめ】

・P-1哨戒機は高コストかつ稼働率が低く、隊員不足の中で維持が困難であり、会計検査院報告も問題を裏付けた。

・MQ-9B無人機やSTOL型の対潜・早期警戒型を導入し、有人機部隊の削減・効率化を進めるべき。

・限られた防衛費と人員を有効活用するため、装備共用化、省力化、米国依存低減を図る必要がある。

 

 

筆者はかねてから海上自衛隊の哨戒機、P-1の稼働率の低さと維持費の高さが問題であると指摘し続けてきたが、6月に発表された会計検査院のP-1に対する報告書はこれを裏付ける内容で、関係者に衝撃を与えた。

 

P-1採用後10年という年月と多額の改修費をつぎ込んでも、稼働率は改善しなかった。会計検査院の報告書は稼働率向上を期待するとしていたが、10年たってできなかったものが今後できるわけがない。改善するにしてもその間哨戒機の稼働率が低いままでいいはずがない。P-1の用途廃止も含め対策を政治決断すべきだ。P-8と無人機のコンビネーションなど代案を考えるべきだ。

 

海自は昨年11月15日、海上哨戒用無人機として米ジェネラル・アトミクス社製の「シーガーディアンMQ-9B」を、双日を主契約者として選定したと発表した。23機を導入する計画で、1機あたりの取得費は約120億円を想定している。

 

だが海自はそれに伴っての有人哨戒機部隊の削減については沈黙している。また海自の導入するMQ-9Bは洋上哨戒のみの仕様であり、対潜哨戒は任務としていない。これはできるだけ有人哨戒機部隊を減らしたくないという海自内の勢力に配慮したのであろう。

 

だがP-1の稼働率は低く、旧型のP-3Cは退役していく。更に申せば、海自の隊員不足は極めて深刻である。仮に有人哨戒機部隊を削減せずに、新たに無人哨戒機部隊を立ち上げるのであればその人員をどこから確保するのだろうか。本来こういう構想は予算要求時に明らかにするべきものである。

 

MQ-9Bにはそのブイなどを搭載した対潜哨戒用のパッケージが存在する。本来これを導入して、有人哨戒機を削減するという構想を披露すべきだ。例えばP-1は現在35機あるが、計画では61機調達することになっている。だが、これ以上の調達を止めて、MQ-9Bの対潜哨戒型を導入するといった感じだ。なおMQ-9Bの対潜キットは取り外し型なので、あとからキットを調達することも可能だ。逆に人手不足で観艦式も廃止するのに、MQ-9Bの部隊を新設する要員をどこから確保するのか。

 

 さらに海自はMQ-9Bの艦載型であるMQ-9B STOL(短距離離着陸)の対潜型と早期警戒型をいずも級ヘリ空母に搭載すべきだ。これは通常型の主翼と尾翼を変更するオプションキットを用いて、24時間以内にSTOL型への変更ができるもので、主翼は折りたたみが可能である。カタパルトやアレスティング・ワイヤーが装備されていない強襲揚陸艦やいずものような軽空母、ヘリ空母での運用が可能である。

 

2023年11月17日、MQ-9B の同型型の無人機、MQ-1Cをベースとした技術実証機「モハベ」が、イギリス海軍クイーン・エリザベス級空母「プリンス・オブ・ウェールズ」での発着艦訓練に成功している。英海軍は同クラスの空母用として、現在マーリンHM2ヘリコプターに搭載したクロウズネストを運用している。マーリンは海自が運用しているMCH-101と同型だ。だが早期警戒型を現在のヘリ搭載型の早期警戒システムの後継とて2030年代に導入する模様だ。ヘリコプターを使用した滞空時間は数時間と短い。

 

英海軍はサーブ社が開発したMQ-9B 用の早期警戒ポッドを搭載した早期警戒型をクロウズネストの後継に考えている。このシステムはサーブの早期警戒機であるグローバルアイに搭載したSバンドの早期警戒レーダーをベースに開発されたものだ。探知距離はグローバルアイの約9割程度とされている。

 

海自にはクロウズネストのような独自の早期警戒機が存在しない。いくらイージスレーダーのような優秀な戦闘艦のレーダーでも水平線を見越して探知はできない。このため、レーダーの索敵範囲が狭く、また水上艦のレーダーの死角からの攻撃、特に低空からの攻撃機や巡航ミサイルなどからの奇襲攻撃を受けやすい。

 

それを補うためには上空から探知ができる早期警戒機を飛ばす必要がある。空自はE-2Cを早期警戒機として運用し、新たにE-2Dを採用したが常時艦隊上空にとどまれるわけではない。カタパルトを持たない軽空母であるいずも級ではE-2Dは運用できない。因みに筆者は2015年にいずも級で早期警戒型の無人機を運用することを提案している。日本の空母保有は現実的か?~マンガ「空母いぶき」のリアリティ その3~

 

 このMQ-9B STOLの早期警戒型は12時間のミッションが可能である。三機あれば24時間の早期警戒が可能だ。機体はポッドを取り換えるだけで対潜哨戒型となる。両方を併用すれば予備の機体も共用でき、整備も共用できる。5機で24時間の警戒が可能だろう。

 

また有人機よりクルーの損耗は遥かに小さい。ヘリを使う場合早期警戒にしても、対潜にしても滞空時間は数時間で24時間運用するならば相当数の機体が必要だ。しかも艦載ヘリの操縦者は適性が厳しく、海自では今後その要員を確保するのは難しい。整備も回転翼機は大変で、整備員の数も固定翼無人機より必要である。無人機を導入すれば艦載ヘリの負担は大きく軽減するし人員の手当てもつけやすい。

 

 当然ながら陸上用のMQ-9Bとエアフレームは殆ど同じなので、整備や教育も共用化できる。

 

 海自だけではなく、空自もMQ-9Bの早期警戒型が必要だ。現在はE-2CからE-2Dへと更新されているがE-2Dの滞空時間は6時間、これに空中給油機能を付加しても8時間でしかない。現状空自のE-2Dは給油受油機能は付加されていない。E-2Dは居住性が劣悪であり、滞空時間が伸びると乗員の負担は極めて大きくなる。居住性の悪いE-2Dは要員の確保という面でも問題がある。そして実は稼働率が低いという問題がある。

 

またプロペラ機であり巡航速度が約時速500キロと遅く生存性も低い。特に昨今は中国などが導入している「AWACS(空中早期警戒指揮管制機)キラー」と呼ばれるPL-15のような長距離ミサイルの登場もあって生存性はさらに下がっている。PL-15の射程は200キロから300キロ、更に新型のPL-17は射程が300km~400km推定されている。実際に今年発生したインドとパキスタンの空戦ではパキスタン空軍の空戦ではPL-15が使用されている。

 

 空自の早期警戒機能を維持すためには無人型の早期警戒機の導入、更に有人機の更新も必要だろう。空自のASWACS(空中早期警戒指揮管制機)であるE767も導入から四半世紀が過ぎて更新の時期にきている。

 

 空自の無人機早期警戒機もグローバルアイBに早期警戒ポッドを搭載したものがふさわしいだろう。理由はいくつかある。MQ-9Bシーガーディアンは既に海自が導入を決定しており、整備や訓練、運用を共用化できる。また海上型のシーガーディアンであれば海自同様に、海上監視も可能となり、海上監視を強化することができる。先述のようにいずも級でSTOL型を運用するのであればなおさらである。また米国以外にもインドや台湾などが運用しており、有事の部品供給などの面でも有利である。

 

 E767の後継機は従来であれば米空軍の採用したボーイングE-7ウエッジテール一択だったろう。だがここ数年で事情はかなり変わっている。まずボーイングの経営と能力が劣化していることだ。737の墜落事故多発が象徴的だが、空自も導入している空中給油機、KC46Aも機能不全や不具合が多発し、生産も遅滞している。F-15の生産でも問題が発生し、生産数も月産2機程度と少ない。そして我が国のF-15近代化も遅延、高騰化している。これは我が国がスタンドオフ兵器の運用も盛り込むなどしたことも原因だが、基本的にはボーイングの能力不足である。

 

 この背景にあるのは米国式の強欲資本主義の行き過ぎにある。製造業として必要な工場などの設備や社員に対する投資、中長期的な研究開発を削って投資家への配当と自社株買いによる株価つり上げに奔走してきたために、メーカーとして能力が極めて低下している。

 

 E-7は値段が高騰している。今年韓国の早期警戒機入札からもボーイングは価格高騰のために辞退している。更に米空軍も価格高騰などを理由にE-7の調達をやめている。E-7が魅力的だったのは米空軍が大量に採用し、定期的にアップデート改修をすることで継続した能力向上が比較的安価に実現できる。空自がE-2Dを採用した一つの理由に米海軍による継続的なアップデートがあったからだ。

 

 そうなるとサーブのグローバルアイがE767後継の選択に入ってくる。本機はエリアイERレーダーシステムをグローバル 6000に搭載したものだ。探知能力はE-2DやE-7に匹敵しており、リンク16も搭載している。米軍との相互運用性にも問題がない。エリアイシステムを搭載した早期警戒機は本国スウェーデン以外でも多くの採用実績があり、今年フランス空軍もグローバルアイの導入を決定した。

 

仮にシーガーディアンの早期警戒型を導入するのであれば、グローバルアイと基本レーダーシステムは同じなので教育や兵站が極小化できる。E767の後継だけではなく、E-2Dの後継も念頭に入れるべきだろう。既存のE-2Dは米海空軍やフランス海軍に売却することも可能であろう。米空軍はE-7導入をキャンセルしてリソースをAMTI(空中を移動する目標の認識能力)を備えた衛星とE-2Dに変更する予定だ。個人的にはこの決定には現実性が低いように思う。E-7が生存性が低いといいながらさらに生存性の低い、E-2Dを海軍と共用できるからというロジックは無理がある。

 

更に米国製以外の装備の選択を増やす必要がある。トランプ政権は海外に対する軍事技術の提供を嫌っている。このため意図的に能力を下げた製品しか供給されなくなったり、急に部品などの輸出が止められたりする可能性もある。自衛隊、特に空自は米国一辺倒だが距離を置き、装備調達の拡散を図るべきだろう。

 

仮にP-1が廃止され、P-8が導入されるのであればグローバルアイのシステムを、P-8と同じ737に移植する手もある。737の機体はかなり大きくなるが、P-8と共用でき、哨戒機と早期警戒機の教育や兵站の共用化も可能だ。更に民間でも整備できるし、部品の入手も容易で安価だ。

 

レーダーの搭載工事は川重の子会社の日本飛行機あたりにやらせればいい。12機ぐらい調達するのあれば単価はさほど上がらないだろう。なんならそのタイプを輸出してもいい。ただグローバル2000含むボンバルディアCRJは三菱重工がMRO(メンテナンス・リペア・オーバーホールの権利を獲得しているので、そのまま導入しても日本企業にお金は落ちてくることになる。

 

あるいはP-1を用途廃止にするのであればその機体の流用も可能だろう。P-1の機体にグローバルアイのシステムを搭載する。維持費はグローバル 6000や737よりは高くなるが、国有資産の有効活用となる。高空を飛ぶのであれば塩害によるエンジントラブルも減るはずだ。またエンジン同様にトラブルの多い富士通の光学電子センサー・マウントは必要ないので、これを外すことによって、稼働率は上がるだろう。

 

何よりGDPの2倍の財政赤字を抱える我が国がGDP比で2パーセントとか、3パーセントとか野放図に防衛費を増やせるはずはない。限られた防衛費を有効に使い、装備運用の効率を図るべきだ。

更に隊員の不足への対処にもなる。自衛官のなり手は減っており、いくら防衛費を上げても充足率は向上しない。そうであれば規模の縮小と省力化は避けられない。

 

今月防衛省は今後「観閲式」や「観艦式」、「航空観閲式」を廃止することを発表した。通常任務に加えてこれらの儀式をすることは充足率が下がっている現場の部隊に過大な負担をかけるからだ。

省力化や隊員の負担を以下に減らして隊員を確保し、またやめないような環境づくりをしていかないと自衛隊は自壊するだろう。だから装備調達や運用環境もそのような視点で行わなければならない。

写真)哨戒機「P-1」

出典)海上自衛隊HP




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