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.経済  投稿日:2025/8/14

戦後80年の教訓:戦争は経済的利害でおきる


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・戦争は経済的な利害、特に利権獲得を目的として行われる。

・軍部と産業界が一体となった「軍産複合体」が戦争を通じて利益を拡大してきた。

・財閥は戦争によって重工業や金融などの多角的な事業で急成長した。

 

「儲かるから戦争を始めたんだよ」と上智大の八代尚宏先生に言われたことを今でも思い返す。日米関係史を専攻し、新たに国際経済学のゼミにも入ろうかと思った筆者が大学2年生の入ゼミ試験で直接言われたことだ。八代ゼミには途中でいかなくなったが、その言葉は強烈に覚えている。日本の歴史は政治でしか語られないことが多い。私もそれまで軍部の暴走くらいにしか考えていなかった。

戦争をするにもお金がいる。国家予算から予算を確保し、人員や武器、装備を揃える必要がある。そのためには、兵器も作ってもらわないといけない。産業が未熟では困るので、ある程度頑張ってもらわないといけない。産業育成もしなくてはいけない。こうした中、軍部と産業界が一体となった「軍産複合体」。これが戦争の過程で儲かったのだ。こうした社会構造を戦後80年、あまり問題視されてこなかった。

◆儲かるから利権を求め、戦争とともに財閥は成長

戦争の最大の目的は、利権獲得である。領土を得て、そこから利権を得るために戦争して侵略する。コストをかけて、メリットを得る。領土を得ても、コストがかかりすぎて経済的に回らないなら意味がない。それなりのメリットがあるから戦争をして侵略するわけだ。

日本の軍国主義も同様である。植民地経営での利権、まずは満州をみてみよう。満州における利権構造は、軍事・経済・政治が複雑に絡み合った国家的プロジェクトであったこと。財閥、特に新興財閥が軍部や官僚と連携して巨額の利益を得ていた。日産コンツェルンは、満州重工業開発(鉱山・製鉄・機械工業)で鉱山採掘権を買収し、三井・三菱は鉱山・貿易・金融面で資源開発や商業活動を展開。満鉄は医薬品名目でアヘンを製造し、合法・非合法市場に供給していたとも言われている。

特に、産業界は、軍部や官僚から鉱山・工場の採掘・操業権を取得、満州国政府との密接な関係を通じて優遇措置を獲得し、満鉄や現地企業との合弁・提携でインフラや流通網を確保し、資金調達や政治工作に協力していた。こうした構造はさらに続き、太平湯尾戦争においても、三井・三菱・住友・安田などの四大財閥は、重工業・金融・鉱業・海運など多角的な事業を展開、戦争による軍需拡大で急成長していった。

◆戦前、財閥が力を持ち、軍部は共存共栄そのサポート

戦前、軍需契約や国家主導の資源配分によって財閥系企業が優先的に事業を展開できたという。財閥系企業は軍部の戦争遂行に必要な重工業・金融・海運・鉱業などのインフラを提供し、軍部は財閥に対して軍需契約を優先的に与え、財閥は軍艦・航空機・兵器を製造して、利益を拡大。軍部の要求に応じて生産体制を整備し、戦争に不可欠な役割を果たしていたため、GHQは財閥を「軍国主義の経済的基盤」と見なし開催されることになる。

「軍産複合体」、これが戦争の本質の1つである。国民を守るというのは建前であって、真実はある一部の方々(末端の労働者やその家族も含む)のためのために戦争が行われ、その利益を守るためにその他の方々はうまく利用されたといっても過言ではない。

◆戦後の平和教育の限界

その意味で、戦後80年、議論は不足していた。軍隊を持つか持たないか、憲法をどうするか、という空虚な論争が続いた。日本では義務教育レベルでの平和教育が進んでいて、世界最高レベルの内容と思えるほど発達したことはいことだとは思う。平和を尊ぶあるべき姿、価値観、主張としては素晴らしいし、東京大空襲の悲惨さを伝えることは本当に素晴らしい。戦争についてのリアルさがなくなっている今だからこそ、というのもわかる。しかし、誰も戦争などしたくないし、やりたくないが、人間は争ってしまうものでもある。

先人たちも、水、土地、メンツを巡って争ってきた。他人などどうでもいいと考えている一部の権力者の考えで相手を蹂躙したり、利害や面子などの利害対立が行われたり、小競り合いが発展し、争いになったり様々なケースはあるが、戦争はその極端な例でしかない。何かを巡って争ったり、奪われたり、奪ったり・・人間社会には争いはつきものである。歴史的には過去にはたくさんあった。国民国家になってから戦争というものが高度化し総力戦になった。そして、その総力戦も「国のため」という名のもと、実際は、一部の利権を得る人たちのために戦争を行っていたのだ。戦争は軍部が暴走した、という解釈で終わらせてはいけないのだ。

◆だからこそまずは企業団体献金廃止を

310万人の方が亡くなった戦争。我々はその方々の犠牲の上、その後の諸先輩方の努力の上に、いきている。

国の名誉や個人的な指導者の功名心、国民の不満解消などで戦争が始まることは確かにある。しかし、多くの戦争は裏に利害関係がある。少しでも交渉条件をよくするための手段として戦争をしている。国際政治の面もあったとしても、やはり権益をめぐる戦いであったわけだ。軍部に提供する武器や資材で軍事ビジネスはさぞ儲かっただろうし、偉い階級の人たちはそれなりにいい暮らしもできた。「軍産複合体」のような構造を二度と起きないようにすることが日本の宿題だろう。

筆者が現在、企業団体献金廃止(利害関係のある個人献金も)を主張していること(活動詳細)もその理由の1つである。ある一部の勢力が政府方針、政治を動かす、最悪戦争まで引き起こす可能性があることを我々は改めて理解しないといけないだろう。それこそが戦後80年の教訓にしないといけない。

トップ写真:満州国(中国北東部の満州)の役人たちが、元旦に中国最後の皇帝であり満州総督ヘンリー・溥儀(1906年 – 1967年)に敬意を表している(1935年頃)出典:Hulton Archive/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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